私たちは、有機化学の考え方を生物学・遺伝学の分野へ積極的に導入することによって、生体高分子(核酸・タンパク質)の個々の構成単位もしくは原子が生命現象にどう関わっているかを系統的に理解し、それらの知見を元に新たな機能性人工生体高分子の作製へと展開していきたいと考えています。したがって、私たちは、生体高分子中のたったひとつの構成単位・原子を選択的に認識・変換・可視化する有機化学的手法のデザインと、それらを基盤とした多様な機能を有した生体高分子の設計、 生体高分子を原子レベルで同時解析できる新分析システムの構築に向け、研究を進めています。研究室では、有機合成、光物理化学、最新測定機器、生化学的分析法を駆使して化学と生物学のインターフェイスへの新しいアプローチを提示することを目指しています。

 ほんの1つの構成単位・原子の変化が生体高分子の機能発現に対して決定的な影響を与えることが少なくありません。例えば1塩基多型(SNP)と呼ばれるDNA配列中の1塩基の変化、それに伴うタンパク内の1アミノ酸の変化(時にはSTOPコドンへの変化によって未成熟タンパクができあがる)は、疾病易罹患率・薬物代謝機能に深刻な影響を与えます。また、エピジェネティクスと呼ばれる後天的な遺伝子の発現制御機構では、シトシンのメチル化やヒストンテールのアセチル化・リン酸化が遺伝子の発現・細胞の分化(つまり細胞の運命)を決定づけています。したがって、世界的な流れとして、遺伝子の操作・検出・解析において年々標的のサイズが遺伝子長・配列からヌクレオチドレベルへと小さくなってきており、エピジェネティクス解析ともなると長い長い遺伝子配列中のほんの1個の炭素原子の有無がターゲットになってきます。この原子レベルの違いを検出するために今までにもいくつもの生化学的方法が試みられてきましたが、いずれも非常に限定された方法であり、定量性も十分ではありませんでした。したがって、これらに代わる新しい概念の手法の提案が遺伝子発現解析の分野において喫緊に進められるべき課題であると私たちは考えました。

 私は、生体高分子中のある部位を原子レベルで選択的に区別・標識するには、これらの方法と異なり、生化学的手法に有機化学的な考え方をプラスするのが現実的だと思います。つまり、生体高分子のターゲットドメインを限定するのには生化学的手法を用い、その中の特定の位置で認識・反応を行うのは、有機化学的手法が有効だと考えました。有機化学的手法は、もともと原子レベルの認識・反応に長けており、上記の目的で使用することはきわめて効果的であるに違いありません。生体高分子中のほんの1つの構成単位・1つの原子の認識と精密反応をベースにして、これまで解決困難だった問題に対し化学的かつ合理的にシンプルな解答を導き出したいと強く考えています。

↑ページTOP

最近の研究成果の一例

光物理学的に設計された新規蛍光核酸によるDNA/RNAイメージング

「使わないときは消灯する」これを光物理学的な分子設計により可能にした新規蛍光プローブ(ECHOプローブ)を作成しました。ターゲットDNAやRNAの配列を認識したときにだけ蛍光発光します。混ぜるだけでターゲットの配列を蛍光によって読み出すことができる賢い蛍光性核酸プローブは、ハイスループット核酸配列解析や生細胞内RNA解析に大変効果的に応用できるでしょう。

エピゲノム解析のための化学的新手法論

細胞世代を超えて継承されうる、塩基配列の変化を伴わない遺伝子機能について研究するエピジェネティクスの領域に対して有機化学的にアプローチします。特に、DNA修飾についてその修飾ヌクレオチドに対する新規反応を探索しています。私たちは、長鎖DNAのメチル化やヒドロキシメチル化を効果的に検出する新しい化学反応を提案しています。

化学修飾した機能性ペプチドの創出

タンパク質・ペプチドを位置選択的に機能化することによって、本来の分子機能を補助・制御することが容易になります。リン酸化チロシンをSp1第2亜鉛フィンガーペプチドに導入すると、標的DNA のメチルシトシンに対するペプチドの結合力を維持しながら、メチル化を受けていないシトシンに対する結合力は失われました。このペプチドの配列選択性は、さらにタンデムに連結する亜鉛フィンガーペプチドの種類に応じて変換できます。このペプチドを用いたDNAメチル化の簡便検出法を提案しています。

 

↑ページTOP