!!!2010年 冬学期 第3回 物性セミナー !!講師 吉信 淳氏(東京大学物性研究所・ナノスケール物性科学研究部門) !!題目 固体表面と有機分子の相互作用 !!日時 2010年 11月 26日(金) 午後4時30分 !!場所 16号館 827 !アブストラクト 固体表面と有機分子の相互作用は,表面化学だけでなく表面物理やナノサイエンスの分野でも重要である.前者では,有機分子が固体表面においてどのように振舞い,化学反応(触媒反応)が起こるのかが,分光法や顕微鏡法を用いて研究されてきた[1,2].後者では,有機EL,有機半導体,有機太陽電池などの有機デバイスの研究・開発が,最近活発に行われいる[3].これらのデバイスでは,有機分子-電極や有機分子-有機分子などのヘテロ界面の物性が鍵を握ることが認識されつつある[4].本講演では,これらに関連した我々の研究から最近のトピックスを二つ紹介したい.  一つめは,遷移金属表面における炭化水素の水素化・脱水素化反応のモデル系として, Rh(111)におけるシクロヘキサンの吸着である.シクロヘキサンは環状飽和炭化水素であり,金属表面との相互作用は弱い.吸着状態を振動分光で調べると,CH伸縮振動(νCH)の一部が著しくブロードでレッドシフトすることが従来から分かっていた[5].第一原理計算により,レッドシフトの原因は,金属表面の電子がCHのσ*軌道へわずかに流れこむためであることが示された [6].しかし,ブロードニングの原因はよくわかっていなかった.20K〜100Kの領域でνCHの振る舞いを詳細に調べることにより,吸着したシクロヘキサンの束縛モードの熱励起がブロードニングに関与していることを明らかにした[7].  二つめの話題として, F4-TCNQと固体表面との相互作用を紹介する.F4-TCNQは5.24eVという大きな電子親和力を有するアクセプター分子である.有機薄膜や半導体へのp型表面ドーピング[8]や,F4-TCNQを吸着させて電極表面と有機薄膜とのエネルギー準位アラインメントの制御に応用されている[9].電極表面でのF4-TCNQのモデル系として,Cu(100)における吸着状態を研究した.基板からの電荷移動によりF4-TCNQがアニオン的(F4-TCNQ-)になるだけでなく,シアノ基(-C≡N)とCu原子が直接相互作用することがわかった[10].さらに,Cu(100)表面をSTMで観察すると,F4-TCNQの吸着により,ステップの再構成やエッチングも観測された.つまり,単に基板から分子への電荷移動が起こっているだけではなく,表面Cu原子の再配列引き起こすような強い相互作用が生じている. [1] G. Ertl, “Reactions at Solid Surfaces” (Wiley, 2009). [2] G. A. Somorjai and Y. Li, “Surface Chemistry and Catalysis, 2nd ed.” (Wiley, 2010). [3] R. Waser (ed.), “Nanoelectronics and Information Technology” (Wiley-VCH, 2005). [4] J. Fraxedas, “Molecular Organic Materials” (Cambridge, 2006). [5] T. Koitaya, A. Beniya, K. Mukai, S. Yoshimoto and J. Yoshinobu, Phys. Rev. B 80 (2009) 193409. [6] J. E. Demuth, H. Ibach, and S. Lehwald, Phys. Rev. Lett. 40(1978)1044. [7] Y. Morikawa, H. Ishii, and K. Seki, Phys. Rev. B 69(2004)041403. [8] W. Chen, D. Qi, X. Gao, and A. T. S. Wee, Prog. Surf. Sci. 84, 279 (2009). [9] S. Braun and W. R. Salaneck, Adv. Mater. 21, 1450 (2009). [10] T. Katayama, K. Mukai, S. Yoshimoto and J. Yoshinobu, J. Phys. Chem. Lett. 1(2010) 2917. !宣伝用ビラ {{ref KMB2010-1126.pdf}} !物性セミナーのページ http://huku.c.u-tokyo.ac.jp/cgi-bin/FSwiki/wiki.cgi/BusseiSeminar !駒場セミナーカレンダー(駒場内のみアクセス可) http://huku.c.u-tokyo.ac.jp/cgi-bin/webcal/webcal.cgi