最近の論文の紹介

“Vanadium-Substituted Polycationic Al-Oxo Cluster in a Porous Ionic Crystal Exhibiting Lewis Acidity
 (ルイス酸性を示すV置換Al酸化物カチオン性多核クラスターを有する多孔性イオン結晶
W. Zhou, N. Ogiwara*, Z. Weng, C. Zhao, L. Yan, Y. Kikukawa, S. Uchida*, Chem. Commun., 58, 12548–12551 (2022).
DOI: 10.1039/D2CC03545F
 

 水溶液中でのAl塩の加水分解・脱水縮合により、様々な組成・サイズ・形状を有するAl酸化物多核クラスターが形成されることが知られている。これらAl酸化物クラスターは水処理・色素除去・触媒等の分野で幅広く用いられている。代表的なAlクラスターの一例としてはKeggin型Al13クラスター([Al13O4(OH)24(H2O)12]7+)が挙げられる。Keggin型Al13クラスターは、中心に存在する[AlO4]四面体に対して四つのAl3(OH)6(H2O)3三量体が連結された構造を有しており、5種類の回転異性体(α, β, γ, δ,および ε、三量体ユニットの回転に起因)が存在しうる。その中でε-Al13異性体は熱力学的に安定であるのに対して、δ-Al13異性体は相対的に不安定で高い反応性を有するため注目を集めている。最近では、δ-Al13異性体に対する金属置換が、多彩な構造体の探索において有望な手法として提案されている。
本研究ではV置換されたAl酸化物クラスターである[V4Al28O20(OH)52(H2O)22]12+ (Al28V4)カチオンを合成した。Al28V4はδ-Al12Vユニットおよび露出した[AlO4]四面体を持つという特徴がある。さらにAl28V4カチオンを、対アニオンとなるKeggin型ポリオキソメタレート(POM)である[PW9V3O40]6–(PW9V3)とともに結晶化することにより、多孔体イオン結晶[V4Al28O20(OH)48(H2O)24][PW9V3O40]2(Al28V4-PW9V3)を合成した(図1)。DFT計算および固体NMR測定の結果からAl28V4-PW9V3の構造において露出した[AlO4]サイトは電子不足な状態であり、ルイス酸点として作用すると示唆された。そこで、ルイス酸触媒反応の一種であるベンズアルデヒドのアセタール反応に対してAl28V4-PW9V3を適用したところ、収率は53%(343 K,2時間)であり、Al13クラスターを有する多孔性イオン結晶[δ-Al13O4(OH)24(H2O)12][PW9V3O40](OH)(収率:40%)と比較し、高い触媒機能を有することがわかった。


“Syntheses, Polymorphic Transformations, and Functions of Ionic Crystals Based on Mononuclear Bismuth(III) Complexes and Polyoxometalates
 (単核Bi(III)錯体とポリオキソメタレートを構成ブロックとするイオン結晶の合成・多形と機能評価)
T. Iwano, D. Akutsu, Z. Weng, N. Ogiwara, S. Uchida*, ChemNanoMat8, e202100479 (2022).
DOI: 10.1002/cnma.202100479
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 ポリオキソメタレート(ポリ酸)は、遷移金属元素や酸素原子から構成されているアニオン性金属酸化物クラスターで、特に高い対称性を有するα-Keggin型ポリ酸やα-Dawson型ポリ酸はイオン結晶の構成要素としての活用が期待される。当研究室では、ポリ酸とクロム三核錯体やアルミニウムポリカチオンからなるイオン結晶を合成し、プロトン伝導性や酸触媒活性の高機能化に成功した。一方で近年、結晶工学の分野で結晶多形が注目されている。結晶多形は同一組成で異なる結晶構造を持つ固体のことで、構成要素の分子配列を変えることで、物理的または化学的性質を制御できるため、分子設計の観点から高いポテンシャルを有していると言える。当研究室においても、ポリ酸とアルミニウムポリカチオンからなる細孔サイズの異なるイオン結晶の合成に成功し、酸触媒活性の違いを観測した。本研究では結晶多形合成を目指し、ランタノイドイオンやビスマスイオンを用いた単核錯体に注目した。先行研究において、これらの金属イオンにDMSOやDMFなどが配位した単核錯体が報告されている。特にDMSOを配位子に用いた単核錯体は2種類の配位様式が観測されており、結晶多形への応用が期待できる。
そこで本研究ではDMSOとDMFを配位子に持つ単核ビスマス錯体とポリ酸(α-Keggin型([α-PW12O40]3)、α-Dawson型([α-P2X18O62]6: X= W or Mo)からなるイオン結晶の合成と機能評価を目的とした。ポリ酸と単核ビスマス錯体を複合化した結果、3種類の結晶多形を含む7種類のイオン結晶の合成に成功した。特に、Keggin型ポリ酸からなるイオン結晶は水やDMSOなどの溶媒を浸すことにより、結晶構造を変化させることが出来ることが明らかとなった。また交流インピーダンス法によりプロトン伝導度を測定した結果、構成要素が同一のイオン結晶では、加湿した際により多くの水分子を細孔内に取り込むことが出来る空隙体積が大きいイオン結晶が高いプロトン伝導度を示すことを見出した。また、第3級アミンがプロトンアクセプターとして機能すると考えられるDMF配位子を含むイオン結晶はDMSOを含むイオン結晶よりも高いプロトン伝導性を示すことが明らかとなった。


“Oxygen Evolution Reaction Driven by Charge Transfer from a Cr Complex to Co-Containing Polyoxometalate in a Porous Ionic Crystal
(Cr錯体からCo内包ポリ酸への電荷移動により駆動される多孔性イオン結晶による酸素生成反応)

