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 Vol.36 2010年 4月号 新領域創成科学研究科特集
Vol.36 4月号
心臓シミュレータ ~計算科学と医学の融合~

 人間環境学専攻に所属する計算科学者の久田俊明教授、医学者の杉浦清了教授が中心となって進める「心臓シミュレータ」は医療の在り方を変える影響力の大きなプロジェクトです。
 2、3年以内の実用化に向けて企業、医療機関とも連携しながら、研究を進めるお二方にお話を伺ってきました。


Q.研究内容について教えてください。

久田:医学、生理学的にわかっているミクロからマクロまでの心臓の知識、計算科学のあらゆる技術を総動員して、コンピュータ上に人の心臓と同じ物理化学現象を持つ心臓シミュレータを再現しています。
 イオンチャンネルやタンパクの化学反応モデルから始まって、心臓の拍動、血液を送り出す様子、それらが血圧や心電図にどう現れてくるのかまでを一貫して再現するというのが私たちの研究です。

杉浦:グラフィックにする事で、臨床画像との対比から心臓のどこの場所に問題があるのか一目でわかり臨床の医師にとっては診断がしやすくなります。
 また、バーチャル心臓なので実際にはできないことでも何でも試す事ができます。動物実験の代用、新しい医療機器の提案、新薬テストへの利用など多くの可能性が開けています。




久田俊明教授
新領域創成科学研究科
人間環境学専攻




杉浦清了教授
新領域創成科学研究科
人間環境学専攻

Q.心臓シミュレータによって医療はどのように変わるのでしょうか?

久田:将来的には病院に来た患者さんの心電図、超音波エコー、MRI、CT、血液検査などのデータを担当医が「心臓シミュレーションセンター」に送ります。すると翌日にはその患者さんのバーチャル心臓が完成し、計算機上でその心臓に様々な治療法を試して、幾つかの治療オプションと共に最も効果のある方法を担当医に戻すことで最適な医療に貢献したいと考えています。
 特にやり直しのきかない手術や、従来困難であった突然死の予測等、これまでの医療の限界を超えた新たな診断、治療の方法を創出します。さらに創薬や医療機器開発などへも応用可能で、既に我国初の植え込み型除細動装置の開発では画期的な貢献を果しました。
 膨大な量の計算が必要になる為、バーチャル心臓を動かすには、現在柏キャンパスにある300コアの並列計算機(久田先生写真背景)を使って7、8時間という計算時間がかかります。高精度化、高速化を図ってあと、2、3年のうちに実用化することが目標です。

杉浦:医療機器が高度になればなるほど沢山の情報が得られるようになってきましたが、それをどう診療に生かすというのが現場の抱えている課題です。端末で見たい所をクリックしたらフォーカスできるようになるなど、メーカ、医療機関とも共同で使いやすい機器にする為に研究を進めています。


コンピュータの中に再現された正常心臓(上)と心筋梗塞心臓(下)
上では心室の収縮力(赤色で表示)が強く血液を勢い良く拍出しているが、下では血管が詰まり、心筋に酸素が行かなくなっているため(茶色領域)拍出も弱い。

Q.お二方のバックグラウンドについて教えてください。

久田:私は機械工学科出身で、連続体力学を専門としてきました。連続体力学とは、流体、固体の運動を数学的に解析する学問です。この研究を始める前は、応用対象としては、原子炉やロケットの安全性の研究をしていました。
 心臓のシミュレーションはこのような経験で培ってきた構造力学、流体力学、電気化学、計算技術など多くの学問がフルに生かされる分野であり、やりがいを感じています。

杉浦:私は東大病院の循環器内科で医師として勤める傍ら、基礎に近い研究も行っていました。心臓を動かしている元のタンパク分子や一個一個の細胞が出す力を測るなどミクロレベルの世界での研究でした。
 現在いろいろな分野で、研究の対象があまりにも細分化され全体が分からなくなることが問題になっています。臨床医学でも自分の専門から離れた問題は、他の専門家にコンサルトしながら解決することが日常的に行われています。しかし、コンピュータ内に心臓をつくるためには心臓の全てを理解することが要求されます。
 工学系の先生からの原理を追及する問いかけに対して改めて自分の理解が不足していたことを痛感し、心臓の勉強をやり直した感じです。

Q.なぜ「心臓」 のシミュレーションを行おうと思ったのですか?

久田: 8年ほど前に、病院からいらした杉浦先生とご一緒する機会を得ました。先生のご専門が心臓とのことで、それ以来心臓シミュレータに興味を持ち2人の教授が一つの研究室で研究を行っています。
 また、これだけの計算科学技術が生きるのは臓器の中でも心臓です。例えば肝臓のシミュレータでは化学反応だけを取り扱うことになり単純です。

杉浦:肝臓は体内に納まりさえすれば良いので機能に対して全体の形には大した意味はありません。それに対し、ポンプとしての役割をはたす心臓は形に決定的な意味があります。
 また、現場でのニーズも高まってきています。近年では、遺伝子レベルで患者さんの問題点をミクロな現象として解析できるようになりました。しかしそれらがどのように心電図や血圧などのマクロな現象に影響を及ぼしているのかを実験的に明らかにすることは難しいのです。その二つの現象の間にある大きなギャップを、誰もが納得する形で埋めるのは心臓シミュレータしかありません。

Q.学生にメッセージをお願いします。

久田:学生の短い期間で最先端の研究に本当に携わる事は難しいと思います。それよりもしっかりと基礎的勉強をして将来に役立つ知識、実力をしっかりと身につけて欲しいと思います。
 去年私の研究室に配属された4年生には、流体力学と構造力学を基礎からしっかり勉強するようにと伝えました。一人の学生は、理論を理解することに大半の時間を使いましたが、結果として研究でも成果を残し、幸い工学部長賞を受賞しました。

杉浦:我々のような境界領域というのはどちらの分野も浅くなってしまいがちなので気をつけなくてはいけません。
 また、研究と言うのは流行り廃りがあるのでむやみに手を出すと取り残されてしまう事もあります。なので、学生の間は色々なことに手を出すよりも一つの分野を究めて欲しいですね。

(インタビュアー 北野 美紗)

久田・杉浦研究室ホームページへ


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