この夏は、伊勢神宮詣から始まり、ゼミ旅行を新島で敢行した。そして、夏の終わりに画像自動分類ソフトウェア「カルタ」をNature Communications誌から全世界にリリースする幸運に恵まれた。いつもより、暑い夏だった。
カルタは細胞生物学、イメージング、情報工学、数学そして医学の異なる分野の研究者が結集し、全員が知恵を絞って作成した努力の結晶である。共同研究者の不断の努力と心の通ったチームワークに感謝したい。
論文原稿が編集部にアクセプトされてから、伊勢寺にお礼参りに出かけた。約8年間、伊勢寺の横に住んでいた。百人一首に出てくる平安時代の女流歌人・伊勢をお奉りした曹洞宗のお寺である。ヒグラシの鳴き声だけが響く境内で、Nature Communications誌から論文が出版されることを御本尊の聖観音菩薩に報告した。その瞬間、大阪時代の日々に、何かにすがるように境内の前で足を止め、頭を下げる自分の幻影が見えたような気がした。
伊集院静氏の「大人の流儀」に出てくる、二つの言葉を反芻しながら、暗くなりかけた帰路を急いだ。
「世の中の肌触りを覚えるには、理不尽と出逢うのがいい。ひとつひとつを乗り越えていけば、笑い話にさえなる。」
「不幸の底にある者と幸福の絶頂にある者が隣り合せて路上に立つことが日常起こる。だから大人はハシャグナというのだ。」
さあ、明日からも前を向いて挑戦し続けよう。
過去にとらわれるな。突き進め。すてきなことをしろ!ロバート・ノイス(インテル創業者)
2012年8月29日 松永PI記