Y. Shimoyama, N. Ogiwara, Z. Weng,  S. Uchida*,
J. Am. Chem. Soc. 144, 2980–2986 (2022).

Selected as Supplementary Cover

 近年、環境・エネルギー問題の解決する方策として、水素をエネルギーキャリアとする水素社会への移行が注目を集めています。なかでも地球上に豊富に存在する水の電気分解(水電解)により水素を製造する技術の確立は、水素社会の実現において急務な課題となっています。現在、この技術のボトルネックとなっているのが、酸素生成反応です。酸素生成反応は、水から水素を製造する際に同時に起こす必要があり、この反応の効率が悪いと水素の製造効率が低下してしまいます。これまでに、ルテニウムやイリジウム等の貴金属が高効率で酸素生成反応を促進することが報告されていますが、持続可能性・低コスト化の観点から貴金属フリーな触媒材料の探索が進められています。しかし、貴金属を用いずに、酸素生成反応の高効率性・高耐久性を兼ね備えたな触媒材料を合成するのは未だに困難であり、新たな設計指針を提案する必要があります。
 本研究にて、新たな触媒材料の構成ブロックとして用いたポリオキソメタレートは、その構造内部にコバルトを導入すると、酸素生成反応における触媒機能を発現することが報告されています。コバルトを含むポリオキソメタレートは優れた耐久性を有するものの、酸素生成の反応効率は低水準であるという課題があります。その酸素生成触媒機能を向上させるために、本研究ではポリオキソメタレートを含む結晶性の複合材料である多孔性イオン結晶に着目しました。多孔性イオン結晶は、負電荷を持つポリオキソメタレートと正電荷をもつ金属錯体が分子レベルで複合化した複合材料であり、協奏的な触媒機能が期待できます。実際に、コバルトを含むポリオキソメタレートと金属錯体からなる多孔性イオン結晶は、複合化前のポリオキソメタレートに比べて、40倍以上の酸素生成触媒活性を示し、複合化によって触媒活性が大幅に向上することが分かりました。更に、電気化学測定、赤外分光、X線光電子分光によって、多孔性イオン結晶の電子状態を調査した結果、多孔性イオン結晶内で金属錯体からポリオキソメタレートへの電子供与が観測されました。また、多孔性イオン結晶を構成する金属錯体の種類を換え、ポリオキソメタレートへの電子供給が起こらない組み合わせにしたところ、触媒機能の向上は確認されませんでした。これにより、金属錯体からポリオキソメタレートへの電子供与が、イオン結晶における触媒機能の飛躍的な向上の起源であることが明らかになりました。以上、ポリオキソメタレートと金属錯体がイオン結晶内で協奏することにより、酸素生成反応において高効率性と高耐久性を両立する触媒材料の開発に成功しました。
 ポリオキソメタレートと金属錯体の適切な設計・組み合わせにより、電子移動の方向や量を精密に制御することで、高効率的な酸素生成反応を実現する革新的な触媒材料の創製が期待されます。


“Incorporating Highly-Basic Polyoxometalate Anions Comprising Nb or Ta into Nanoscale Reaction Fields of Porous Ionic Crystals
(NbやTaを含有した塩基性ポリオキソメタレートアニオンの多孔質イオン結晶ナノ反応場への導入)
Z. Weng, N. Ogiwara, T. Kitao, Y. Kikukawa, Y. Gao, L. Yan, S. Uchida*,
Nanoscale13, 18451–18457 (2021).
Selected as Front Cover
DOI: 10.1039/D1NR04762K

 ポリオキソメタレート(POM)は、前期遷移金属のオキソ酸の脱水縮合により合成されるアニオン性の無機金属酸化物クラスターであり、高い触媒機能を有することが知られる。また、静電相互作用を利用し、POMをカチオン性遷移金属錯体(マクロカチオン)と集積化することで、ナノ細孔を有する多孔性イオン結晶(Porous Ionic Crystals, PICs)の構築が可能である。これまでにPICsを用いた触媒機能が見出されてきたが、その適用範囲は酸触媒反応に限定されていた。
そこで、本研究ではPICsを構成するPOM中酸素原子の電子密度の向上により、塩基触媒機能の開拓を目指した。PICsに塩基性を付与するために、NbとTaを含有するPOMに着目した。NbとTa等の第5族元素を含むPOMは、第6族元素(Mo, W)からなるPOMよりも負電荷が大きく、POM中の酸素原子の塩基性の向上が期待できる。NbおよびTaの三置換Dawson型POM ([P2W15(MO2)3O59]9−, M = Nb, Ta)のK塩と、三核クロム錯体カチオン ([Cr3O(OOCH)6(H2O)3]+)を酸性水溶液中で反応させることにより、Nb置換PICs及びTa置換PICsを合成した。得られたPICsの構造同定は単結晶X線構造解析および固体NMR等により行った。これらPICsを、典型的な塩基触媒反応であるKnoevenagel縮合 (353 K, 6 h) に適用したところ、無置換PICsは収率21% (選択性 47%)であるのに対して、Nb置換PICsは収率78% (選択性 99%)、Ta置換PICsは収率82% (選択性 99%)であった。このように、PICsへのNbおよびTaの導入により高い塩基性の発現が可能になることが明らかとなった。


 “Isomeric Effects on the Acidity of Al13 Keggin Clusters in Porous Ionic Crystals
(多孔性イオン結晶内のAl13Keggin型クラスター回転異性体の酸性質への影響)
W. Zhou, N. Ogiwara, Z. Weng, N. Tamai, C. Zhao, L. Yan, S. Uchida*,
Chem. Commun.57, 8893–8896 (2021).
Selected as Back Cover
DOI: 10.1039/D1CC03600A

 アルミニウム(Al)は地殻に存在する元素のうち3番目に多い元素であり、溶液化学において注目される元素の一つである. 水溶液中でのAl塩の加水分解により、様々なサイズを有するAl多核クラスターを形成することが知られ、これらAlクラスターは触媒・水処理等において幅広く用いられている。Alクラスターの中でAl13クラスター([Al13O4(OH)24(H2O)12]7+)はKeggin型構造と呼ばれる5種類の構造異性体(α, β, γ, δ,および ε)が存在しうる。その中でε-Al13異性体は機能性材料の構成要素として用いられており、ε-Al13表面に存在するOH/H2O基に起因する酸特性を活かした触媒・水処理への応用が検討されている。他の構造異性体、例えば、ε-Al13異性体中の一つの[Al3O13]サイトが60度回転した構造を有するδ-Al13異性体は、ε-Al13異性体とは異なる酸性度、およびそれに付随した機能性の違いが期待される。しかしながら、δ-Al13異性体を利用した機能性材料の開発はこれまで報告されていなかった。
 そこで、本研究ではδ-Al13カチオンを多核アニオンクラスターの一種であるαCoW12O406(CoW12)と集積化したイオン結晶δ-Al13-CoW12を合成し、対応するε-Al13異性体イオン結晶ε-Al13-CoW12と比較を行うことで、Al13クラスターの異性体の違いが酸性度に与える影響を調べた。δ-Al13-CoW12の酸性度を調べるために、酸触媒反応の一種であるpinacol rearrangementを行った。すると、δ-Al13-CoW12ε-Al13-CoW12よりも高い反応性、すなわち高い酸性度を有することがわかった。またこの酸性度の違いはAl–Oの結合長解析、理論化学計算、固体1H MAS NMRによっても確かめられた。


