1) 運動量空間における量子トポロジー現象
1-1.異常ホール効果とスピンホール効果(永長 直人)
以前から行ってきた異常ホール効果とスピンホール効果の研究は、理化学研究所でも継続して行っている。まず、異常ホール効果については2010年にそれまでの自らのグループおよび他のグループの研究成果をまとめた総説をReviews of Modern Physics誌に出版した[7]。これは専門家で構成されるEditorからの招待論文であり、現在の被引用数576回という数字からも、我々の主張してきたBerry位相による異常ホール効果の理論が世界的に認知されたと考えている。また、懸案であった異常ホール効果における非弾性散乱と弾性散乱の役割に関して、新しいスケーリング則が実験的に見出されたことに呼応して理論的な研究を行った[13]。具体的には、乱れによる弾性散乱は数値的対角化で厳密に扱い、非弾性散乱はグリーン関数の自己エネルギーとして取り込むという近似で、コンダクタンスを計算し、両者役割を区別することで新しいスケーリング則を理論的に基礎づけた。
スピンホール効果についてはその代表的な物質であるプラチナ(Pt)に対して内因性機構による寄与を第一原理計算により評価し、実験で観測されている値がほぼこの機構で説明できることを示した[14]。その際、フェルミエネルギー近傍にあるバンド交差の構造が共鳴的にスピンホール伝導度を増大させていることを見出した。この計算は、最近プラチナが磁化した場合の異常ホール効果の計算へと拡張され、スピンホール伝導度のフェルミエネルギーに関する微分係数が異常ホール伝導度を決めていることを示した[15]。
以上は、内因性機構に関する仕事であるが、一方でFeとAuを含む系で10%以上にも及ぶ巨大なスピンホール角が実験的に観測されたことに刺激され、スキュー散乱機構によるスピンホール効果の研究を行った。具体的には、軌道とスピンの自由度を併せ持つFe原子の近藤効果を再検討し、スピンに依存するスキュー散乱角が近藤共鳴状態で増大することを示した[16,17,18]。この効果は外部磁場によってスピン揺らぎを抑えた異常ホール効果の場合には存在しない強相関効果であり、同時にFeの近藤効果に再考を迫る結果でもある。最初の提案論文の後、量子モンテカルロ法を用いた数値計算によりこの主張を基礎づけ[17]、さらに現実の系で重要な表面の効果も議論している[18]。
[13] A. Shitade and N. Nagaosa, J. Phys. Soc. Jpn.81, 083704 (2012).
[14] Guang-Yu Guo, Sadamichi Maekawa, and Naoto Nagaosa, Phys. Rev. Lett. 102, 036401 (2009).
[15] G. Y. Guo, Q. Niu, and N. Nagaosa, Phys. Rev. B 89, 214406 (2014).
[16] G. Y. Guo, S. Murakami, T.-W. Chen, and N. Nagaosa, Phys. Rev. Lett. 100, 096401 (2008).
[17] Bo Gu, Jing-Yu Gan, Nejat Bulut, Timothy Ziman, Guang-Yu Guo, Naoto Nagaosa, and Sadamichi Maekawa, Phys. Rev. Lett. 105, 086401 (2010).
[18] B. Gu, I. Sugai, T. Ziman, G. Y. Guo, N. Nagaosa, T. Seki, K. Takanashi, and S. Maekawa, Phys. Rev. Lett. 105, 216401 (2010).
1-2.トポロジカル絶縁体(永長 直人、野村健太郎、森本 高裕)
トポロジカル絶縁体は、バルク内は絶縁体だが表面に金属状態が現れる新しい物質相である。バルクのバンド状態が、Berry位相の第一Brillouinゾーン内にわたる積分で与えられるトポロジカル指数によって特徴付けられるため、それがゼロである自明な真空状態との間で必ずギャップが閉じる必要が生じる。これが、表面でギャップを持たない金属状態が実現することの理由である。(バルクーエッジ対応)この表面状態は、以下に述べる特異な性質を持っている。まず、ギャップが閉じる点(縮退点)が、バルク状態のトポロジーによって保護されているために乱れや欠陥に対して安定である。つまり、時間反転対称性を破らない限り必ず金属状態となり、2次元であるにも関わらずアンダーソン局在すらも示さない。また、この2次元表面状態はバルクの電子状態を半分ずつ上面と下面に分裂させたことに対応している(電子分裂)。トポロジカル絶縁体に即して言えば、4成分のフェルミオン状態が2成分ずつに分裂し、それぞれスピンと運動量が一対一対応した2次元ワイルフェルミオンとして記述される(スピン・運動量ロッキング)。これは、次節で述べるラシュバ効果が無限大となった極限に対応する。最後に、磁性や超伝導との近接効果を考えると、多彩な物理現象が期待される。その例としては、トポロジカル電気・磁気効果や量子化異常ホール効果、超伝導近接効果に伴うマヨラナフェルミオンの出現などを挙げることができる[10]。この分野で、我々のグループは以下に述べる成果を挙げてきた。
