研究内容

 

 

1) 運動量空間における量子トポロジー現象

 1-1.異常ホール効果とスピンホール効果(永長 直人)
 以前から行ってきた異常ホール効果とスピンホール効果の研究は、理化学研究所でも継続して行っている。まず、異常ホール効果については2010年にそれまでの自らのグループおよび他のグループの研究成果をまとめた総説をReviews of Modern Physics誌に出版した[7]。これは専門家で構成されるEditorからの招待論文であり、現在の被引用数576回という数字からも、我々の主張してきたBerry位相による異常ホール効果の理論が世界的に認知されたと考えている。また、懸案であった異常ホール効果における非弾性散乱と弾性散乱の役割に関して、新しいスケーリング則が実験的に見出されたことに呼応して理論的な研究を行った[13]。具体的には、乱れによる弾性散乱は数値的対角化で厳密に扱い、非弾性散乱はグリーン関数の自己エネルギーとして取り込むという近似で、コンダクタンスを計算し、両者役割を区別することで新しいスケーリング則を理論的に基礎づけた。
 スピンホール効果についてはその代表的な物質であるプラチナ(Pt)に対して内因性機構による寄与を第一原理計算により評価し、実験で観測されている値がほぼこの機構で説明できることを示した[14]。その際、フェルミエネルギー近傍にあるバンド交差の構造が共鳴的にスピンホール伝導度を増大させていることを見出した。この計算は、最近プラチナが磁化した場合の異常ホール効果の計算へと拡張され、スピンホール伝導度のフェルミエネルギーに関する微分係数が異常ホール伝導度を決めていることを示した[15]。
 以上は、内因性機構に関する仕事であるが、一方でFeとAuを含む系で10%以上にも及ぶ巨大なスピンホール角が実験的に観測されたことに刺激され、スキュー散乱機構によるスピンホール効果の研究を行った。具体的には、軌道とスピンの自由度を併せ持つFe原子の近藤効果を再検討し、スピンに依存するスキュー散乱角が近藤共鳴状態で増大することを示した[16,17,18]。この効果は外部磁場によってスピン揺らぎを抑えた異常ホール効果の場合には存在しない強相関効果であり、同時にFeの近藤効果に再考を迫る結果でもある。最初の提案論文の後、量子モンテカルロ法を用いた数値計算によりこの主張を基礎づけ[17]、さらに現実の系で重要な表面の効果も議論している[18]。

[13] A. Shitade and N. Nagaosa, J. Phys. Soc. Jpn.81, 083704 (2012).
[14] Guang-Yu Guo, Sadamichi Maekawa, and Naoto Nagaosa, Phys. Rev. Lett. 102, 036401 (2009).
[15] G. Y. Guo, Q. Niu, and N. Nagaosa, Phys. Rev. B 89, 214406 (2014).
[16] G. Y. Guo, S. Murakami, T.-W. Chen, and N. Nagaosa, Phys. Rev. Lett. 100, 096401 (2008).
[17] Bo Gu, Jing-Yu Gan, Nejat Bulut, Timothy Ziman, Guang-Yu Guo, Naoto Nagaosa, and Sadamichi Maekawa, Phys. Rev. Lett. 105, 086401 (2010).
[18] B. Gu, I. Sugai, T. Ziman, G. Y. Guo, N. Nagaosa, T. Seki, K. Takanashi, and S. Maekawa, Phys. Rev. Lett. 105, 216401 (2010).


1-2.トポロジカル絶縁体(永長 直人、野村健太郎、森本 高裕)

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1-2-1.トポロジカル絶縁体を用いたスピントロニクス機能の開拓

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1-2-2.量子化異常ホール効果とトポロジカル電気磁気効果

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1-2-3.強相関トポロジカル絶縁体

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1-3.巨大ラシュバ効果物質(永長 直人、Mohammad Bahramy)

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1-4.トポロジカル超伝導体(永長 直人、野村健太郎)

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1-5.ディラック半金属、ワイル半金属(永長 直人、Bohm-Jung Yang)

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1-5-1.ワイルフェルミオンにおける相互作用効果の繰り込み群による解析

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1-5-2.パイロクロア強磁性体におけるワイル半金属と量子ホール効果の研究

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1-5-3.固体中の質量ゼロのデイラックフェルミオンの分類学

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1-6.マグノンホール効果(永長 直人)

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