研究テーマ Research Subjects  
 

生物は、ホルモンなど固有の情報分子を利用した様々な調節・制御系を持ち、細胞の分化・増殖、生理状態をコントロールし、個体として、また種として統一が取れた生命の維持を行っています。

分子認識化学分野では、これらの調節・制御系に関わる生体情報分子であるペプチドホルモンやステロイドホルモンなどに注目して、それらの化学構造や生合成経路を明らかにするとともに、細胞膜や細胞内に存在する受容体分子によって認識される過程、それによって引き起こされる細胞や個体の機能変化について研究を進めています。

主要な研究テーマ(一部です):
  ・ エクジソン生合成経路の全貌解明
  ・ エクジソン生合成を制御するシグナルの解明
  ・ 休眠の分子機構
  ・ 昆虫の栄養依存的摂食行動

⇒ 入試説明会のときの映像が YouTube 別のウインドウで開きます にアップされています。

 
テーマ1. エクジソン生合成経路の全貌解明

昆虫で知られている唯一のステロイドホルモンであるエクジソン(Ecdysone)は、前胸腺と呼ばれる器官で合成され脱皮を促すホルモンとして古くから知られてきました。その後の研究によって、エクジソンはエストロゲン受容体に似た核内受容体を介して様々な遺伝子の転写を制御し、その結果、細胞増殖・予定細胞死・神経系の成熟クチクラ形成などを引き起こして脱皮および変態を引き起こすこと、さらに卵巣に働きかけて卵形成を促すことが明らかとなりました。しかしながら、その肝心のエクジソンを合成する酵素や経路については、いまだに全貌が明らかになっておらず、未同定の部分 『Black Box』 が存在します。これまでいくつかのエクジソンの生合成酵素を同定し、さらに生合成の調節に関わるような遺伝子の解析を行っています。

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open  生合成経路全貌解明に向けた分析手法の開発
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テーマ2. エクジソン生合成を制御するシグナルの解明

哺乳類のステロイドホルモンの合成・分泌は、視床下部-下垂体系を中心とするフィードバック機構によって精密に制御されています。昆虫においても同様に前胸腺刺激ホルモン、前胸腺抑制ペプチド、ミオサプレッシンなどの脳や神経節から分泌されるペプチドホルモンによって、前胸腺でのエクジソン生合成は調節を受けています。しかし、すべてのペプチドホルモンやその受容体がわかっているわけではなく、また、前胸腺細胞内で受容体が受け取ったシグナルがどのように変換されて生合成の制御に至るのか、その詳しい分子機構はいまだによくわかっていません。個体レベルでの内分泌系から細胞内シグナル伝達経路など、あらゆるレベルでエクジソン生合成を制御するシグナル経路の解明を目指しています。

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テーマ3. 休眠の分子機構

昆虫は冬のような生存に不適な季節を乗り切るために「休眠」というシステムを身につけました。休眠は低温による受動的な発生停止ではなく、日長の変化などの環境要因から冬の到来を予期して、あらかじめ成長が停止するようなプログラムを発動させる能動的な適応戦略です。分子認識化学分野で主に用いているヨトウガをはじめとするチョウ目の昆虫は、その多くが蛹の時期に休眠します。脱皮ホルモンであるエクジソンの分泌抑制によって発生が一時的に停止すると考えていますが、環境情報がどのように昆虫に認識され、それがどのようにエクジソンの分泌抑制につながるのか、その道筋についてはよくわかっていません。また、休眠から覚醒する際に必要なシグナルも同様に未解明です。昆虫は環境情報をどのように感知し、どのように内分泌シグナルに反映させて発生のタイミングを制御しているのかといった問題にも取り組んでいます。

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テーマ4. 昆虫の栄養依存的摂食行動 研究科広報誌[創成]の紹介記事 別のウインドウで開きます

昆虫をはじめ、多くの生物は、体内で不足したエネルギーを摂食行動によって補います。興味深いのは、生物は体内の不足分の栄養を認識し、自発的にそれを選択して餌を探して接種します。体内の栄養分のレベルの変動やそれを認識するシステム、さらには不足している栄養分を選択的に探餌する行動に投射する制御システムなど、哺乳類でもその詳細なメカニズムはわかっていません。私たちは、この難題に挑戦しています。

本研究テーマの詳細は こちら 別のウインドウで開きます

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