1-2-1.トポロジカル絶縁体を用いたスピントロニクス機能の開拓
上述のようにスピン・運動量ロッキングを示すワイル表面状態はスピン軌道相互作用が最も強い系と捉えることができるので、種々のスピントロニクスの機能開拓有望な舞台となる。この観点から、理論的にトポロジカル絶縁体の表面状態を使ったスピンと電流、電荷の結合を研究してきた。まず、2次元トポロジカル絶縁体と通常金属との接合系を考えのへリカルエッジモードによって反射された電子のスピンが巨大な回転を起こすことを示した[19]。また、3次元トポロジカル絶縁体の表面に磁性体を張り付けた時の磁化のダイナミクスを(電流の効果も含め)記述するLandau-Lifshitz-Gilbert方程式を、グリーン関数法を用いて微視的な立場から導いた[20]。これにより、Gilbert damping係数$\alpha$が非常に大きくなること、非断熱係数 $\beta$はそれに対して非常に小さくなること、スピントランスファートルクが働かないこと、などを明らかにした。また、2つの強磁性体を表面上で接合させたときのコンダクタンスが、それぞれの磁化の向きにどのように依存するかを調べた[21]。この磁気抵抗効果では、表面の面内磁化と面間磁化の役割が全く異なること、反平行配置の方が平行の場合に比べてコンダクタンスが大きくなる場合があること、など従来の磁気抵抗と全く異なる振る舞いを見せることを示した。また、3次元トポロジカル絶縁体表面の磁性絶縁体は、スピン・運動量ロッキングのためにスピン電気分極とスピンが1対1対応する理想的なマルチフェロイクス系であることを指摘し、磁荷が電荷に対応することを示した[22]。今年に入って、3次元トポロジカル絶縁体表面の磁壁構造をミクロなハミルトニアンから調べて、表面状態のドーピング濃度によってネール壁からブロッホ壁へと構造が変化すること、電場による駆動が可能であること、などを示した[23]。
[19] T.Yokoyama, Y. Tanaka, and N. Nagaosa, Phys. Rev. Lett. 102, 166801 (2009).
[20] T. Yokoyama, J. Zang, and N. Nagaosa, Phys. Rev. B 81, 241410(R) (2010).
[21] T. Yokoyama, Y.Tanaka, and N.Nagaosa, Phys. Rev. B 81, 121401(R) (2010).
[22] K. Nomura and N. Nagaosa, Phys. Rev. B 82, 161401(R) (2010).
[23] R. Wakatsuki, M . Ezawa, and N. Nagaosa, Scientific Reports, 5, 13638 (2015).
1-2-2.量子化異常ホール効果とトポロジカル電気磁気効果
我々は、2003年に異常ホール効果が2次元においては局在効果によって低温極限で量子化する可能性があることを示した[24]。無磁場でホールコンダクタンスが量子化するというこの理論提案には、なかなか実験的検証を得られなかったが、S.C.Zhangらによって磁性イオンを添加した3次元トポロジカル絶縁体の表面状態が量子化異常ホール効果の有望な系であることが指摘され、急速に研究が進展した。一方のトポロジカル電気磁気効果とは、電気磁気効果の係数が量子化するという現象で、やはり表面ワイル状態にギャップが開くことで絶縁化した場合に起きる[10]。その起源は、表面状態が量子ホール効果を示すということにあり、量子化異常ホール効果と相補的な関係にある。この両者は上表面と下表面の面直磁化の符合$m_{1}$,$m_{2}$の関係によって区別される。(常に試料の中から外に向かう向きを正と取る。)$m_{1}=-m_{2}$ の場合には、サイドの表面に1次元的なエッジチャンネルが現れて量子化異常ホール効果が起きるのに対して、$m_{1}=m_{2}$の場合(より正確には常に磁化の向きが表面上で常に外向き(内向き)である場合)にはトポロジカル電気磁気効果が実現する。
我々は、この問題に対して、現実の系では必ず存在する乱れとそれに起因する電子局在の効果を理論的にしらべた[25]。時間反転対称性がある場合には、乱れがあっても表面状態は局在を示さない。そこで、磁性不純物が存在する場合の表面状態の局在問題を、数値的に調べた。縦横の伝導度の2次元平面での繰り込み群のスケーリング軌跡を描くことで、低温に向けての電子局在の様子を知ることができる(図3)。その結果、通常の量子ホール効果に対して成立していると信じられているスケーリング軌跡と比べて$\sigma_{xy}$軸が$\frac{e^{2}}{2h}$だけシフトしており、対応して繰り込み群の安定な固定点が($\sigma_{xx}, \sigma_{xy}$)=(0,$\mp\frac{e^{2}}{2h}$)となることが分かった。つまり$\sigma_{xy}$=0のラインは安定ではなく、わずかな時間反転対称性の破れが繰り込み効果で増大することを示している。この効果により、従来大変厳しい条件下でのみ可能と信じられてきた量子化異常ホール効果、トポロジカル電気磁気効果がより簡単に実現できることを示した。つまり、フェルミエネルギー$\varepsilon_{F}$が磁気秩序によって表面状態に開いたギャップの中に存在することが必要とされてきたのに対して、局在効果を考えると$\varepsilon_{F}$がバルクギャップの中にあれば良く、条件が緩和されることになった。さらにトポロジカル電気磁気効果に関しては表面磁化の向きが常に外向き(内向き)という難しい条件があるが、この点についても電場と磁場を同時に印可してアニーリングを行うことによりクリアーできることを提案した。
