
医療経済学、医療データの分析 |
厚生労働省によれば,平成21年度に35.3兆円であった医療費総額は,人口の老齢化や医療技術の高度化に伴い2025年には69兆円に増加すると予想されており,適正な医療政策を通した医療資源の有効利用が我が国の最も重要な政策課題の一つとなっています。
DPC(Diagnosis Procedure Combination,診断群分類:我が国独自の診断群分類であり,患者を14桁の診断群分類番号によって分類する)による包括支払制度が、2003年から導入され,大規模な患者の個票データの分析が可能となってきています。
この大規模データの分析には、従来の手法では十分でない点も多いのです。このため,当研究室では,まず,このようなデータの分析手法についての研究を行っています。
そして、この開発されたモデルを使い,在院日数,診療報酬,治療成果等に影響を与える要因や病院ごとの差異などについて,東京医科歯科大学医療経済学分野によって収集されているデータベース(全国各地の病院から収集された数十万人以上の患者のデータ)を用いて分析を行っています。
さらに,その結果に基づき,診療報酬改定等の医療政策の評価を行い,今後の医療資源の有効利用について政策提言を行うことを最終目的としています。
このように本研究は,新たな分析モデルの開発を通した計量経済学的な側面,医療政策評価や政策提言による医療経済学的な側面のいずれにおいても国際的にも極めて価値が高く,社会的な貢献も非常に大きい研究であると考えられます。
2009.2.5「大規模個票データを使った医療データの分析・統計分析手法」に関する国際シンポジュウムを開催
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資源エネルギー問題の分析 |
当研究室では, これまで, 中国の輸出抑制策やそのレアアース価格に与える影響についても分析を行ってきました. レアアースとは,鉱物中にある, 特異な性質を持つ17種類の元素を指します. 蓄電池や強力な磁石等の材料であるため, 今日の高性能な電気製品の生産・性能向上に欠かせないものです. 例えば, ネオジムを使った強力なネオジム磁石は, ハイブリッド車, 電気自動車, 省エネ家電製品等に幅広く使用されています. また,
ジスプロシウムはネオジム磁石の耐熱性を高めるために必要不可欠です. これらは, 二酸化炭素削減等の環境対策のためにも重要な技術であり, 今後もレアアースの使用量は増大していくものと予想され, その安定確保の重要性が増していくと考えられます.
レアアースを含むレアメタルの安定供給は, 経済産業省は以前から課題としてきましたが, 一般の注目をあつめるきっかけになったのは,2010年9月以後の中国の事実上の輸出禁止でした. レアアースの産出量の大部分が中国一国により占められているため, その安定供給に対する中国の政策の影響は非常に大きいと言えます. 実際に, 中国は2010年以前から増値税還付率の引き下げ, 増値税還付の撤廃, 輸出税の導入,輸出税率の引き上げ, 輸出数量制限を順次実施し, 明確な輸出抑制政策をとってきました. WTO (World Trade Organization, 世界貿易機構) では輸入規制の制限・撤廃を主目的とし, 輸出規制に関してはあまり問題とされてきませんでしたが, 近年ではいくつもの国が懸念を表明しています.
「東京大学生産技術研究所 エネルギー工学連携研究センター」掲載記事
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労働経済学、労務・安全管理、家計の消費行動 |
近年, 格差拡大や不安定な身分の雇用形態が先進国の社会問題となっています. 日本でも, 1986年に労働者派遣法が制定され, その後も多様な雇用形態を可能にするような規制緩和が進みました. パート・アルバイト・派遣社員といったいわゆる正社員でない働き方は, 職場以外での自己実現を可能にし, 人々を幸福にすると考えられていました.
ところが, 1990年のバブル崩壊以後は景気が悪く, そのような働き方は雇用・収入の不安定性に直結することが懸念されています. こうした社会的問題について,調査対象が100万人以上という総務省の大規模データを用いて,労働者の無業期間と有効求人倍率の関係を分析しました. また,家計の消費行動の分析等も行っています.
構内請負労働者も, 非正社員と同様に弱い立場とされますが,孫請け, ひ孫請けと階層構造をなすことで, それ以上に劣悪な労働環境におかれやすいことが経験的に知られています.原子力発電所は, 重大な事故を防ぐために様々な規制がある場所ですが,同時に, 構内請負労働者が多い職場のひとつでもあります.原子力発電所を例として, 労働安全衛生と事故防止とが密接な関係にあることを示しました. さらに, 規制を遵守するためには構内請負を発注することが効率的でないにもかかわらず行われるメカニズムを, ミクロ経済学の理論を用いたモデルで説明し, それを計量経済学の手法でデータから検証する, ということも行いました.
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天候デリバティブに関する研究 |
企業, あるいは人々にとって, 最終的に得られる利益の総額を最大にすることは重要な目的ですが, その過程において直面する様々なリスクを管理し, 安定した活動をすることも重要といえます.自然災害などは明らかなリスクですが, 天候変動が対処すべき事業リスクであると認識されるようになったのは, 比較的最近のことです.
保険の場合, 生じた損害額や天候変動との因果関係が示せなければ支払いは行われませんが, 例えば冷夏で農作物の収穫が少なかったときの逸失利益のように, それらを示すことは一般的に難しく,時間もかかります. これに対して天候デリバティブは, 事前に定めた条件, 例えば8月中の真夏日の日数が何日未満といった条件が満たされれば即座に支払いがなされるものです.
当研究室では, 気温・降水・日照といった要素に関して統計的予測を可能にするモデルを構築・改善し, 天候デリバティブを開発・評価したり,電力会社やガス会社の費用構造・需要モデルの分析まで行うことで,天候デリバティブの需要を試算したりもしています. また, 太陽光発電システムの家庭・企業への導入の経済的価値の評価等も行っています.モデル化には, 季節による相違,
時間における連続性と周期性,地域間の相関等, 考慮するべき要因が多くあります.
特に降水量や日照時間は, マイナスの値と極端に大きな値をとらないという制約,ゼロや低い値の頻度が高いという特徴を持つため, 学生達も勉強した知識をもとに様々に工夫をこらしています.
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Tobitモデル、Sample Selection Biasに関する研究 |
トービット・モデル(Tobit Model)は,分析の対象とする変数がある条件を満足した場合のみに観測されるモデルです。 経済学の分野では,このモデルは Tobin [1958]によって耐久消費財への支出の分析に始めて用いられました。(このため,このモデルはトービット・モデルと呼ばれています。)その後,トービット・モデルに関する多くの研究が行われてきましたが,実証研究への応用は消費者の選択の問題や労働経済学の分野が中心であり,その他の分野での応用例は比較的少なかったのです。
しかしながら,近年では,トービット・モデルを金融資産の分析に使った注目すべき実証研究がいくつか行われています.例えば家計の資産保有の選択問題について考えてみます。家計によってはあるタイプの金融資産(例えば株式)をまったく保有しておらず,このような資産の保有額を調査すると多数の0が観測され,トービット・モデルによる分析が有効であると考えられます。
この様に、金融資産の分析では有効な分析手法であり,また,家計の資産保有状況の詳しい調査が行われるようになったこともあり,今後は実証研究への応用例が増加すると考えられます。
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