 “Integrating Molecular Design and Crystal Engineering Approaches in Non-humidified Intermediate-temperature Proton Conductors Based on a Dawson-type Polyoxometalate and Poly(ethylene glycol) Derivatives
(分子設計&結晶工学的アプローチによるDawson型ポリオキソメタレート&ポリエチレングリコールを構成ブロックとする非加湿中温作動プロトン伝導体の創製)

N. Ogiwara, M. Tomoda, S. Miyazaki, Z. Weng, H. Takatsu, H. Kageyama, T. Misawa, T. Ito, S. Uchida*,
Nanoscale13, 8049–8057 (2021). (1st and 2nd authors contributed equally)

Selected as Back Cover
DOI: 10.1039/D1NR01220G

 

 固体におけるプロトン伝導は燃料電池の固体電解質やセンサーにおいて重要な役割を果たす。特に、燃料電池におけるPt触媒のCO被毒への耐性の観点から、非加湿条件下、中温領域(100–250°C)で作動するプロトン伝導体の開発が求められている。高いプロトン伝導性を有する電解質としてポリマーが知られているが、熱安定性に課題があり、中温領域での応用は限定的である。
 この熱安定性の問題を克服するため、我々は剛直なポリ酸に着目し、イオン伝導性ポリマーと複合化させたプロトン伝導物質の開発を行っている。これまでに、Keggin型ポリ酸([α-PW12O40]3–)で囲まれたナノチャネル中にポリエチレングリコール(PEG)を内包した複合体は、中温領域でも安定にプロトン伝導性を発現することを報告した。この複合体は中温領域で安定であるが、伝導度は2.0×10–6 S cm–1 (150 °C, 非加湿)にとどまっており、伝導性向上のためのさらなる分子設計が必要である。
 本研究ではKeggin型ポリ酸よりもサイズの大きなDawson型ポリ酸([α-P2W18O62]6–)に着目し、 PEG及び対カチオンとなるCs+、K+と反応させることにより新規複合体の合成を行った。交流インピーダンス法により、得られた複合体の伝導性を評価したところ、1.3×10–4 S cm–1 (150 °C, 非加湿)であり、Keggin型複合体を凌駕する伝導度を示すことがわかった。これは、Dawson型複合体では、ポリ酸で囲まれたナノチャネル口径がKeggin型複合体と比べて拡張されており、チャネル中に閉じ込められたPEGの運動性が向上したためだと示唆された。
次に、複合体が有する高い設計性を生かし、PEGの末端基の修飾を試みた。PEG末端の−OH基を、−OCH3基で置換したところ、複合体のプロトン伝導性が低下したことから、PEG末端の−OH基がプロトン伝導キャリアとして働くことが示唆された。これを確かめるために、PEGの高分子鎖長を短くし、末端−OH基の密度を増やした複合体を合成したところ、イオン伝導性の向上が観測され、−OH基が伝導性の鍵となることが強く示唆された。さらに、複合体中の対カチオンのK+をCsに置換することで、複合体結晶の細孔構造およびPEGの運動性を制御したところ、プロトン伝導の最高伝導度を保持されたまま活性化エネルギーが低下し、幅広い温度領域での高いプロトン伝導性が実現された。


“Ultrahigh Proton Conduction via Extended Hydrogen-Bonding Network in a Preyssler-Type Polyoxometalate-Based Framework Functionalized with Lanthanide Ion
(ランタノイドイオンにより機能化したプレイスラー型ポリオキソメタレート骨格内の拡張型水素結合ネットワークによる高速プロトン伝導)

T. Iwano, K. Shitamatsu, N. Ogiwara, M. Okuno, Y. Kikukawa, S. Ikemoto, S. Shirai, S. Muratsugu, P. Waddell, R. J. Errington, M. Sadakane*, S. Uchida*,
ACS Appl. Mater. Interfaces13, 19138–19147 (2021).

DOI: 10.1021/acsami.1c01752

 近年、化石燃料に依存しない持続可能な社会の構築、深刻化する地球温暖化問題の解決手段の一つとして、水素をエネルギーキャリアとする水素社会への移行が注目を浴びています。なかでも燃料電池は、水素と空気中の酸素の化学反応を利用して電気を取り出すシステムであり、水素利用における最重要技術の一つです。しかし、反応により生成した水素イオンの伝導を担う電解質は、アモルファス材料が多いために組成-構造-性能の相関が不明瞭で性能向上の指針が得られにくく、さらに、フッ素や硫黄など環境に有害な元素を含むためにリサイクルや廃棄処理に問題があるなど、性能面、環境面で多くの課題があります。
本研究にて、新たな電解質材料の構成ブロックとして用いたポリオキソメタレートは、高い水素イオン伝導性を示すことが知られているものの、水蒸気や熱への耐性が低いという欠点があります。この欠点を克服するため、配位数が大きく多数の水分子を安定に結合できる希土類イオン、さらに、水素イオンの伝導経路を構築するポリアリルアミンを用い、組成-構造-性能の相関が明確な材料を合成することを目的としました。得られた結晶の構造解析の結果、希土類イオンがポリオキソメタレートに直接結合し、カリウムイオンとの間に働く静電相互作用によりイオン結晶が構築され、結晶のナノ細孔にはポリアリルアミンと水分子が含まれることがわかりました。交流インピーダンス法により、得られた結晶が実用化材料に匹敵する高い水素イオン伝導性(>10–2 S cm–1)を示すことがわかりました。さらに、X 線吸収微細構造、赤外分光法により、ラマン分光法により、希土類イオン、ポリアリルアミンと水分子がナノ細孔中で密な水素結合ネットワークを形成し、水素イオンの輸送を協同して担うことが明らかになりました。以上、ポリオキソメタレート・希土類イオン・ポリマーが結晶内で協奏することにより、高い構造安定性と水素イオン伝導性を両立する固体電解質材料の開発に成功しました。
無機物(ポリオキソメタレートと希土類イオン)と有機物(ポリマー)の双方の特長を生かした、フッ素や硫黄を含まない環境に優しい固体電解質として、燃料電池や水電解などの水素エネルギーシステムへの応用が期待されます。


”Isostructural Mesoporous Ionic Crystals as a Tunable Platform for Acid Catalysis
Y. Shimoyama, Z. Weng, N. Ogiwara, T. Kitao, Y. Kikukawa, S. Uchida*,
Dalton Trans., 49, 10328–10333 (2020).

