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本ページの内容には低温・高圧力を発生する物があります。工作・使用は自己責任で行ってください。

液体アルゴン封入加圧装置



84 Kでアルゴンを加圧中の写真
(概要) 超高圧対向アンビルクランプセル 全体を温調することにより確実に液体アルゴン(沸点87.3K, 凝固点83.8K)を圧力伝達媒体として封入できる。 アルゴンのような希ガスは固体状態でも柔らかい為、10GPa程度でも高い静水圧性を保つことが知られています。 断熱のためジルコニア製ピストン/プレス台を使用し、ピストンと同軸上にクランプ用の回転軸を導入しています。

液体アルゴン封入加圧

高圧装置を用いて試料を加圧するとき、試料の周囲を埋める圧力伝達媒体に何を使用するかということが問題となる。 初期の頃は、パイロフィライト、NaCl、AgCl等固体媒体が盛んに用いられて来たが、固体媒体の場合は試料に加わる応力が一軸性のものになる上に、試料室内の圧力分布も非常に大きい。 低温物性物理において圧力依存性を測定する場合によい静水圧性はとても重要であるので、今日では液体媒体を用いるのが普通となっている。ただし、常温常圧で液体であっても超高圧では必ず固化するし低温ではなおさらなので、固化(ガラス化)圧力が高くかつ固化しても体積変化が小さく柔らかい物質が求められている。 よく使用されている物としては、フロリナート(1GPaで固化)、スピンドル油/Daphne7373/7474(2-4GPa)、グリセリン(6GPa)、石油エーテル/n-ペンタン・イソペンタン1:1混合液(7GPa)、メタノール・エタノール4:1混合液(10GPa)が挙げられる。 これらの液体媒体では固化圧力の高い物ほど体積変化や試料への影響が大きく、媒体を使い分ける必要がある。
 液体媒体の限界を打ち破る物として、ガス媒体(He,H2,Xe,N2,Ar等) が知られている。 ガスと言っても使用環境では分子性結晶の状態であるが、固化した後も分子同士は弱いファンデルワールス結合で結びついているので柔らかい。 ガス媒体はルビー蛍光の線幅から、固化した液体媒体よりも良好な静水圧性が得られることが知られている。 ただし、沸点が低いので低温で液化した状態で封入する作業が必要となる。ガス媒体として一般的なアルゴンは、沸点が液体窒素よりも少し高いぐらいで9GPa以上でも静水圧性を保つことができ、価格もリーズナブルである。 他にも、プロトンを含まないのでH-NMRを行うことができるというメリットがある。ただし、アルゴンを封入する際の問題は沸点(87.3K)と凝固点(83.8K)が近いことであり(格子エネルギーが弱い)、単に液体窒素で冷却しただけでは固化してしまい失敗する。 現在、ダイヤモンドアンビルセル(DAC)を用いてアルゴン媒体を封入することはすでにいくつかの研究グループでルーチンに行われている。 DACでの封入では、液体窒素からの距離を調整しながらカメラでモニターしつつ液体アルゴンを伝わせるのが伝統的な手法となっている。 この方法は、サイズと荷重が小さいDACでは有効であると思われるものの、遥かに熱容量が大きいWCアンビルのクランプセルでは現実的ではない。 そこで、クランプセル全体を液体アルゴンで完全に浸した上で荷重印加とクランプを行える装置を開発することとした。

図1:封入加圧装置
デュワー(左)とインサート(右)。

図2:液体アルゴンを溜めた状態
フランジを開けた中に液体アルゴンの液面が見える。
液面が白くみえるのは水蒸気が凍ったため。
 図1の写真のような装置をハンドプレス機の中に設置して使用する。デュワーの外側の液体窒素槽により、アルゴンが液化されて内側の空間に満たされる仕組みである。 荷重(10tまで)は断熱性の良いジルコニア(アルミナ強化部分安定化)で支えるようになっている。 また、ピストンと同軸上にクランプする為のトルク伝達部を導入している。各部はOリングでシールしているので、効率的にアルゴンを液化できる。 試行錯誤の後、以下の通りの封入と加圧の手順に行き着いた。
  1. 真空引き後アルゴン置換。以降レギュレーターと安全弁で1.2atmに保つ。
  2. 荷重を少しかけてガスケットを型押し(プリプレス)。その後ロードを抜いておく。
  3. 30分以上かけて冷却した後、Pt温度計とフィルムヒーターで銅管部の温度を84.5Kに温調する。
  4.  液体窒素を満タンにしてもアルゴンが流れなくなったときに液体アルゴンが十分貯まったと判断する(図2)。このとき上部に置かれた別の温度計は84K程度になる。
  5. 2.5GPa程度になるまで荷重を加える。
  6. 荷重を加えたままヒーターで290Kまで温度を上げる。このとき3GPa程度になっている。
  7. 必要であればさらに加圧する。
  8. クランプした後脱重して取り出す。
上記の方法でほぼ確実にアルゴン封入を行うことに成功している。 ルビー蛍光法(図3,4)を使い、アルゴン中に9GPaが発生できていることを確認している。



図3:モアッサナイト嵌め込みWCアンビル
コーン状のモアッサナイトがWCアンビルの凹みに接着されている。 ルビー蛍光の観測は背面から光ファイバーを通して行う。

図4:アルゴン中のルビー蛍光スペクトル
8.8GPaにおいても常圧と変らない線幅になっている。 アルゴン圧力伝達媒体により高い静水圧性が保たれていることを示す。

設計図


液体アルゴン封入加圧装置の設計図(PDF

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