東京大学大学院・新領域創成科学研究科 先端生命科学専攻・統合生命科学分野 松永研究室

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PIメッセージ

心を揺さぶる研究

2024年2月18日の日経新聞朝刊に、JAXAの宇宙探査の成功について書かれた「春秋」が掲載されていた。
その中で「優れた科学者とは、例外なく優れた『物語』の作り手である。疾走する想像力で世界を読み解き、『仮説』というロマンを生む」とあった。まさしく科学の醍醐味を言い当てた名文である。

最近、私たちの研究発表に「フィクション」というコメントを頂いた。フィクションは文学用語であり、「作られたもの」というラテン語のfictioに語源がある。「嘘」という意味合いもあり、日々の努力を積み重ねて慎重に発表した研究成果に対して、この言葉を使用することは、適切ではないように思われる。私たちは、常に実験現場の生のデータを記録して保存し、そのデータに基づき研究を発展させ、異なるメンバーが何年にもわたって再現性を確認した成果を発表している。そして研究データをオープンにし、海外を含めた多くの研究者と概念や仮説を共有し議論を積み重ねる研究スタイルをとってきた。

日経新聞の「春秋」には、当時、空想の産物でしかなかったブラックホールが、仮説から1世紀を経て画像として捉えられた事例も紹介されていた。今では、生物学の常識となった動くDNA配列・トランスポゾンの仮説を、トウモロコシ粒の斑点パターンから唱えたマクリントック博士は、当時「頭がおかしい」と評されたが、最終的には生物学の金字塔たる成果として認められノーベル賞を受賞した。

科学には様々なアプローチや考え方がある。手堅い実験計画を立ててほぼ間違いない作業仮説を検証する研究もあれば、実現不可能かもしれないけれどひょっとしてできたら従来の概念を覆す成果になる、現時点では「夢」の研究もある。科学にもダイバーシティがあり、研究者が描く「夢」も十人十色である。私の場合は、研究倫理を厳守したうえで、専門分野の研究者以外の多くの方々の心を揺さぶる研究成果を出したいと思ってきた。だから、いつも研究に対する厳しい批判やコメントは、謙虚に受け止めるとともに、逆に、「私たちの研究は、従来概念をひっくり返すポテンシャルを未だ維持しているぞ!」と研究者に宿るフロンティア魂を益々喚起してくれるのである。

これからも、「夢」の実現に向かって前進し、多くの人の心を揺さぶる研究成果を出していこう。

令和6年2月19日 松永幸大 記












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