裏表紙に採択されました。

DOI: 10.1039/D0DT01202E

 多孔性イオン結晶(Porous Ionic Crystals, PICs)は、高い構造柔軟性を持ち、表面近傍では極性分子の反応に有利な固有の電場を持つため、新たな触媒反応場として期待できます。私たちはこれまでに、典型的な酸反応であるピナコール転位反応やBarbier-Grignard反応に対してPICsが固体触媒として高い触媒活性を示すことを報告してきました。更に、最近では約2×3 nmのメソ領域の細孔を持つMeso-PICs:[Cr3O(OOCCH2CN)6(H2O)3]3[PW12O40]・69H2O が糖類(フルクトース)の脱水反応を効率良く進行させる固体触媒となることを見出しました。このように、PICsはユニークな固体酸触媒として機能します。一方で、触媒として用いているPICsは明確な活性点を持っていないものが多くあり、Meso-PICsもまた明確な活性点を持っていません。これはとても興味深いことですが、用途の拡大や触媒機能のコントロールを目指すうえでは、触媒活性の起源を明らかにすることは不可欠です。そこで私は、Meso-PICsを用いて(1)触媒活性点の起源の解明と(2)触媒作用のコントロールを目標として研究を行いました。

 私は、PICsの構造が構成ブロックのPOMsの形状、電荷、マクロカチオンの持つ官能基で主に決定されることに着目し、IsostructuralなMeso-PICsの合成を試みました。その結果、結晶構造を保ったまま、骨格のPOMと電荷を補填する対カチオン種を変更したMeso-PICsの合成を達成しました。合成は非常に簡便で水中でPOM、マクロカチオン、対カチオンを混合するだけでMeso-PICsが得られます(Figure 1).

Figure 1. Meso-PICsの合成方法の概略

 得られたCr[Cr3O(OOCCH2CN)6(H2O)3]3[PMo12O40]・51H2OとMn+xH3-nx[Cr3O(OOCCH2CN)6(H2O)3]3[PW12O40]・nH2O (M=Fe3+, Cr3+, Al3+など10種類以上)は全て同一の構造を持っているため、これらの触媒活性を調査することで酸触媒作用に対するPOMと対カチオンの影響が明らかにできると考えました。そこで、私は典型的な酸触媒反応であるBarbier-Grignard反応(Scheme 1)をモデル反応として触媒活性の評価を行いました。

Scheme 1. モデル反応として用いたベンズアルデヒドとスズ試薬のBarbier-Grignard反応

 まず対カチオンの種類が触媒活性に与える影響を調査しました。平衡の影響を受けにくい反応初期(~収率10%)を利用して反応速度(~触媒活性)を比較しました。その結果、生成物の収率が対カチオンの種類によって変化することが明らかになりました。私は細孔に存在する対カチオンが水和された状態にある事に注目し、水和された対カチオンのpKa、すなわちブレンテッド酸性度で結果の整理を行いました。その結果、対カチオンのpKaが小さいほど触媒活性が高いことが示されました(Figure 2)。これは、水和された対カチオンがブレンステッド酸性の活性点を形成していることを示唆した結果です。また同時に反応が細孔内で進行していることをサポートする結果でもあります。

Figure 2. Barbier-Grignardの反応初期の収率と対カチオン種のpKaの関係

続いて、POMの種類が触媒活性に与える影響を同様に調査しました。その結果、骨格のPOMがタングステン骨格のPW12O403-の場合のほうがモリブデン骨格のPMo12O403-の場合に比べて2倍以上高い活性を示すことが明らかになりました。つまり、骨格のPOMは主要な酸触媒活性点を形成していることが示唆されました。

 私たちはPOMの種類による活性の大きな変化の起源を探るために、In situ のメタノール吸着FT-IR測定を行いました。メタノールはMeso-PICsの持つ結晶水と交換し、Meso-PICsと水の水素結合を弱めます。この時の骨格振動のピークシフトから水と水素結合している部位やその強さを知ることができます。その結果、PW12O403- とPMo12O403-のいずれの場合も金属(W or Mo)と最も高い塩基性度を持つ骨格酸素の結合M-Oc-Mの振動ピークが大きくシフトし、特にPMo12O403-の場合でより大きなシフトが観測されました。この結果は、PMo12O403-が水と強く水素結合していることを示します。我々はこの結果から、強く水素結合した水分子によって、PMo12O403-の場合は表面近傍に形成される酸点が覆われるために酸触媒作用が抑制されたものと考察しました。

以上の結果をまとめると

・酸触媒活性点の起源

骨格のPOMが主な活性点を形成+水和された対カチオンもブレンステッド酸点を形成

・触媒作用のコントロール

骨格のPOMと対カチオン種を適切に選ぶことで連続的に酸触媒作用を制御可能

となります。

 本研究により、酸触媒を指向したPICsの設計指針を示すことが出来ました。一方で未だはっきりと分かっていない点として、マクロカチオンを構成する金属種(Cr、Fe、Mnなど)の影響や架橋配位子、末端配位子の種類と活性の関係が挙げられます。これらの影響が明らかになれば、より精密な触媒設計が可能となります。また、より高度な反応に対する本研究の有効性の検証も進めていくことも重要です。(文責:下山雄人)


”Amorphous High Surface Area Aluminum Hydroxide-Bicarbonates for Highly-Efficient Methyl Orange Removal from Water
(アモルファスかつ高表面積な水酸化アルミニウム炭酸水素塩による水中のメチルオレンジの高効率除去)
Y. Kinoshita, Y. Shimoyama, Y. Masui, Y. Kawahara, K. Arai, T. Motohashi, Y. Noda, S. Uchida*,
DOI: 10.1021/acs.langmuir.0c00021

Figure 1. ε-Keggin型のアルミニウムクラスター

 アルミニウムは酸素、ケイ素につぐクラーク数第3位の最もありふれた安価な金属です。さらに、比重が2.7と小さく軽いため航空材料を初めとして私たちの日常生活にも大いに役立っています。このようにアルミニウムは非常に身近な金属ですが、実はこの水酸化物は多様かつ興味深い性質を持つものが多く存在します。私たちはそれらのアルミニウム水酸化物の中から、ε-Keggin型ポリ酸と同様の構造を持つアルミニウム13核クラスター[ε-Al13O4(εOH)24(H2O)12]7+ (Al13)に着目しました(Figure 1)。Al13水酸基や配位水は物質の吸着点や触媒活性点として機能することが知られています。Al13は1000 ℃以上の高温で焼成することで大きな表面積を持つγ-Al2O3となり、触媒担体などとして応用されています。しかし、焼成の過程でAl13の水酸基や配位水は失われてしまいこれらの特性を直接活用することができていませんでした。そこで私たちは、ポリカチオンのAl13が炭酸イオンと反応するとゲル状の固体が生じる現象に注目しました。この反応は室温でAl13の溶液と炭酸イオンを含む水溶液を混合するだけで直ちに起こり、白色のゲルが生じ、これを乾燥することで白色の固体(水酸化アルミニウム重炭酸塩)が得られます。私たちはこの固体中のAlイオンがAl13の形状を保ったまま存在しているのではないかと予想し、水酸基や配位水を吸着点とする応用が可能であると考えました。

