(1)はじめに
これは表記の高校生向けゼミナールで何が行われたかを記録したものです。大学が各分野に関心の強い高校生にエクステンション教育を行うことは、年々進みつつあります。そこで、このプロジェクトでは、2018年3月・2019年3月と同様、教養学部1・2年生を対象にしたゼミでのメソッドを高校生向けに行うというエクステンション教育を繰り返し、そのヴァージョンアップを目指しています。
ただし、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、自己紹介を兼ねて説明用の動画をHPに掲載し、説明会は希望者とのみオンラインで行いました。ゼミそのものは対面とオンラインとの同時開催という「ハイブリッド」で行い、学生は対面にするかオンラインで視聴するか、またペーパーを出すか出さないかも毎回任意で選択できるようにしました。
(2)内容
2021年3月の東京大学牧原ゼミ「読み破る政治学ハイスクール編」春期ゼミナールは下記の日程で開催されました。
①説明会:希望者には、随時メールで打ちあわせた上でZoomで行う形をとりました
②3/11(木)17:30~19:30
イントロダクションとディスカッション
課題文献:ジョージ・オーウェル「右であれ左であれ、わが祖国」(光文社古典新訳文庫版『あなたと原爆 オーウェル評論集』、平凡社ライブラリー版『象を撃つ オーウェル評論集』などに所収)
③3/18(木)17:30~19:30
課題文献:ジョージ・オーウェル『動物農場』岩波文庫、2009年
④3/25(木)17:30~19:30
課題文献:岡義武『近代日本の政治家』岩波文庫、2019年
⑤4/1(木)17:30~19:30
課題文献:E・H・カー『歴史とは何か』岩波新書、1962年
今回は、新型コロナウイルス感染症の状況が見通しにくいこともあり、対面とオンラインを併用するゼミの形をとりました。そのため、申し込みについて、これまでのように、志望理由書などの提出を求めたりせず、登録シートに登録することで、気軽に参加できる形をとりました。また、YouTubeにゼミの方法について、動画で説明する形をとりました。結果として44名が登録してゼミはスタートしました。東京圏の学生が多かったのですが、関西、四国などからオンラインで参加してくれた学生もいました。
学生への案内はHPへの掲載によりました。特に今回は、登録シートへのアクセスが簡単であることが望ましいと考え、大学のゼミ生がボランティアで、登録シートの情報を掲載したデザイン性の高いポスターを作ってくれました。また、大学での牧原ゼミの参加学生のうち何人かは出身高校に案内を送ってくれました。後に参加者にアンケートを取ったところ、高校で掲示されていた案内を見たり、先生から紹介されたりしたと聞きました。感染状況のため海外での研修などが難しいという事情もあり、このゼミのような機会を利用してくれた学生も多かったように思いました。ご尽力された高校の先生方には、心より御礼申し上げます。
ハイブリッドのゼミについて、ここでは、学生たちには次のように説明しました。
「今回のゼミでは、皆さんをアリーナとギャラリーとに分けます(オンライン形式のこうしたディスカッションの形はこういうものではないかなと考え始めています)。
大まかな区分は
アリーナ:ペーパーを提出する人
ギャラリー:視聴する人
というものです。
質疑に参加する人でペーパーを提出しない人は、アリーナとギャラリーとを行ったり来たりするということになります。まあスケートリンクで滑る人、観客席で見ている人、スケート靴着用で滑ったり見たりしている人というイメージですね。
ペーパーを提出する人=アリーナの人は、原則として教室に来ていただいて構いませんが、遠方の方は帰宅が遅くなるなどありますので、無理をされないで自宅からでかまいません
またゼミの前に別のオンラインの打ち合わせなどがあるという人は、パソコン等持参の上、早めに牧原研に来ていただいてかまいません。数名が個別に視聴できるスペースがかなりあります。」
つまり、学生には、
①ペーパーを書いて参加してもよいし
②どんなゼミなのか視聴するだけでもよいという参加の形にしました。