この問題に対しては、近年大きな進歩があった。まず量子化異常ホール効果についてはCrをドープした(Bi,Sb)2Te3薄膜において実験的に観測されるに至った。そして、Crをドープしない(Bi,Sb)2Te3薄膜でも、外部磁場印可するとワイルフェルミオンのランダウ準位形成が観測され、$\sigma_{xy}$=0のプラトーが現れる[26]。この$\sigma_{xy}$=0状態は上表面と下表面で$\sigma_{xy}=\pm\frac{e^{2}}{2h}$が相殺していることで起きる。我々は、その時には側面表面は有限幅のためにギャップは生じるもののエッジチャンネルが存在していることを理論的に示し、そのエッジチャンネルを用いたスピン・電圧変換などのスピントロニクス機能を提案した[27]。さらに、この$\sigma_{xy}$=0の薄膜系がトポロジカル電気磁気効果の最も有望な候補であることを指摘した[28]。
[24] M. Onoda and N. Nagaosa, Phys. Rev. Lett. 90, 206601(2003).
[25] Kentaro Nomura and Naoto Nagaosa, Phys. Rev. Lett. 106, 166802 (2011).
[26] R. Yoshimi,A. Tsukazaki,Y. Kozuka,J. Falson,K.S. Takahashi,J.G. Checkelsky,
N. Nagaosa,M. Kawasaki and Y. Tokura, Nature Communications 6, 6627(2015)
[27] T. Morimoto, A. Furusaki, and N. Nagaosa, Phys. Rev. Lett. 114, 146803 (2015).
[28] T. Morimoto, A. Furusaki, and N. Nagaosa, Phys. Rev. B 92, 085113 (2015).
1-2-3.強相関トポロジカル絶縁体
トポロジカル絶縁体となることが確認されている物質は、そのほとんどが電子間の相互作用が小さくバンド理論が非常に良い記述となっている。(それが、トポロジカル絶縁体理論の成功の原因でもある。)一方で、遷移金属をはじめとする電子相関の強い系のトポロジー的性質はほとんど調べられていない。我々は、この世界に先駆けて「強相関トポロジカル絶縁体」の概念を提出し、具体的物質としてNa2IrO3 [29]と4d、5d遷移金属酸化物の2層系[30]を提案した。スピン軌道相互作用は重い原子を含むと大きくなり、同時にトポロジカル状態の可能性が高まる。一方で、電子相関は軌道が広がると小さくなるので3d、4d、5dと周期律表で下に行くほど小さくなる。この両者の傾向が拮抗するのが5d電子系であり、その代表例としてIr原子が最近注目されている。その中でNa2IrO3は図4に示すようにグラフェンと類似のハニカム格子を持つことに着目し、第一原理電子状態計算とそれから導いた有効模型の解析によりその電子状態を調べることで、磁気秩序が起こらない限り2次元のトポロジカル絶縁体となることを予言した[29]。ほぼ同時期に、Na2IrO3のスピン系はフント結合が強い場合にはKitaev模型という量子スピン液体状態を示す模型にマップできるという提案も提出され、この2つの論文が端緒になってNa2IrO3及びその関連物質の研究が爆発的に進展した。
Na2IrO3は単結晶の作成が難しいため、人工的な物質で強相関トポロジカル絶縁体を実現できれば、制御性、操作性を格段に向上することができるであろう。この観点から、我々は遷移金属酸化物の薄膜構造でのトポロジカル絶縁体の提案を行った[30]。ぺロブスカイト構造を(111)方向に2層積層するとハニカム格子が現れることに着目し、4d、5d遷移金属酸化物薄膜がトポロジカル絶縁体となることを予言した。ここでも第一原理電子状態計算と有効模型の解析を組み合わせ、後者に電子相関を取り入れた模型の数値対角化を行って、強相関効果を調べた。特に、強磁性状態において適当な電子密度を設定すると外部磁場がなくとも分数量子化異常ホール効果が起きることを示した。これらの強相関トポロジカル絶縁体の理論提案は、2009年に出版された論文[29]が被引用225回、2011年に出版された論文[30]が被引用120回という数字にも表れているように一つの研究分野を創成することになった。
[29] A. Shitade, H. Katsura, J. Kuneš, X.-L. Qi, S.-C. Zhang, and N. Nagaosa,
Phys. Rev. Lett. 102, 256403 (2009).