 メチルオレンジは化学実験では呈色試薬として有名ですが、繊維の染色でも使用されています。発色性がとても高い一方で、変異原性を持つ物質でもあり、メチルオレンジによる水質汚染は世界中で問題視されています。そこで私たちは、水酸化アルミニウム重炭酸塩によるメチルオレンジの吸着・除去を試みました。その結果、特にアンモニア水でpHを7-9付近に調整して得た水酸化アルミニウム重炭酸塩は、迅速かつ高効率でメチルオレンジを吸着除去できることが明らかになりました(Figure 2.)。

Figure 2. アンモニア水でpH調整を行った水酸化アルミニウム重炭酸塩のSEM像とメチルオレンジ吸着

 このような優れた吸着特性を持つ理由を知るために固体NMRスペクトルを測定しました。メチルオレンジの吸着サイトは固体中の水酸基と配位水であり、配位不飽和な状態のアルミニウム種が吸着活性種であることが示唆されました。加えて、当初の狙いどおり、Al13の構造と水酸基および配位水はおおむね保持されていることも示唆されました。(文責:下山雄人)


“Effect of molecular weights of confined single-chain poly(allylamine) toward proton conduction in inorganic frameworks based on Preyssler-type polyoxometalate”

(高プロトン伝導性を示す金属酸化物クラスター骨格中に閉じ込められたポリアリルアミンの運動性の分子量依存性)
T. Iwano, S. Miyazawa, S. Uchida, Inorg. Chim. Acta, 499, 119204 (2020).
(1st and 2nd authors contributed equally)
DOI: 10.1016/j.ica.2019.119204

当研究室では、以前にNaを中心金属原子に用いたPreyssler型ポリ酸とカチオン性のポリマーであるポリアリルアミン(PAA)からなる結晶性複合体について報告していました。本研究では、平均分子量が異なるPAA(m =1600, 3000, 5000)を用いたNa中心Preyssler型ポリ酸-PAA複合体を合成し、それぞれの複合体でプロトン伝導度測定を行いました。その結果、PAAの分子量を変化させても同様の結晶構造を保ち、ポリ酸の中に閉じ込められたPAAの単量体の数も変化しないことが分かりました。PAAの平均分子量に関わらず10-3 S/cmオーダーの高いプロトン伝導度を示しましたが、13C-CPMASNMRのシグナル面積のcontact time依存性からPAAの運動性を調べたところ、PAAの分子量が小さくなるにつれてPAAの主鎖の運動性が減少し、側鎖の運動性が増大することが分かりました。


“Frontiers and Progress in Cation-Uptake and Exchange Chemistry of Polyoxometalate-Based Compounds”

(ポリオキソメタレート化合物のカチオン吸着・交換の化学)
S. Uchida, Chem. Sci., 10, 7670-7679 (2019). 裏表紙に選定
DOI: 10.1039/C9SC02823D

Na-Kポンプによるイオン交換による細胞内のNa-K濃度勾配の維持に代表されるように,イオン交換は私たちに身近な現象であると言えます.本著では,特にポリオキソメタレート(POM)を用いたイオン交換について着目し,これを次の3種類に大別して紹介しています.
(i) POMのクラウンエーテル型細孔を用いたサイズ選択的なカチオン吸着
(ii) ゼオライトのような単純なイオン交換
(iii) POMの酸化還元に伴う電荷補填的なイオン交換
特に,還元的なイオン導入結晶(iii)を用いてイオン交換を行うと,カチオンへの電子移動が生じ,単純なイオン交換とは異なるマルチステップでの交換反応が進行することが分かっています.これを利用することで,細孔内での混合原子価の金属クラスター合成が可能であるため,新たなクラスター合成法として注目されています.

 


“Structure-Function Relationships in Fructose Dehydration to 5-Hydroxymethylfurfural under Mild Conditions by Porous Ionic Crystals Constructed with Analogous Building Blocks”

(多孔性イオン結晶によるフルクトースから5-ヒドロキシメチルフルフラールへの触媒変換)
T. Yamada, K. Kamata, E. Hayashi, M. Hara, S. Uchida, ChemCatChem, 11, 3745-3749 (2019). 表紙に選定
DOI: 10.1002/cctc.201900614

教養学部前期課程総合科目「基礎化学」の「固体の構造と物性」でとりあげていただいてます!

産業革命以降,化石燃料の消費量は増加し,今では枯渇の恐れがあると危惧されています.また,化石燃料の使用による環境問題も少なくありません.このような背景から,現在ではバイオ燃料が着目されており,5-Hydroxymethylfurfural (HMF)もバイオ燃料として注目を浴びている材料の一つです.当研究室で以前報告した多孔性イオン結晶Cs2[Cr3O(OOCC2H5)6(H2O)3]2[SiW12O40]を触媒として用いると,従来より低温(403 K)で収率よくフルクトースからHMFを合成できることが報告されていますが,フルクトース分子が結晶内に侵入するには細孔サイズが小さすぎるので,反応触媒としては,より細孔が大きな多孔性イオン結晶が必要になります.このような背景から,先行研究よりも細孔サイズの大きな多孔性イオン結晶を合成し,HMF合成触媒としての応用性を検討しました.

今回私たちは,Cr[Cr3O(OOCCH2CN)6(H2O)3]3[PW12O40]2・69H2O (I)と,Cr[Cr3O(OOCCH2CN)6(MeOH)2(H2O)]6[PW12O40]3・18CH3OH (II),Cr[Cr3O(OOCCH2CN)6(H2O)3]6[PW12O40]2・50H2O (III)の三種のイオン結晶を合成しました.これらの細孔サイズは, (III)<(II)< (I)の順で大きくなり,特に(I)は3 nm×2 nmという,先行研究の4倍近い細孔サイズを示しました.また,HMFの収率も,細孔サイズに比例して高くなることが分かりました.さらに,これらの結晶は,強い酸点を持たないにも関わらず、本反応は比較的穏やかな反応(353 K)かつ短時間(30 min)で進行し,副生成物も生じないことも分かりました.