なかなか対面でのゼミについて迷うことも多いかと思いましたので、様子をオンラインで見てみて、「次は発言してみよう」であるとか、「次は対面で出席してみよう」と思い立っていただくことがよいのではないかと考えてみました。
ゼミの開催に先立って、学生たちには志望した経緯や講読したい本などについてアンケートを送りましたが、提出は任意としました。おおむね、アリーナで積極的に議論をしようとする学生が送ってくれました。人数が多いこともあり、ペーパーのやりとりをするためには、Slackを使うことにしました。メーリングリストに比べて、はるかにスムーズに連絡を取ることができましたし、学生たちもかなり手慣れて使ってくれたように思います。
各回では、ペーパーは概ね8~10本提出されました。参加してくれた学生は総計30名程度でした。対面で参加した学生は、初回は数名でしたが、最後は10名ほどとなりました。ハイブリッドの形式なので、大学のゼミ生達4~5名に応援に来てもらいました。初回はこの大学のゼミ生達の「模範演技」として、一人が作成したペーパーに他の学生達が質問をするという形としましたが、アリーナの学生たちは、対面で参加することで、最初から議論に参加する用意が充分あり、すぐに高校生同士の議論になりました。
オンラインならではと思ったのは、オンライン参加の学生や、ペーパーを提出していなくても、質問するなど議論に参加する学生がかなりいたことです。そのため、徐々にペーパーを出すようになる学生が増えてきました。これもオンラインならではと思います。
課題図書は次第に難易度が上がっていく内容としていましたが、学生たちの中には複数の専門書を読みこなしつつペーパーを作成する者もいれば、普段の学生生活の中で発見できる「政治」と重ねたペーパーを作成する者もいたり、とバラエティに富んでいました。また、2020年3月にオンラインのゼミに出席してくれた学生数名が、二年目の今回、対面のゼミに参加してくれました。やはり経験がある分、昨年と比べて成長の跡もたくさんあるペーパーを作成してくれました。
例年のことですが、ゼミの教員として本当に教えられるところが多かったというのが率直な感想です。学生同士は、学年も出身高校も出身地も違うのですが、すぐにうち解けたようで、ゼミの終了後いろいろしゃべりながら帰路についたようでした。また大学生との会話を楽しみにしていた学生もいたようで、普段の高校とは違う知的雰囲気の中でゼミに出席しているという感じもありました。
こうした雰囲気があったことを勘案して、最終回の終了時には、社会的距離をとった上で、一時間ほど自由懇談の会を開催しました。予想以上に、現役の大学生と話したい高校生が多かったように思います。そうした機会も大事なのかもしれないと改めて感じました。
全体として言えることは、4回という短い時間でしたが、コロナ禍で学部のゼミで通常行っているハイブリッド型の授業を一通り高校生に体験してもらえたのではないかと考えています。どの程度の成果があったかは、学生たちの時熟にかかっているのですが、当面の成果としては、以下に掲載した参加学生の感想にゆだねたいと思います。
また教員としては、ハイブリッドのゼミの中で、一人一人の学生に注目するのは、全員対面の場合と比べて難しいとしみじみ感じました。機器の操作にはそれなりの配慮が必要ですので、学生の議論から一瞬意識が別へ向かうという面があります。また、オンラインの学生が対面に来てくれるときには、やはり初対面という印象が強いため、「もう何回かあれば、それぞれの個性を見ながら、こちらから質問できるのではないか」と思うこともありました。今回、多くの学生が参加してくれたことで、教員にも宿題がいろいろ見えてきたことを強く感じました。
今回のゼミの試みで、例年とは別の形で教育面での手応えを感じています。この経験を生かして、2022年3月に同様のゼミを開催する予定でいます。予定などは後日HPに掲載します。
(3)学生たちの感想
(1)学生の感想①