[30] D. Xiao, W. Zhu, Y. Ran, N. Nagaosa, S. Okamoto, Nature Communications 2,
596 (2011)
1-3.巨大ラシュバ効果物質(永長 直人、Mohammad Bahramy)
ラシュバ(Rashba)相互作用は、Rashbaによって理論的に予言された相対論的スピン軌道相互作用であり、反転対称性が破れた系で発生する。例えば、z方向に対称性が破れている場合には
の形に書ける。ここで、$\alpha$はRashba相互作用係数、$k_{x},k_{y}$は面内の運動量、$\sigma_{x},\sigma_{y}$はスピンのx、y成分である。この相互作用は、従来は銀などの表面や半導体の界面といった2次元系で議論されることが多かったが、我々は3次元のバルクの系でラシュバ相互作用を示す系BiTeIの研究を行った。この物質ではBiの層が、Teの層とIの層に挟まれているので、反転対称性が結晶構造としてz方向に破れている。我々は、第一原理電子状態計算を行い、伝導帯、価電子帯双方が(1)式で記述されるような巨大なラシュバ分裂(~0.1eV)を起こすことを示し、この予言はスピン・角度分解光電子分光によって確認された(共同研究[31])。(図5)そしてRashba分裂の大きい理由が、強いスピン軌道相互作用や小さいバンドギャップに加えて、伝導帯の底、および価電子帯の頂上の波動関数が同じ対称性を持つことであることを見出した[32]。
このように、電子状態のモデルが確定されると、種々の物理量を(1)式の相互作用を含んだハミルトニアンを用いて予言、解析できる。我々は、軌道磁性帯磁率がフェルミエネルギーの関数として符合変化を示すこと、バンド交差のところで特異性を示す(温度ゼロでは発散する)こと、などを示し、これは実験でも観測された(共同研究[33])。また、光学スペクトル、磁気光学に特徴的な構造が現れることをも予言し、これも実験で検証された(共同研究[34,35])。また、バンド交差の周りを一周すると$\pi$のBerry位相が獲得されることが予想されるが、これはShubunikov–de Haas (SdH) 振動から観測可能である。実験グループとの共同研究において、スピン分裂した小さいフェルミ面と大きいフェルミ面の両方が存在する場合のSdH)振動を理論的に解析し、確かに$\pi$のBerry位相が存在することを示した[36]。
さらに、第一原理計算において圧力下での構造最適化を行い、電子状態の変化を追跡した。その結果、約2GP付近でギャップが閉じて、さらに圧力を加えると再びギャップがあくことを示した。このギャップが閉じる点は、トポロジカル量子相転移であり、高圧側では3次元トポロジカル絶縁体となることを予言した[37]。反転対称性の破れた系での量子相転移は、時間反転対称な運動量でない一般のk点でギャップが閉じること、トポロジカル絶縁体相での表面状態が上面と下面で異なり、運動量・スピン結合の向きが反転しないこと、など興味深い性質を示す。対応して、圧力印可の実験が行われ、Shubunikov–de Haas (SdH) 振動の測定から確かにギャップが小さくなってPc =3.5GPに量子相転移が起こりそうなことが見出されている[38]。
[31] K. Ishizaka, N. Nagaosa, et al, Nature Materials 10, 521 (2011).
[32] M. S. Bahramy, R. Arita, and N. Nagaosa, Phys. Rev. B 84, 041202(R) (2011).
[33] G. A. H. Schober, H. Murakawa, M. S. Bahramy, R. Arita, Y. Kaneko, Y. Tokura, and N. Nagaosa, Phys. Rev. Lett. 108, 247208 (2012).
[34] J. S. Lee, G. A. H. Schober, M. S. Bahramy, H. Murakawa, Y. Onose, R. Arita, N. Nagaosa, and Y. Tokura, Phys. Rev. Lett. 107, 117401 (2011).
[35] L. Demkó, G. A. H. Schober, V. Kocsis, M. S. Bahramy, H. Murakawa, J. S. Lee, I. Kézsmárki, R. Arita, N. Nagaosa, and Y. Tokura, Phys. Rev. Lett. 109, 167401 (2012).
[36] H. Murakawa, M. S. Bahramy, M. Tokunaga, Y. Kohama, C. Bell, Y. Kaneko, N. Nagaosa, H. Y. Hwang, Y. Tokura, Science 342(6165) 1490-1493 (2013)
[37] M. S. Bahramy, B. -J. Yang, R. Arita, N. Nagaosa, Nature Communications 3, 679 (2012).
[38] T. Ideue, J. G. Checkelsky, M. S. Bahramy, H. Murakawa, Y. Kaneko, N. Nagaosa, and Y. Tokura. Phys. Rev. B 90, 161107(R) (2014).
