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 Vol.37 2010年 6月号 原子力国際専攻特集

Vol.37 6月号 別冊
フランスで、原子力で、世界に、貢献

 フランスと日本は原子力発電を継続的に利用してきた原子力先進国です。
 今回はそのフランスに拠点を置く原子炉メーカー「ATMEA」にて、副プロジェクトマネージャとして活躍する金川孝さんにエンジニアとして原子力に携わるということやフランス・海外で働くというグローバルな視点、ご自身の学生時代に関してフランス・パリにてお話を伺いました。



Q.会社について教えて下さい。

 ATMEAは三菱重工業株式会社とフランスの原子力企業アレバとの共同出資により設立された会社です。世界的なエネルギーの需要増に応えるために、大型原子炉の開発実績がある2社が協力し、より経済性・安全性に優れた「ATMEA1TM」という中型の原子炉を、よりスピーディに市場に投入するために設立されました。
 大型の原子炉を導入する場合には、莫大な初期コストがかかることや、大容量の送電線網が必要であることなどの条件があります。このため、特に発展途上国にとっては最新型の原子炉を導入することが困難となっているので、これらを解決するために中型の原子炉について開発から、設計、マーケティング、販売、建設などのすべてを行うのがATMEAです。



ATMEA 株式会社
副プロジェクトマネージャー
金川孝さん

Q.原子力業界についてどのようにお考えですか?

 原子力は放射線治療や発電などに利用されており、今後も利用の範囲は広がっていくと思います。実際に、原子力発電は発電の過程で二酸化炭素を排出しないことから、環境問題やエネルギー問題に対する解決策として、非常に注目を集めています。近年では「原子力ルネサンス」とも言われているようです。十数年後に原子力発電所を建てる予定がある国はアメリカ、南アメリカ、アジア、ヨーロッパ、アフリカ、ロシアなど世界中にあります。これらから分かるように今後、世界中で原子力の利用が進んでいくというのは必然であると思います。

 火力発電は燃料の量に大きく依存するものですが、原子力発電は少量の燃料で発電ができます。また、原子力発電は高い技術力に依存する部分が多いことから、資源は無いが、技術力がある日本にとっては適した電源であると思います。


Q.どのようなお仕事をされているのでしょうか?

 ATMEAでは原子炉を設計する際に、原子炉の仕様を定めるために、設計の段階を概念設計、基本設計、詳細設計の3段階に大きく分けて行っています。例えば「ATMEA1TM「の概念設計では、地震が起こった場合の耐震性や、飛行機が衝突した場合の耐久性をどのくらいに設定するかということなど、約百数十項目の事柄を決定します。基本設計ではそれらの概念に基づいて、具体的にシステムや機器の設計を行います。


新型原子炉「ATMEA1TM
設計分野ごとに各エキスパートが担当をすることになるのですが、副プロジェクトマネージャーである私の仕事は、各項目について全体像を把握し、きちんとプロジェクトが進むように全体を俯瞰し、方向付けを行うのが主な仕事となっています。

 現在「ATMEA1TM」は基本設計を終えた段階で、今後は詳細設計を行っていくことになります。


      新型中型原子炉「ATMEA1TM」の設計段階


Q.海外でエンジニアとして働くことの面白さ、辛さについて教えてください。

 海外に行くと日本とは異なった考えを知ることができるので、そういう点は非常に面白く感じます。例えば、原子炉の設計の際に、日本は原子炉の容器の中身を決めてから、容器を設計するのに対して、フランスでは容器を設計してから、その中身を設計するということがありました。生活面での違いも面白く感じます。

 辛いこととしては大学院を修了し、仕事を始めたばかりの頃に海外に出張する機会があったのですが、やはり英語に関して苦労することがありました。そこでは私が英語でプレゼンテーションをする機会があったのですが、質疑応答時の質問が聞き取れずに、3回聞き返しても聞き取れず、結局答えることなく終わってしまうことがありました。また、現在もフランス語で仕事をする機会があるのですが、中々理解できないこともあります。しかし、個人によって異なると思いますが、私はそれらを総合的に考慮しても、やはり面白いと感じることの方が多いです。


Q.日本人であることのメリットはどのようなものがありますか?

日本人は、比較的信用されやすいということがあるかもしれません。私の同僚のフランス人は、日本人と言う言葉の定義自体が正直であるということになっていると言っていました。しかし、実際に私が仕事で一緒に働いてみて思うことは、どの国の方もほとんど違いはないということです。


Q.将来海外でエンジニアとして活躍するために、学生のうちに行っておいた方がよいということはありますか?

 語学が必要であるということは、言うまでもないと思います。語学以外では、日本のことを知っておく必要があると思います。私の場合、フランスへ行っても、フランスの文化を尋ねられることはありませんが、日本の文化に関して尋ねられることは多いです。そういった場合に実際に役に立つのは、自国に関する知識です。これらの知識はコミュニケーションをスムーズにさせると思います。

 一番大事なのは、好奇心や何事にも興味をもって取り組むことだと思います。学生の皆さんは今後海外に留学する機会がたくさんあると思います。その時に、失敗したらどうしようということなどは考えずに、自信をもって取り組んだらいいと思います。若い人が間違えたり、失敗したりするのは当たり前だからです。社会に出たら行動するかしないかで評価されることもあるので、これらは非常に重要です。これらの経験を学生の内に積んでおくことは将来必ず活きてくると思います。


Q.学生の頃はどのような学生でしたか?

 サークルはジャズをしており、学生時代6年間ずっと行っていました。また、趣味でバイクを走らせたりもしていました。学校の成績はほどほどだったと思います。今思い返してみれば学生の内にすべてのことをより一生懸命にやってみればよかったと思います。なんとなく時間を過ごすということをしないようにするのが大切だと思います。


Q.学生の頃に研究されていたことは、現在の仕事でも役に立っていますか?


私の場合、研究していた内容が直接、仕事内容につながったということはなかったのですが、研究の過程において身に付けたことは役立っていると思います。特に原子力とは何なのかということを考え、教わり、自分なりの答えを持つことができたということは非常に役に立っています。また、エンジニアリングは専門的な知識がそれぞれの分野において必要ですが、考え方や方法論はすべて共通しているので、学生時代に勉強や研究をした際に身に付けた考え方や方法論も役に立っています。


新原ATMEA 株式会社の皆さんと
広報アシスタント
Q.最後に読者へのメッセージをお願いします。

原子力の道に進み、原子力とは本質的にどういうものなのかということを考えることは、一生をかけるほどの意味があると思います。原子力の領域は工学、社会学、医療学、安全学など多岐にわたり、いろいろと考えることがあると思うからです。もちろん、原子力には様々な議論があり、惑わされることもあるかと思います。しかし、そうした中でゆずれない信念を持って原子力に取り組み、世界の人類の未来や生活を支えていく、責任は非常に重いですが、その分やりがいのある仕事だと思います。

(インタビュアー 柴田 明裕)


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