私も最終回初めてオフラインで参加させていただき、オンライン以上に話し合いの内容に集中することができて、大変貴重な機会になりました。懇談の際にも、丁寧にお話を聞いていただきありがとうございます。自分が20代において何を追求したいのか全力で考えていきたいと改めて思いました。考えが行き詰まる際には、またぜひご連絡させてください。
他のメンバーの方々も、同じ高校生とは思えないほどの思考力や知識量を感じ、とても刺激になりました。
(2)学生の感想②
ありがとうございました。もっと政治や歴史に関して見聞を深めたいと思ったので、より精進していきます。
(3)学生の感想③
計4回のゼミを開いてくださり、ありがとうございました。私は3回zoomでギャラリーとして参加させていただきました。初めは、政治に興味があり、また大学のゼミはどのようなものか知りたかったのでまずは見てみようという気持ちで参加したところ、とても興味深い体験となりました。
1番印象に残ったことは議論されている方は皆さん多様な意見をしっかり持たれていたことです。一つの本でも多様な見方があるのだと感じました。ただ知識を身につけるだけでなく、政治や社会、思想を多方面から考えることはとても勉強になり、面白いと感じました。それにはもちろんある程度の知識が必要なのだと思いました。特に最初の回の東大生の方の議論は難しい言葉がたくさんあったり、またとても速いスピードで行われていたので、それを理解し、対話するためには色々な経験や知識が身についてるのだと思いました。
また、今回のゼミで、読んでみたいと思う本が何冊か見つかりました。私も自分の意見を持って説明できるように努力していきたいと思います。貴重な体験をありがとうございました。
(4)学生の感想④
今回のゼミを通して、テキストとしっかり向き合う事の難しさ、ペーパーとして思索を言語化する難しさを身をもって実感することができました。これまでペーパーなど一枚も書いたことがなく、本当に手探り状態でした。ゼミの中でところどころ先生が指摘されていたペーパーの構成のヒントを参考にしつつもそれを形にすることができず、駄文を量産してしまったなと後悔しております。参加された方の中にはご自分の経験を踏まえたペーパーを書かれている方もいらっしゃり、新たな知見を得ることができました。とても良い経験を得ることができました。牧原先生、大学生の方々、本当にありがとうございました。
牧原先生のゼミでの質問は、私はパッと思いつかない様々な視点を投げかけておられました。例を聞き出し、それをまた違った地理的時間的空間で再考してみたらどうなるのか、といった質問は、私自身とても考えされられるものがありました。
来年もし参加できた時には、更に高度な議論ができるよう、この一年間でさらに本を読み、思索を太くしていきたいと思います。
ありがとうございました。
(5)学生の感想⑤
本日まで合計4回のセミナーの間お世話になりました。お陰様で、回を重ねるごとにリラックスして議論に活発に参加出来たように思います。大学生や同世代の方々の自分と全く異なる視点も学ぶ事が出来、とても楽しかったです。ゼミは終わってしまいましたが、これからも丁寧かつクリエイティブな文章を綴れるように意識しようと思います。有意義な時間を有り難うございました。
(6)学生の感想⑥
僕は去年に引き続き、2回目の参加でした。全面的にZoomで行われた去年と違い、今年は対面で参加することができました。対面ならではの緊張感や臨場感がとても刺激的でした。去年よりも質問が出しやすかった気がします。ほとんど全てのペーパーに対して質問することができました。また、ゼミの前後に参加者の高校生や大学生のみなさんと話すことができたので一層楽しかったです。ペーパーをどのように書いたのか、どのような関心があるのか、僕のペーパーにどのような感想を持ったのか、といったアカデミックな雑談にわくわくしました。
最後に、牧原先生、大学生の方々、受講生の方々へ。短い間でしたがありがとうございました。
(7)学生の感想⑦
1ヶ月にわたってゼミを実施していただき、ありがとうございます。読書して文章を書くという経験を今後の読書につなげていきたいと思っています。同じ方面の興味を持った人たちに出会い、非常に良い刺激を受けることができたのもよかったです。来年もゼミに参加するかもしれないのでその時はまた宜しくお願いします。