1-4.トポロジカル超伝導体(永長 直人、野村健太郎)
超伝導状態もBCS理論ではBogoliubov-de Gennesのハミルトニアンにより1粒子「バンド構造」が定義でき、一般にはエネルギーギャップが存在する。このために、超伝導状態もトポロジー的な分類が可能であり、実際にトポロジカル超伝導体がいくつか提案されている。He3のB相が(超伝導ではなく超流動ではあるが)その代表例である[10]。トポロジカル超伝導では、電子の分裂が粒子と正孔のセクター間で起きるために、粒子と反粒子が一致するMajorana fermion(マヨラナフェルミオン)という特別な粒子が出現する舞台となる。Majorana fermionは高エネルギー物理学でニュートリノの模型として提案されたものであるが、固体物理学や量子情報の分野においてその重要性が認識されている。特に他の自由度との相互作用のチャンネルがほとんどなくなるために(つまりトポロジカルに保護されているために)量子ビットとしての安定性があること、非可換統計性のために量子計算にとって有用であること、などから量子コンピューターの基礎として研究が進んでいる。我々は、理論的な立場からトポロジカル超伝導体とマヨラナフェルミオンの設計と機能開拓を行ってきた。
まず、前節で述べたラシュバ系で、電子間相互作用がある場合のトポロジカル超伝導の可能性について検討した[39]。この系が有望な理由は、フェルミ面がスピン分裂していること、そのスピンの向きがk空間でそれぞれ逆方向に一回りしていること、である。この点に着目して、s波ペアリング、p波ペアリングの両者を取り入れた模型で、試料端に現れるアンドレ―フ束縛状態を解析し、p波ペアリングが優勢な時にスピン方向によって伝播の向きが逆になるヘリカルマヨラナエッジモードが存在することを見出した。これはヘリカルなトポロジカル超伝導が実現していることを意味している。そして、このエッジモードは、金属系との接合でスピンに強く依存したアンドレ―フ反射を引き起こすことを示した。この仕事の発展として、ラシュバ系を2層用意して結合させると、より現実的な相互作用でヘリカルトポロジカル超伝導が出現することを示した[40]。この系は、LaAlO3 /SrTiO3の超構造で実現することが可能であり、界面一層で超伝導が実現していることを考えると、界面内の引力相互作用を仮定するのが妥当である。これに界面間の斥力を加えると、面内ではs波だが秩序パラメーターの符合が面間で逆になるペアリング状態が安定化する。この超伝導状態がヘリカルトポロジカル超伝導になるのである。関連して、ヘリカルマヨラナエッジチャンネルに磁性不純物を置いた場合の近藤効果を解析した[41]。マヨラナフェルミオンのスピンが1方向のみの成分を持つという特殊な性質から、特徴的なコンダクタンスや帯磁率の温度依存性が現れることを示した。
3次元トポロジカル絶縁体の表面に超伝導体を接合した系も多くの注目を集めている。これはFu-Kaneによる理論提案を発端とする問題であるが、表面状態のスピン・運動量ロッキングのためにトポロジカル超伝導が現れることが期待されている。我々は、3次元トポロジカル絶縁体の表面にs波以外の超伝導体を置いた系を考察した[42]。その結果、スピン3重項ペアリングの場合には、あらゆる場合に励起ギャップが閉じてアンドレ―フ反射が強く抑制されることを示した。また、d波スピン1重項ペアリングの場合は、ゼロエネルギーに縮退していたアンドレ―フ束縛状態がマヨラナフェルミオンとなることを見出した。さらに進んで、我々はトポロジカル絶縁体表面における金属(N)、強磁性絶縁体(FI)、超伝導体(S)のN/FI/S接合および S/FI/S接合を考え、その輸送特性がFIにおける磁化の向きによって制御されることを示した[43]。特に、S/FI/S接合におけるジョセフソン効果が、磁化の面直成分に依存した位相シフトを起こすことを見出した。
もう一つの、トポロジカル超伝導の候補は1次元の量子ワイヤである。スピン軌道相互作用を持つ半導体量子ワイヤにs波超伝導体上に置き、さらに外部磁場をかけると、近接効果によって1次元スピンレスp波のカイラルトポロジカル超伝導が実現し、その両端にゼロエネルギーの0次元マヨラナ束縛状態が現れることが提案されている。この提案は最近のDelft大学をはじめとするいくつかの実験でほぼ確認されるに至っている。我々は、スピン軌道相互作用のない通常の伝導体からなる量子ワイヤをp波やd波のペアリングをもつ超伝導体の上に乗せた系を考えた[44]。その結果、スピンの自由度を残した1次元ヘリカルトポロジカル超伝導が実現し、対応して試料端にヘリカルトマヨラナ束縛状態が現れることを示した。この場合には、各端でスピン1/2に対応する1量子ビットが存在するが、端の間に非局所的な量子相関が存在する。しかも、その相関がフェルミン数の偶奇性によって制御されるということを見出し、ゲート電圧によるスピン操作の可能性を指摘した[44]。
最近になって、操作型トンネル顕微鏡を使ってs波超伝導体の上に磁性不純物を1次元的に並べ、ギャップ中に生じる束縛状態(斯波状態と呼ばれる)の間の相互作用で1次元スピンレスp波のカイラルトポロジカル超伝導を実現するという仕事が報告されている。我々は、磁性不純物の配置を2次元的に拡張し、特にスキルミオン結晶状態(後述)の配置では2次元p+ipカイラルトポロジカル超伝導が現れることを示した[45]。
[39] Y. Tanaka, T. Yokoyama, A. V. Balatsky, and N. Nagaosa, Phys. Rev. B 79,
060505(R) (2009).