 


“Rapid Formation of Small Mixed-Valence Luminescent Silver Clusters via Cation-Coupled Electron-Transfer in Redox-Active Porous Ionic Crystal Based on Dodecamolybdophosphate “

(レドックス型イオン結晶を用いたカチオン&電子の協奏反応による混合原子価銀クラスター生成)
S. Uchida, T. Okunaga, Y. Harada, S. Magira, Y. Noda, T. Mizuno, T. Tachikawa, Nanoscale, 11, 5460-5466 (2019).
DOI: 10.1039/C9NR00103D

LTAゼオライトに部分的に銀を導入した後に加熱を行うと,銀が還元されて4核の銀クラスターAg42+が主に生成することが報告されています.そこで,当研究室で以前に報告したredox型の多孔性イオン結晶(Cs2-red : Cs2[Cr3O(OOCH)6(mepy)3]2・PMoMo11O40)の細孔内で,混合原子価の銀クラスターを合成できると考えました.
還元的な銀導入反応は,硝酸銀水溶液中にCs2-redを加えることで反応が進行し,Ag2-ox(: Ag0Ag+ [Cr3O(OOCH)6(mepy)3]2・PMo12O40)となります.この銀導入は、非常に短時間(<1 min)で完了します.
レーザー光を用いた発光分析により,還元的な銀導入ではAg42+が形成していること,そして表面近傍での反応と細孔内部でのAg42+の拡散という2段階で進行していることが示唆されました.
また,Ag2-oxはエタン・エチレンと比べて大きなアセチレン吸着量を示しました.


“Confinement of poly(allylamine) in Preyssler-type polyoxometalate and potassium ion framework for enhanced proton conductivity

(金属酸化物クラスターが創るイオン結晶の細孔に閉じ込められたポリマーによる水素イオンの高速伝導)
T. Iwano, S. Miyazawa, R.Osuga, J. N. Kondo, K. Honjo, T. Kitao, T. Uemura, S. Uchida, Communications Chemistry, Article number: 9 (2019).
DOI: 10.1038/s42004-019-0111-x
東京大学総合文化研究科)とJSTから共同プレスリリース(2019/1/31)
日経産業新聞に記事掲載:「電解質、低湿度で動作」(2019/2/6)

当研究室では以前にKeggin型ポリ酸よりも酸性度が高いことが分かっているNaを中心原子としたPreyssler型ポリ酸([Na(H2O)P5W30O110]14-とポリアリルアミンからなる結晶性高プロトン伝導体を報告していました。そこで本研究では、さらに高いプロトン伝導度を目指し、より負電荷が小さいBiを中心原子としたPreyssler型ポリ酸([Bi(H2O)P5W30O110]12-とポリアリルアミンからなる結晶性複合体(K8H4[Bi(H2O)P5W30O110]0.03PAA500019H2Oを合成し、評価をしました。中心原子をBiに交換することで、負電荷が減少し、プロトンとの結合が弱まるため、さらに高いプロトン伝導度を示すことを期待しました。
その結果、本研究の複合体は低温加湿条件下において、
10-2 S/cmオーダーの非常に高いプロトン伝導度を達成しました。また、ポリアリルアミンの平均分子量を変えても、同様の結晶構造とプロトン伝導度を示すことが分かりましたが、13C-CPMASNMRの接触時間依存性の測定結果から、複合化するポリアリルアミンの平均分子量が小さくなるにつれて、ポリアリルアミンの側鎖の運動性が増大することが分かりました。


“Effect of the ammonium ion on proton conduction in porous ionic crystals based on Keggin-type silicododecatungstate”

(Keggin型ケイタングステン酸を基盤とした多孔性イオン結晶中のプロトン伝導におけるアンモニウムイオンの効果)
S. Miyazawa, R. Hosono, R. Osuga, J. N. Kondo, S. Uchida, Acta Cryst., C74, 1289–1294 (2018)
.
DOI: 10.1107/S2053229618008227

本研究では、当研究室で以前に研究・論文投稿を行ったA2[Cr3O(OOCH)6(etpy)3]2[α-SiW12O40]・nH2O (A = Li, Na, K and Cs; etpy = 4-ethylpyridine) (I-A+)について、プロトン伝導においてアンモニウムイオンがそれ自体がプロトンキャリアとしてはたらくことに着目して、対カチオンをアンモニウムイオンに交換した(NH4)2[Cr3(CHO2)6O(C7H9N)3]2[α-SiW12O40]・6H2O (I-NH4+)の合成・評価を行いました。
I-NH4+
は高湿条件下で高いプロトン伝導性と低い活性化エネルギーを示しました。このことから、結晶の細孔中でアンモニウムイオンと水分子が水素結合ネットワークを作り、プロトンが効率よくGrotthuss機構という伝導機構で伝導していることが示唆されました。
湿度を下げるとプロトン伝導度は急激に小さくなるとともに活性化エネルギーは大きくなり、プロトンはVehicle機構という機構でアンモニウムイオンやH3O⁺として伝導していると示唆されました。


“Rapid Uptake / Release of Cs+ in Isostructural Redox-Active Porous Ionic Crystals with Large Molecular Size and Easily Reducible Dawson-Type Polyoxometalates as Building Blocks”,

(Dawson型ポリ酸をビルディングブロックとして用いた同形のレドックス活性多孔性イオン結晶中での迅速なセシウムイオン吸脱着)
S. Hitose, S. Uchida,  Inorg. Chem., 57, 4833–4836 (2018).
DOI: 10.1021/acs.inorgchem.8b00801 

本研究では、Dawson型ポリ酸([α-P2M18O62]6, M = Mo, W)をビルディングブロックとした多孔性イオン結晶を合成し、結晶構造とCs+吸着特性を調べました。
得られた多孔性イオン結晶(NH4)3[Cr3O(OOCH)6(etpy)3]3[a-P2Mo18O62]・2.5H2O・4.0CH3OH (Compound )と、K3[Cr3O(OOCH)6(etpy)3]3[α-P2W18O62]・2H2O・2CH3OH (Compound )は類似した結晶構造を持ち、還元的Cs+吸着を行うと、結晶構造を維持したまま1時間という短い時間で反応が進行し、幅広いpH領域(3-12)でCs+吸着特性を示しました。特にpH12で還元的Cs+吸着を行うと、多量のCs+が吸着されました(Compound : 5.5 mol / mol、Compound : 4.4 mol / mol)。また、の還元体を酸化させると結晶構造を維持したままCs+が放出し、10分以内に放出が完了することが分かりました。

一瀬さん


“High Proton Conduction in Crystalline Composites Based on Preyssler-Type Polyoxometalates and Polymers under Nonhumidified or Humidified Conditions“,

(Preyssler型ポリ酸とポリマーからなる結晶性複合体の加湿下及び非加湿下でのプロトン伝導機能)
K. Niinomi, S. Miyazawa, M. Hibino, N. Mizuno, S. Uchida, Inorg. Chem.56, 15187-15193 (2017).

