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InterviewCOG審査委員リレーインタビュー企画:
第8回 宇野重規 審査委員

――地域から政治・市民文化を変えることを目標に

 私は民主主義論を専門とする政治学者ですが、しばしば皆さんが「民主主義のイメージは選挙だ」と仰るのを耳にします。しかし、それは偏ったものであり、そのイメージを作ってしまったことに、政治学者として反省を感じることがあります。どうしても政治というと議員や政党を通じて社会を動かすというイメージが強く、政治参加といえば、デモへの参加を別にすれば、もっぱら選挙しかイメージできないかもしれません。政治を変えると言っても、新しい政党を作り、与党にすることしか思いつかないでしょう。しかし実は、民主主義は日常的にできることなのです。アメリカの政治・教育学者のジョン・デューイは、民主主義を「すべての人に実験をゆるす社会」と定義しました。みんなが身の回りでできる「社会を良くする取り組み」を実験し、それを周りの人が真似していけば、社会は自ずと変わっていきます。現代の日本には、こうした実験を応援する雰囲気がなかったり、粗さがしや問題点の指摘ばかりに腐心したりするというマイナス面があります。しかし本当は、面白いことを真似する柔軟さや、他者の試みを励ますことが求められているのではないでしょうか。

 COGはまさにそういう社会を目指しています。いろんな人たちが地域を良くするという民主主義的活動、つまり複数形の民主主義「democracy”s”」の実現を応援することで、各地域の活動がほかの地域にも影響を及ぼし、やがて日本の政治文化や市民文化を変えていくことを目指しているのです。ですから、コンテストで受賞することそれ自体が目的ではなく、その延長線上で社会を変えていくことで初めて、COGが目指すところを達成できると考えています。そして、社会を変えるためには、息の長い活動展開が求められます。COGが始まって5年、これまで素晴らしい提案がなされてきました。ただ、ずっと同じ人が頑張り続けていると、疲れたり息切れしたりしてしまうかもしれません。仕組みが動くようになったら、新しいメンバーを迎えることや選手交代していくことも視野にいれる、もしくは行政のサポートを手厚くして公的な仕組みや制度として強化するなどして、息の長い活動をするための体制を整えることも必要になってくるでしょう。そうやって、地域発信の活動を続けていくことで社会を変えるという民主主義の在り方を、ぜひ示してもらいたいと思っています。

――地方行政には関わるための制度も機運もある

 日本の政治の制度や仕組みを考えると国政と地域があり、その二つは大きく違います。実は、地方の方がはるかに参加のチャンネルも多いし、住民が担わないといけないことがたくさんあります。国政では議員を選ぶことはできますが、首相は直接選べません。もし選挙を通じて政治社会を変えたいと思ったら、自分たちと考えが合っている議員や政党を見つけないといけないし、その政党が多数派になって法律や制度予算をつくれるようにしないといけないという長い道のりが立ちはだかっています。しかし、地方であれば首長を直接選挙で選ぶことができるだけでなく、リコールもできるし、住民から行政に向けて提案することもできる。住民投票の制度もあります。「こういうことしたい」と思うことを自治体に直接アピールして、それによって行政が変わっていく可能性があります。そして、地域の自治体側もそれを求めているという側面があります。

 また、今の若い世代は「政治に関心があるか」と言われれば迷うけど、「社会や地域に関わることには関心がある」と聞かれれば、Yesと答える人が多いでしょう。様々な自治体で先験的な取り組みが行われていますし、現代は、社会を変えることに対してこれ以上ないほど追い風の時代を迎えているのです。ですので、まず挑戦してください。今の日本社会では、「100パーセント確実でないとやらない」といった雰囲気があり、それが閉塞感を生み出していると思うのです。その一方、COGは永遠のβ版を掲げていますので、最初から完成品でなくても当然良いのです。やってみると「こういうことできる」「問題点が何か」も分かります。少しずつ活動してから「変えていく、変わっていく、多くの人から学び合っていく、相互に影響を受けながら進化していく」というプロセスに自ら入ってみませんかと訴えたいと思います。

――住民はお客さんではなく、自治体力を底上げしてくれる仲間

 自治体にとって、住民はどういう存在でしょうか。もし仮に「住民はお客さんだ」と考えているとすれば、それは違うかもしれません。住民は消費者と違い、気に入らないからと簡単に「さよなら」とはできません。引っ越して別の自治体に行くことはできるでしょうが、現実的ではありません。ある意味でより深刻な関係であり、地域と運命・人生をともにする運命共同体なのです。

 行政に携わっていると、しばしば住民からの声を聞くこともあるでしょうし、それは一見するとクレームのように聞こえるかもしれません。しかし、それを「地域の一員としてこのままではまずいと思った」「地域のことだからこそ何とかしたい」というある種の問題意識だととらえたらどうでしょうか。地域の問題を解決する仲間であって、クレームに見えても、問題を最初に発見した通報かもしれません。住民が「こんな問題があるよ」と見つけてくれるのは、いわば自治体の目。その声は情報であり、そこに改善提案が含まれることも多くあります。住民が問題提起し、場合によっては「自分たちで何かやる」という機運をうまくつなげ、予算面や制度面でのサポートすることは、自治体の能力自体をパワーアップすることにつながります。コストカットの側面だけでなく、積極的に問題解決をするために、住民と協力していきませんか。COGはそのためのフィールドを提供しています。

――社会変革につなげるためにも、審査書類にも注力を

 新型コロナウイルスの感染拡大対策は、自治体によって対応が大きく違いました。そして、住民の主張に対し、首長がきちんとコミュニケーションとった自治体ほどうまく対応できていたように感じます。各地で様々な対応、いわば「実験」がなされ「第2波が来た時に向けた対応」という形で経験値が蓄積されました。この危機を自治体・社会が学び合うという「民主主義のレベルアップ」を加速するきっかけにしてほしいと思っています。

 一つお願いすることがあるとすれば、アイデアの面白さと現状分析を書類にもっと書き込んでほしいということです。もちろん「書類がすべてではない」ということも承知しています。しかし、書類をみると白紙が多くて「あまり期待できないな」と思っても、プレゼンをしてもらうととても盛り上がって面白く「なぜもっと書類に書き込んでくれなかったのか」と思うことがあるのです。地域の盛り上がりを書類には表すのは難しいでしょう。であれば例えば、「どういうふうに問題状況を認識しているか」に加え、「なぜこれまで解決されずに放置されていたのか」、もしくは「なぜ新しくこの現象が発生したのか」という分析をじっくり書き込んでください。そこにデータを添えて、「こうすれば対応可能だ」という部分まで応募用紙に書き込んでもらえると、とても良いですね。そしてさらに書類から想定される「こちらの期待」を上回るエネルギーを、本番で示してほしいです。書類の段階から充実させ、ぜひ本番で熱気を共有させてもらいたいと思っています。