微生物のエネルギー代謝と老化研究

栄養素をはじめとする有機分子を分解することでエネルギーを獲得する異化と、逆にエネルギーを使って自分にとって必要な生体成分や有機分子を合成する同化に大別される代謝経路の大部分は、20世紀までに徹底的に解明されました。ところが最近、代謝系の中間体や補因子など、これまで単なる材料と考えられてきた生体内代謝物質に思いもかけない重要な役割があることが見いだされてきました。例えば、細胞内の酸化還元反応に重要なNAD+は、ADPリボシル化や脱アセチル化などタンパク質の翻訳後修飾を通じて、酸化還元とは独立してがん化や老化などの生体機能を制御していることが明らかになっています。こうした代謝物は、本来の代謝系での役割とは独立にタンパク質翻訳後修飾を変化させることで転写因子、シグナル因子、エピジェネティクス因子、代謝酵素等の機能を変換していると考えられます(図1)。このように、ごくありふれた代謝物やその中間体が思わぬ活性を持ち、それらが周囲の環境変化によって変動し、適応や恒常性変化を通じて生命体の運命に大きく関わる可能性が現れてきました。私たちの研究室では、高等生物のモデルとして酵母を用い、(1)環境変化に応答して代謝物がどのように変動するのか、それらがどのような分子と相互作用するのかを最新のメタボローム解析技術、イメージング技術で明らかにし、(2)代謝物のもつ新しい活性を広く探索・同定するとともにその生理的な意義を解明することによって環境変化や疾患における代謝の役割を理解し、(3)最終的に代謝を積極的に制御することによって老化の抑制や物質生産の新しい技術開発につなげることを目標とした研究を行っています(図2)。

図1
図2