沖野 郷子 【教授】専門:海底物理とテクトニクス

研究内容


【海底拡大プロセスと海洋リソスフェアの進化】

 新しい海底を生み出している中央海嶺や背弧の拡大プロセスを研究しています。特に、マグマ供給と拡大速度のバランスにより多様な海洋底が生成される過程に焦点をあて、マグマ供給が少なくテクトニックな拡大が卓越しているところや、逆にマグマ供給が過剰で厚い地殻ができているホットスポット近傍の海嶺系を研究しています。主な研究フィールドはインド洋とフィリピン海です。

 
 拡大速度に比してマグマ供給が過剰である場合、通常より厚い海洋性地殻が形成されることが知られています。この現象は特にホットスポットが近くにあって海嶺活動に影響を与えている場所で観察することができ、ホットスポットー海嶺相互作用と呼ばれています。2006年の白鳳丸航海では、レユニオンホットスポットからのびるプルームの影響下にある中央インド洋海嶺のロドリゲスセグメントの探査を行いました。ホットスポット起源と考えられる火山活動と中央海嶺系の火山活動がまさに接触する場所を明らかにし、また海嶺軸谷を埋め尽くす溶岩流を発見しました。

 
 2016年には、調査域をさらに北に広げて海嶺軸部の発達史を明らかにしたほか、この海域に複数ある非常に長いトランスフォーム断層の詳細な研究を開始しました。地球内部にどのような形でどの程度の水が存在するかは、マントル対流やプレートテクトニクスの全体像を理解する上で非常に重要です。水は沈み込むプレートを通じて地球深部にもたらされますが、プレートはいつどこで水を含むのでしょうか?水の入り口として注目されているのは、沈み込む直前にプレートがたわむ場所(アウターライズ)にできる正断層群と、大規模な横ずれ断層による破砕が進む海洋トランスフォーム断層です。アウターライズでの研究調査はこれまで行われてきましたが、トランスフォーム断層と水に着目した観測例はほとんどありません。2016年の調査を元に、トランスフォーム断層内の小断層群の分布、磁化強度測定と岩石分析による蛇紋岩化の実態を明らかにする予定です。

 
 一方、マグマ供給が不足する場としては、超低速拡大系が挙げられます。超低速(年間1.5cm)で拡大を続けている北極海クニポビッチ海嶺の調査航海(2000年)に参加し、深海曳航ソナー及び地形、重力のデータの解析を担当しました。重力データによる地殻の厚さの推定とソナー画像による火山活動や断層運動の解析から、クニポビッチ海嶺では通常の低速拡大系に比して火山活動がきわめて局所化している一方、そこでは火山活動が比較的長期にわたって続いていることを明らかにしました。

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  (現在英語のみ)

 
 南西インド洋海嶺もやはり超低速(年間1.4~1.5cm)で拡大を続けている海嶺です。2003年にはフランス船の調査に参加し、重力等の解析を担当しました。この調査では、海嶺軸だけでなく過去2600万年前にさかのぼるoff-axisのマッピングを行い、マントル物質が露出しているであろう海底が非常に広い範囲に及んでいることがわかってきました。また、2007,2009年度には白鳳丸によりマリオンホットスポット近傍の南西インド洋海嶺の調査を実施し、超低速拡大系におけるマグマ供給量の変化が拡大過程にどのような影響を及ぼすかの研究を行いました。

 
 2002年の白鳳丸の航海では南東インド洋海嶺の一部であるオーストラリア南極不連続(AAD)で地形、地磁気、重力のマッピングを行いました。ここは、拡大速度は中程度(年間7.6cm)なのにもかかわらず、低速拡大系の一部に見られるような、マグマの供給が少なくマントルが直接海底に露出しているような特異な地形と構造が見られます。

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 日本のはるか南に位置するパレスベラ海盆(すでに拡大を停止した背弧拡大系)で、地形、地磁気、重力の調査を行っています。ここでは、拡大速度が比較的速い(年間7~8cm)にもかかわらず、非マグマ的な拡大が世界最大規模で起こっていたことが明らかになりつつあります。調査は現在も進行中です。

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【海底熱水系とテクトニクス】

海底の熱水系は、地球の熱や物質の循環を考える上で重要です。現在300もの熱水系が世界の海嶺系や島弧でみつかっていますが、そこで噴出する熱水の化学組成は同一ではなく、異なる組成の熱水循環が異なるタイプの生態系を支えていることがわかってきました。このような熱水系の多様性は、元をただせばその場所(=海底)の岩石の種類、マグマなどの熱源の形態、断層系などの循環経路といった条件に規制されています。

  2009年には、JAMSTECのAUV「うらしま」を利用して、南部マリアナの3つの熱水系の詳細マッピングとプルーム観測を行いました。ここは背弧拡大軸と拡大軸の外側およそ5kmのところにある海山に海底熱水噴出孔があり、軸から離れた場所でどのように熱水系を維持するための熱源や循環路が維持されているかが問題です。図は海底上およそ100mの高度から測定した詳細な拡大軸部の地形図で、火山や断層の地形がこれまでにない精度で明らかになりました。磁力計も搭載し、熱水活動による海洋性地殻の磁化の変化や溶岩の新旧などもあわせて考察しています。