[40] S. Nakosai, Y. Tanaka, and N. Nagaosa Phys. Rev. Lett. 108, 147003 (2012).
[41] R. Shindou, A. Furusaki, and N. Nagaosa, Phys. Rev. B 82, 180505(R) (2010) .
[42] J. Linder, Y. Tanaka, T. Yokoyama, A. Sudbø, and N. Nagaosa, Phys. Rev. Lett. 104, 067001 (2010).
[43] Yukio Tanaka, Takehito Yokoyama, and Naoto Nagaosa, Phys. Rev. Lett. 103,
107002 (2009).
[44] S. Nakosai, J. C. Budich, Y. Tanaka, B. Trauzettel, and N. Nagaosa, Phys. Rev. Lett. 110, 117002 (2013).
[45] Sho Nakosai, Yukio Tanaka, and Naoto Nagaosa, Phys. Rev. B 88, 180503(R) (2013).
1-5.ディラック半金属、ワイル半金属(永長 直人、Bohm-Jung Yang)
電子状態のトポロジーは主としてエネルギーギャップが存在する系に対して調べられてきたが、バンド交差もトポロジーによって保護されている。その代表例はワイルフェルミオンである。時間反転対称性Tがある電子系では、クラマースの定理によって2重縮退が存在する。これと空間反転対称性Pが合わさると各k点においてスピン縮退が存在するが、Pが破れた場合には一般のk点ではスピン分裂が起きる。(1-3.で述べたラシュバ系はこの場合に対応している。)強磁性体においては、そもそもクラマースの定理が破れているのでスピン縮退はなく、バンド間の交差は2x2のハミルトニアンで記述される。
$\sigma=(\sigma^{1},\sigma^{2},\sigma^{3})$をパウリ行列として、kを適当に線形変換すると
という形に書ける。ここで$\eta=\pm1$はカリラリティの自由度であり、$v$は速度である。バンド交差の点${\bf k}_{0}$は運動量空間における創発磁場の特異点(発散点)となっており、それを囲む表面に沿って創発磁束を積分すると$2\pi\eta$の値を得る。つまり、バンド交差は創発磁場のモノポールあるいはアンチモノポールとして振る舞うトポロジカル構造なのである。この事実は、2003年に、金属強磁性体SrRuO3の異常量子ホール効果の論文[46]で我々が指摘したことであるが、最近はちょうどバンド交差がフェルミエネルギーに一致するワイル半金属が注目を集めている。この問題に対して、以下の研究を行った。
1-5-1.ワイルフェルミオンにおける相互作用効果の繰り込み群による解析
ワイル半金属は、フェルミエネルギーでの状態密度がゼロであるために長距離クーロン相互作用が十分に遮蔽されない。そのために電子間相互作用の効果が顕著に現れる。ワイルフェルミオンにおける相互作用効果は2次元のグラフェンを対象に理論的研究がなされてきた。この場合には1層の2次元系は3次元の電磁場に影響を与えない。一方、3次元のワイルフェルミオンやディラックフェルミオンの相互作用効果では、電磁場も物質からの影響を受けるために、両者を結合系として扱う必要がある。我々は、摂動論的繰り込み群の手法を用いてこの問題を扱った[47,48]。量子電磁気学(QED)とも類似しているが、大きな違いは今の場合光の速度cと電子の速度vが異なるためにローレンツ不変性が破れていることである。これによって無次元の相互作用定数$\alpha$が通常の1/137からc/vの因子だけ大きくなり、強結合効果が現れる可能性がある。繰り込み群の方程式を解くと、相互作用はmarginally irrelevantであり、スケーリングに伴って2つのエネルギースケールが現れることが分かった。一つは、の繰り込み補正が裸の値と同程度になるエネルギー、もう一つは光の速度と電子の速度がほぼ一致するエネルギーである。(低エネルギー極限で両者は一致してローレンツ不変性が復活する。)この2つのエネルギー(温度)スケールで、それぞれ誘電率と軌道帯磁率が特徴的な変化を示すことが結論された。しかし、3次元のトポロジカル絶縁体への量子相転移点で現れる質量ゼロの3次元ディラック系にこの理論を適用すると、$\alpha$の値がまだ小さいために2つのエネルギースケールが実験で到達できない極低温になることが分かった。このために、より強結合のワイル、もしくはディラックフェルミオンを探索することにした。