DOI: 10.1021/acs.inorgchem.7b02524

本研究では、これまで多く研究されてきたKeggin型ポリ酸に代わり、Keggin型ポリ酸よりも酸強度が大きいことが報告されているPreyssler型ポリ酸と、ポリマーを組み合わせて結晶性の複合体を合成し、そのプロトン伝導能について調べました。
Na原子を中心原子としたPreyssler型ポリ酸([Na(H2O)P5W30O110]14-)と、平均分子量の異なる2種類のポリエチレングリコール(PEG400(平均分子量 = 400), PEG1000(平均分子量 = 1000))との複合体を比べると、非加湿条件下、368 Kにおいて、PEG400との複合体では2.5 ×10−4 S cm−1、PEG1000との複合体は1.7 × 10−4 S cm−1という高いプロトン伝導度が得られました。また、活性化エネルギーの値や13C-CPMAS NMRにより、PEGの分子量の違いによってそのセグメント運動のしやすさの違いも示唆されました。
次に、ポリマーとポリ酸の結合強化よる複合体の安定性向上や、プロトンサイトの増加によるプロトン伝導度向上を志向して、ポリマーとしてPEGの代わりにカチオン性のポリマーであるポリアリルアミン(PAA)を用いて複合体を合成しました。この複合体も先の複合体(Na中心Preysslerr型ポリ酸 + PEG
)と結晶構造は同一でしたが、プロトン伝導度は1.7×10−3 S cm−1(338 K,RH 75% )と加湿条件下においてより高い値を示しました。
最後に、ポリマーはPEGのままで、Preyssler型ポリ酸をNa原子の中心のものから、より負電荷の小さいBi原子中心のもの([Bi(H2O)P5W30O110]12-)に置き換えて複合体を合成しました。このことによりポリ酸-PEG間の静電相互作用が緩和され、よりPEGのセグメント運動が活発になりプロトンが伝導することを期待しましたが、実際に非加湿条件下、368 Kにおいて4.0 ×10−4 S cm−1という値が得られ、Na中心Preyssler型ポリ酸を使用した複合体よりもプロトン伝導度の向上が見られました。

スライド1

 


 

“Highly pH-Dependent Facile-Preparation of Amorphous High Surface Area Aluminum Hydroxide-Bicarbonates with [ε-Al13O4(OH)24(H2O)12]7+ ”,

(多核水酸化アルミニウムイオンを前駆体とした超微粒子集合体の調製)
Y. Kinoshita, R. Osuga, J. N. Kondo, Y. Ogasawara, S. Uchida*, Chem. Lett., 47, 668-670 (2018).
DOI: 10.1246/cl.180103

本研究では、大きな価数(+7)と高い対称性(Td)をもち、吸着点や活性点になりうる水酸基と配位水を有する、多核水酸化アルミニウムイオンの[ε-Al13O4(OH)24(H2O)12]7+ (Al13)と、安価で軽量な炭酸水素イオン複合化し、アモルファスな超微粒子集合体を合成しました。複合体の表面積は、合成溶液のpHに大きく依存し、pH = 7.5付近で極大(> 200 m2 g-1)を示し、pHを増減すると小さくなりました。(例えば、pH = 5.9では30 m2 g-1 、pH = 9.8では0.4 m2 g-1) SEM像とTEM像からは、pH条件が粒子形状と表面積に関わっていることが示唆されました。また、Feについても、同様の方法で高表面積の複合体が得られました。

HP


 

“Proton Conduction in Alkali Metal Ion-Exchanged Porous Ionic Crystals“,

(多孔性イオン結晶のカチオン交換とプロトン伝導機能)
S. Uchida, R. Hosono, R. Eguchi, R. Kawahara, R. Osuga, J. N. Kondo, M. Hibino,  N. Mizuno, Phys. Chem. Chem. Phys., 19, 29077-29083 (2017).

DOI: 10.1039/C7CP04619G

本研究では、Keggin型ポリ酸を基盤とした結晶性多孔体 K2[Cr3O(OOCH)6(etpy)3]2[α-SiW12O40]・6H2O (etpy = 4-ethylpyridine) [I-K+]について、カチオン(Li+, Na+, K+, Cs+)交換を行い、それぞれのカチオンがプロトン伝導に与える影響を検討しました。
I-K+は、直径3.5 Åの一次元細孔及びetpy配位子に囲まれた空隙を有しており、それぞれの空間にK+と結晶水が含まれています。I-K+をANO3水溶液(A = Li, Na, Cs)中で攪拌することでK+とA+のカチオン交換を行いました。カチオン交換体[I-A+]の結晶構造は、カチオン種や相対湿度(RH)に関わらず同一でしたが、プロトン伝導能やその活性化エネルギーは大きく変化しました。特に、I-Li+は加湿条件下において高イオン伝導体に分類される高い伝導性を示しました(323 K, RH 95%でσ = 1.9×10−3 S cm−1)。プロトン伝導の活性化エネルギーはI-Li+<I-Na+<I-K+<I-Cs+であり、カチオン種のz/r (z: 電荷, r: イオン半径)の序列と一致し、結晶水の水素結合ネットワークの広がりと関連付けられます。

図1


 

“Synergetic effect in heterogeneous acid catalysis by a porous ionic crystal based on Al(Ⅲ)-salphen and polyoxometalate“,

(アルミニウム-サルフェンとポリ酸から成る多孔性イオン結晶による不均一系酸触媒の相乗効果)
R. Kawahara, R. Osuga, J. N. Kondo, N. Mizuno, S. Uchida, Dalton Trans., 46, 3105-3109 (2017)
DOI: 10.1039/C6DT04552A

