研究内容
1) 運動量空間における量子トポロジー現象 2) 実空間におけるトポロジー粒子-スキルミオン 3) その他の諸問題 4) 将来展望

 

はじめに

 物質は電気的、光学的、熱的、力学的、など様々な性質を示すが、それらを決めている主役は、物質中に存在する膨大な数の電子である。この素粒子は、電荷$-e$と自転の自由度であるスピン1/2を持ったフェルミオンで、結晶の作るポテンシャルと他の電子からのクーロン力を感じながら運動している。この複雑な多体問題を、量子力学、電磁気学と統計力学を駆使して理論的に解明し、物質の性質を説明、予言、設計する学問分野が、物性理論、もしくは凝縮系理論である。物質には大きく分けて、金属と絶縁体があるが、その中間に位置する半導体は今日のテクノロジーで欠かせない物質群である。また、絶縁体であっても、自発的電気分極が出る強誘電体は、メモリーや最近では太陽電池の観点から重要である。  
 これらの電気的性質の違いは、バンド理論と呼ばれる理論形式によって良く理解される。バンド理論では、多体問題を、電子の感じる他の電子からの影響を平均化することで、原子核からのポテンシャルと合わせた実効的な静的周期ポテンシャル中の1電子問題に帰着する。これを平均場近似、もしくは一体近似と呼ぶ。この問題の解は、ブロッホ状態と呼ばれる結晶中に広がった波動状態で、そのエネルギーは図1に示すようにエネルギーギャップで隔てられたいくつかの束(つまりバンド)を為す。結晶ポテンシャルは回折格子として電子波に働き、状態が存在できないエネルギー領域と、平面波に近いバンド状態を作り出すのである。このバンドに途中まで電子が詰まった物質が金属となり、完全に詰まったバンドと空のバンドにはっきりと分かれる物質が絶縁体となる。後者の場合には、エネルギーギャップに相当する、通常は~1eV、温度に換算して約1万度という大きなエネルギーを供給しないと系は励起されないので、電気的に不活性となるのである。半導体は、このエネルギーギャップが小さい物質で、不純物のない真性半導体と、不純物によるキャリアードーピングされた不純物半導体に分類される。
 このように結晶中の電子状態は、広がった波の状態が基本であるが、量子力学の基本原理である粒子性と波動性の相補性がやはり固体電子にも当てはまる。ブロッホ状態から作った波束状態はハイゼンベルクの不確定性原理に抵触しない精度で、結晶運動量kと空間の位置 rによって指定され、粒子としての性質も併せ持つ。特に、バンドの底から測ったフェルミエネルギーが温度よりも小さい場合には、波動性は抑えられて電子をあたかも古典的粒子のように扱うことが可能になる。電子数が小さな半導体の場合にはしばしばこの状況が実現する。
 このバンド理論は、物質中の電子の挙動を記述する基本的な枠組みを与えるが、一方で電子間の相互作用によって初めて発現する現象の多く存在する。その代表例が磁性と超伝導である。磁気の存在は古くギリシャの時代から知られていたが、その本質は量子力学の出現を俟って初めて理解された。つまり、電子のフェルミオン量子統計性と電子間反発から生じるスピン間の交換相互作用によって膨大な数のスピンが揃う集団現象が磁性である。一方の超伝導は、物質を低温に冷やした時に電気抵抗がゼロになる現象であるが、結晶格子の変位(それを量子化したものをフォノンと呼ぶ)を媒介とする電子間の引力相互作用によって形成された電子対(クーパーペアー)が凝縮する、やはり集団量子現象であることがBCS理論によって解明されている。

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