準2次元有機導体$\alpha$-BEDT塩が電荷秩序相の近傍に2つのワイルフェルミオンを持つことが知られており、今の目的に最適の系であることがわかった。このワイルフェルミオンは一般のk点に中心があり、図6(左図)に示すように速度がある方向に傾いた分散を持っている。そのために速度の繰り込みが複雑になりk空間の領域によって異なるという事情が生じる。ところが、この物質では3種類の分子の軌道がそれぞれk空間で異なる重みを持っているために、分子ごとに核磁気共鳴(NMR)の信号を分離することで有益な情報が得られ、これを理論と直接比較することが可能となる。図6(右図)のA,B,Cのカーブは、$\alpha$の値だけをフィッティングパラメーターとした3種類の分子のNMR帯磁率の温度変化の計算結果で、丸が対応する実験結果(鹿野田ら、未発表)である[49]。低温で顕著に帯磁率が抑えられているのは、繰り込み効果で速度が速くなったために状態密度が小さくなったためである。相互作用がないときには温度に比例する直線となることを考えると、この物質では繰り込み効果が顕著に現れており、温度および分子依存性が良く理論によって説明できていると言える。
我々はさらに進んで、一般化されたワイルフェルミオンの相互作用効果を調べた。具体的にはハミルトニアン
で記述される系である。分散が1方向だけ運動量の2乗になっているこの分散は、2つのワイルフェルミオンがz方向で近づいて対消滅する量子相転移点で現れる。この模型に長距離クーロン相互作用を加えて、繰り込み群による解析を行った[50]。その結果、相互作用はirrelevantであるがクーロン相互作用のプロパゲーターが
という非自明な形に収束することが分かった。さらに、今年になって(3)式で 方向の分散をなくした2次元模型に対して同様の解析を行ったところ、この場合は相互作用がmarginally irrelevantであること、低エネルギー極限で非フェルミ流体となること、などを見出した[51]。
[46] Z. Fang, N. Nagaosa et al., Science 302(5642), 92-95 (2003)
[47] Hiroki Isobe and Naoto Nagaosa, Phys. Rev. B 86, 165127 (2012).
[48] Hiroki Isobe and Naoto Nagaosa, Phys. Rev. B 87, 205138 (2013).
[49] Hiroki Isobe and Naoto Nagaosa, J. Phys. Soc. Jpn. 81,113704 (2012)
[50] B.-J. Yang, E.-G. Moon, H. Isobe, and N. Nagaosa, Nature Physics 10, 774 (2014).
[51] H. Isobe, B.-J. Yang, A.Chubukov, J.Schmalian, and N.Nagaosa, ArXiv:1508.03781.
1-5-2.パイロクロア強磁性体におけるワイル半金属と量子ホール効果の研究
パイロクロア格子の酸化物反強磁性体R2Ir2O7はall-in-all-outと呼ばれる磁気構造を持ち、図7に示すように電子相関の強さに応じて多彩な相図を示すことが予想されている。電子相関の強さは、反強磁性モーメントの大きさと読み替えることができる。その中でも最も興味深いのはディラック半金属相と、そのモット絶縁体相への量子相転移である。(この量子相転移点は上で述べたワイルフェルミオンの対消滅として理解される。)
我々は、この系を薄膜化したときの電子状態を特に(111)方向の薄膜に着目して考察した[52]。その理由は、ワイルフェルミオンの対が、(111)方向とそれに等価な他の3つの、合計4つ存在するからである。この4つの対は、それぞれホール伝導度に寄与するが、合計すると相殺が起こって系は異常ホール効果を示さない。(ここで強磁性モーメントがゼロでも異常ホール効果は有限となりうることを指摘しておく。)(111)方向に薄膜化してこの4つの方向の間の対称性を崩すと、相殺が破れて有限のホール伝導度が現れることが期待されるからである。このアイデアに従って、相図を構成したのが図8である。これからわかるように有限の膜厚では3つの相が存在し、中間の“隠れたトポロジカル相”(hidden topological phase)で量子化異常ホール効果が現れることを見出した。この相では、上表面と下表面との間の波動関数の重なりによってチャーン数が発生するので、膜厚に対して指数関数的に狭くなるギャップの中にフェルミエネルギーが入らなければならず、実現は膜 厚を増やすと困難になるが2層、3層、4層系などでは十分に実現可能と考えられる。また、これは一様磁化を持たない反強磁性体の量子化異常ホール効果であり、all-in-all-out構造の2つの相(all-in-all-out とall-out-all-in)でホールコンダクタンスの符合が逆転するなどの特徴を持つ[52]。
[52] Bohm-Jung Yang and Naoto Nagaosa, Phys. Rev. Lett. 112, 246402 (2014).