 インド洋の海嶺三重点付近では、マグマ供給が少なくマントル物質が露出していることを示唆する地形(コアコンプレックス)が見つかっていました。また、三重点のすぐ北に位置する熱水噴出孔(Kaireiフィールド)は水素を非常に多く含む熱水を噴出していますが、一般にこのような水素の多い熱水系はマントル岩を母岩とすると考えられています。しかしながら、この熱水系自体は玄武岩体の上に位置しており、熱水がどのような経路を循環し、どこでマントル岩との反応が起こっているのかを調べるうえでたいへんおもしろい場所になっています。また、典型的なコアコンプレックスのほかにもマントル岩の露出が確認されている場所が複数あり、テクトニクスとマグマティズムの時空間分布を研究するうえで非常におもしろい場所になっています。2006年の「よこすか/しんかい6500」航海では、潜水船接続型の3成分磁力計によりコアコンプレックスの磁化を明らかにし、2010年の白鳳丸総合調査では熱水系とその地質学的背景を探る総合的な調査を実施しました。

 沖縄トラフは伊豆小笠原弧とならんで、島弧・背弧の火成活動に伴う海底熱水系が見られる場所です。非常に多くの熱水噴出孔が発見され、海底掘削による詳細な研究も進行しています。私たちは、2014年に中部沖縄の伊良部海丘と多良間海丘でAUVうらしまを用いた詳細マッピングを行いました。伊良部海丘では、熱水変質に伴う磁気異常の存在を明らかにしたほか、多良間海丘ではこれまで存在は予測されていたものの未発見であった山麓部の熱水孔の位置を特定することができました。伊良部は背弧リフト軸部の火成活動に規制され、一方の多良間は島弧火成活動による流紋岩を母岩とする熱水系です。2017年には、日本の最西端の海底熱水系である第四与那国海丘の総合調査を新青丸で予定しています。

【日本南方の縁辺海形成史の復元】

 北西太平洋には縁辺海と呼ばれる多くの海盆が存在します。その中でも、フィリピン海プレートを構成する3つの海盆の形成の歴史を中心に研究を進めています。

 四国海盆とパレスベラ海盆は、本州の南に広がるおよそ2700万年から1500万年前に拡大した背弧海盆です。主に地磁気の解析を基に、これらの海盆が初期の東西拡大から後期の北東-南西拡大へと変化したことや、拡大速度の変化、拡大軸のジャンプなどを含めた詳細な形成史を復元しました。

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西フィリピン海盆はフィリピン海プレートを構成する最も古い海盆で、これまではおよそ3500万年前に拡大を止めたと考えられていました。1998年から2000年にかけて、この海盆の拡大軸ほぼ全体をカバーするような地球物理マッピングの航海を4回行い、はじめてこの拡大軸の全容を明らかにしました。その結果、海盆の東側と西側で対照的な拡大プロセスが起こっていたことがわかり、西側は昔のマントルプルームの活動がなんらかの影響を及ぼしていることを示しました。
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 沖縄トラフは琉球弧の背弧海盆で、現在はまだ海洋性地殻の連続的な生産ははじまっておらず、大陸性の地殻がひきのばされているリフティングのステージにあると考えられています。2002年の白鳳丸航海では、深海曳航型サイドスキャンソナーによる超微細な地形マッピングを行いました。2014年、2017年には、熱水系の調査と合わせて広域マッピングを実施し、大陸地殻のリフトの進化を研究しています。

 

【高解像度海底マッピングの技術】

 研究船からの観測は海底から数km離れたリモートセンシングなので、陸上地質調査のような高解像度のマッピングはできません。近年進歩してきた深海探査機を利用して、1mスケールの地形や地質構造マッピング、数十メートルスケールの磁気異常探査を実施し、解析手法の開発を行っています。

 有人潜水船や無人ロボット(Autonomous Underwater Vehicle)に装着できる小型のフラックスゲート三成分磁力計を開発し、利用しています。磁化源である海底近くで面的な観測が可能になり、海底熱水循環による地殻の変質や、古地磁気強度変動の研究へ応用しています。

(右写真)手前が左舷(FG4)、奥が右舷(FG1)

 

 

 

 AUVに搭載されている音響測深機を利用して得られた高解像度の多良間海丘(沖縄トラフ)の地形データを赤色立体地図でビジュアル化しました。また、水中音響の解析により実際に海中に熱水が噴出しているところ(泡を検知している)を捉えました。

 

 AUVに磁力計を搭載し、高分解能の磁気異常探査を行い、磁化分布を調べました。熱水変質により熱水系周辺は磁化が失われることがはっきり示されました(図では寒色系)。磁気探査から未発見の熱水孔を特定する試みも行っています。

 有人潜水船や無人ロボット(Autonomous Underwater Vehicle)に装着できる小型のフラックスゲート三成分磁力計を開発し、利用しています。磁化源である海底近くで面的な観測が可能になり、海底熱水循環による地殻の変質や、古地磁気強度変動の研究へ応用しています。



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