今回、アルミニウム-サルフェン錯体 [Al(salphen)(H2O)2]+ (salphen = N, N’-phenylenebis(salicylideneimine)) を用いることによって酸触媒機能を向上させた多孔性イオン結晶[Al(salphen)(H2O)2]3[α-PW12O40]を合成し、ピナコール転位反応を行うことで不均一系酸触媒としての機能を評価しました。この化合物は安定な三次元細孔を持つ結晶であり、ピナコールを取り込むのに十分なマイクロ空間を保有していました。本化合物がピナコール転位反応に対し高い触媒活性を示す一方、原料である[Al(salphen)(H2O)2](NO3)やK3[α-PW12O40]はほとんど活性を示しませんでした(下図)。一般にポリ酸はカルボカチオン中間体を安定化させることが知られるため、酸点を持つ[Al(salphen)(H2O)2](NO3)のみでは反応がほとんど反応が進行しないと考えられます。そのため、これら原料をバルクで物理混合させた場合において触媒反応を検討したところ活性はほとんどなく、多孔イオン結晶における[Al(salphen)(H2O)2]+と[α-PW12O40]3-が近接するナノ空間が非常に大事であることがわかりました。これらの結果から①[Al(salphen)(H2O)2]+ の酸点 ②ポリ酸の中間体安定化効果 ③ナノスケールの反応場 が本触媒反応において大事であり、[Al(salphen)(H2O)2]+と[α-PW12O40]3- の相乗効果によって反応が促進していると考えられます。


Microsoft PowerPoint - TOC.pptx

 


“Control of Polymorphisms and Functions in All-Inorganic Ionic Crystals Based on Polyaluminum Hydroxide and Polyoxometalates“,

(ポリ水酸化アルミニウムとポリ酸をベースとした完全無機イオン結晶の結晶多形と機能制御)
K. Mizuno, T. Mura, S. Uchida, Cryst. Growth Des., 16, 4968-4974 (2016) (1st and 2nd authors contributed equally)
DOI: 10.1021/acs.cgd.6b00555

今回、正反対の電荷を持つ正四面体対称のポリ水酸化アルミニウム[ε-Al13O4(OH)24(H2O)12]7+と3種類のポリ酸[α-CoW12O40]6-, [α-1,2,3-SiVV3W9O40]7-, [α-1,2,3-SiVVIVV2W9O40]8- から完全無機イオン結晶の2種類の結晶多形を得ることに成功しました。ポリ水酸化アルミニウムとポリ酸を混合すると一つ目の結晶多形である針状結晶が直ちに得られ、その水溶液に塩化ナトリウムなどの無機塩を加えると針状結晶が溶解し、その後、針状結晶に比べてイオン間の水素結合が多く、溶解性が低く、安定な結晶多形である板状結晶が得られました。また、板状結晶は12Å×6Åの一次元細孔を持ち、ピナコール転位の固体酸触媒として高い活性を示しました。


図1

 

 

 


“Reduction-Induced Highly Selective Uptake of Cs+ by an Ionic Crystal based on Silicododecamolybdate“,

(還元によるケイモリブデン酸を含むイオン結晶へのCs+の選択的導入)
S. Seino, R. Kawahara, Y. Ogasawara, N. Mizuno, S. Uchida, Angew. Chem. Int. Ed., 55, 3987-3991, (2016).
DOI: 10.1002/anie.201511633

今回、Cs+を選択的に吸着するイオン結晶をCrの3核錯体とケイモリブデン酸から合成しました。このイオン結晶はカチオン交換とケイモリブデン酸の還元によって3.8個のCs+を吸着することが出来ます。これはCs吸着材として使われているプルシアンブルーとほぼ同等の値になります。また、Cs以外のアルカリ金属イオンやアルカリ土類金属イオンはほとんど吸着せず、Cs+とこれらのイオンの混合溶液からはCs+だけがほぼ選択的に吸着されました。このイオン結晶は閉じた空隙を持っており、構造が柔軟に変化する過程で、最も脱水和しやすいCs+だけが選択的に吸着されたと考えられます。


無題

 


“A Functional Mesoporous Ionic Crystal based on Polyoxometalate“,

(ポリ酸をベースとしたメソポーラスイオン結晶の合成と機能評価)
R. Kawahara, K. Niinomi, J. N. Kondo, M. Hibino, N. Mizuno, S. Uchida, Dalton Trans., 45, 2805-2809 (2016).
DOI: 10.1039/C5DT04556H

本研究では極性のあるシアノ基を持つマクロカチオンとポリ酸を組み合わせることで「メソポーラスイオン結晶」を合成しました。このイオン結晶は2nm×3nmの細孔径を持ち、その空隙率は44.2%で、これはイオン結晶としては最大の大きさになります。細孔の中には水分子が水素結合ネットワークを形成しており、メソポーラス構造を維持するためには水分子が必要なことが実験によって確かめられました。この水分子の状態について調べるためにプロトン伝導度測定と酸触媒反応を行いました。伝導度測定の結果、比較的高い伝導度が得られ、また、結晶内の水分子がなくなった状態では伝導度が低下したことから、水素結合ネットワークがプロトン伝導に寄与しているということが確かめられました。酸触媒反応では酸活性点を持たせたメソポーラスシリカと同程度の活性があるということが確かめられました。


無題2

 


“Crystalline Polyoxometalate (POM) – Polyethylene Glycol (PEG) Composites Aimed as Non-Humidified Intermediate-Temperature Proton Conductors“,

(無加湿、中温作動を志向したポリ酸-ポリエチレングリコール複合体の合成と評価)
M. Tsuboi, M. Hibino, N. Mizuno, S. Uchida, J. Solid State Chem., 234, 9-14 (2016).
DOI: 10.1016/j.jssc.2015.11.030

本研究では無加湿条件下、中温(373 – 523 K)で作動するプロトン伝導体を志向して、ポリ酸 – ポリエチレングリコール(PEG)複合体を合成しました。合成はリンタングステン酸(H3PW12O40)、ケイタングステン酸(H4SiW12O40)の2種類のポリ酸、PEG1000とPEG12000の異なる分子量のPEGを使用し、CsHPW-PEG1000、CsHPW-PEG12000、CsHSiW-PEG1000の3種類の複合体を得ました。3種類の複合体の中で、CsHPW-PEG1000が最もよい伝導度(1.2×10-5 S cm-1 @443 K)を示したことから、ポリ酸-PEG複合体ではPEGの分子量、ポリ酸の電荷が小さいほど伝導度が大きくなることが示されました。また、13C-CPMASNMRにおける接触時間依存性から、PEGが動きやすいほど伝導度が大きくなっており、PEGの運動がポリ酸間のプロトンの移動を補助しているということが示されました。

無題3