1-5-3.固体中の質量ゼロのデイラックフェルミオンの分類学
ワイルフェルミオンは2x2のハミルトニアンで記述されるバンド交差により生じるが、交差の条件は3つ(つまり3つのパウリ行列の係数がゼロになること)なので、3次元の運動量空間でこれを満たす点が存在できる。ところが、時間反転対称性Tと空間反転対称性Pが両方存在する場合には、すべてのk点でクラマース縮退が存在するので、バンド交差は最低でも4x4のハミルトニアンで記述される。この場合には質量を与える項が5つ存在するので、一般には交差が起こらない。ところが、Na3Bi、Cd3As2 などP,Tを双方とも持つ系で安定なバンド交差がバンド計算によって見出されている。これは、P,T以外の結晶構造の対称性が質量のないディラックフェルミオンを安定化しているためである。我々は、点群の中の回転対称性をP,Tに加えたときに、どのようなディラックフェルミオンが回転対称軸上に現れるかの一般論を構築した[53]。4x4の行列はスピンのパウリ行列$\sigma$と軌道のパウリ行列$\tau$により表現される。まず空間反転対称操作Pの表現が、$\tau$に関して対角的か非対角的かで大きく2つの場合に分かれる。前者の場合(クラスIには表1に、後者の場合(クラスIIには表2に示す分類が得られる。表の詳細な説明は省略するが、対称性によってkの線形、2乗、3乗と様々な分散が現れること、まだ具体的な物質が考えられていない多くのクラスが存在すること、を指摘しておく。この表は、今後のディラック物質探索の指針を与えることが期待される。
表1. 固体電子状態に現れるディラックフェルミオンの分類(クラスI)
表2. 固体電子状態に現れるディラックフェルミオンの分類(クラスII)
[53] Bohm-Jung Yang and Naoto Nagaosa, Nature Communications 5, 4898 (2014)
1-6.マグノンホール効果(永長 直人)
Berry位相は、波動性を持てば必ずしも電荷を持つ粒子だけではなく、中性の粒子に対しても定義できる。光波はその代表例であり、そのBerry位相に由来する光のホール効果についての仕事[12]はすでに「0.はじめに」において言及した。我々は、このアイデアを、磁性体のスピン波(マグノン)に応用した[54]。複数個の磁性原子が存在する磁性体では、マグノンが複数のバンドを形成し、電子のバンドと同様の構造を持つ。このことから、バンド構造がBerry位相を持ち運動量空間の創発磁場が生成されること、そしてそれが“異常ホール効果”を引き起こすことが予想される。(ただし中性の粒子なので電流は流れずに、熱流として観測される。つまり異常熱ホール効果となる。)我々は、2原子間の交換相互作用だけでなく、リングを回る3原子以上の原子を含んだ集団的交換相互作用のある模型を考えた。この場合には、外部磁場の印可によってその軌道磁場効果が現れる。しかし、マグノンにローレンツ力が加わることはなく、内因性異常ホール効果と同様なマグノンバンドのBerry位相が異常熱ホール効果の起源となる。しかも、この異常熱ホール効果の有無は、格子の形と磁気秩序に強く依存し、例えば3角格子半強磁性体では存在しないが、カゴメ格子強磁性体では存在することを示した[54]。また、磁性秩序がない量子スピン液体では、スピノンが直接電磁場のベルトルポテンシャルと結合するためにローレンツ力を受ける結果、秩序状態よりも大きな(通常の意味での)熱ホール効果を示すことを予言した。これらの理論的予言は、複数の実験グループの興味を引いた。中でもCEMSの実験グループと共同でパイロクロア格子の強磁性絶縁体Lu2V2O7の熱ホール効果がBerry相効果による異常熱ホール効果であることを突き止めた[55]。パイロクロア格子を(111)方向へ射影するとカゴメ格子が現れる。このことから、パイロクロア格子はカゴメ格子の3次元への拡張と考えられ、上の理論予言から異常熱ホール効果が予想される。特に、パイロクロア格子は結晶全体としては反転対称性を持つが、最近接間のボンドの中心には対称中心がなく、反対称交換相互作用(Dzyaloshinskii-Moriya (DM)相互作用)が存在する。この相互作用が、マグノンの伝播に対して実空間のベクトルポテンシャルとして働くことを見出し、熱ホール伝導度の計算を行って実験結果を定量的に説明することに成功した。さらに、いくつかの異なる結晶構造、軌道秩序を持つ強磁性体について、熱ホール効果の測定と理論解析を行い、熱異常ホール効果の有無を理解することができた[56]。
熱ホール効果の研究は他のグループでも活発に行われており、特にPrinceton大学のOngのグループは、カゴメ格子強磁性体Cu(1,3-benzenedicarboxylate)やパイロクロア格子の量子スピンアイスTb2Ti2O7でも異常熱ホール効果の測定に成功している。また、我々の仕事が契機になって、マグノンの量子ホール状態などの理論が進展している。
[54] H. Katsura, N. Nagaosa, and P.A. Lee, Phys. Rev. Lett. 104, 066403 (2010).
[55] Y. Onose, T. Ideue, H. Katsura, Y. Shiomi, N. Nagaosa, and Y. Tokura,
Science 329(5989) 297-299 (2010).
[56] T. Ideue, Y. Onose, H. Katsura, Y. Shiomi, S. Ishiwata, N. Nagaosa, and Y. Tokura, Phys. Rev. B 85, 134411 (2012)
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