(1)オーラルヒストリーの新展開
オーラル・ヒストリーとは、政治家、行政官、司法関係者、ジャーナリスト、文化人など公人が語った経験を記録するプロジェクトです。可能な限り正確かつ精密に経験を語るためには、質問事項の作成、聞き取りの実施、テープの適切な文字化、記録のクロスチェック、再質問、記録の保存といったプロセスを的確に実施することが必要です。
牧原研究室では、これまでのプロジェクトで蓄積した経験を生かして、聞き取りを進めながら、よりよい記録を作成するため方法論の再検討も行っています。
また聞き取りのプロジェクトは、こと政治の領域に関しても、1960年代以降に進められた内政史研究会の記録や、政策研究大学院大学のC.O.E.プロジェクト、研究者が個人で行った良質な記録作成など、さまざまな形で蓄積されています。牧原研究室では、こうした経験を継承しつつ、21世紀の新しい時代に即した記録の作成に努めています。
とりわけ2009年、2012年の政権交代によって、公人としての経験を回顧し、記録するという伝統が、日本社会に根付きつつあります。また、2011年の東日本大震災以後、「アーカイブ」という言葉が社会に浸透し、「記憶を記録する」ことの意義が広く認識されるようになりました。牧原研究室では、こうした社会の動向を見据えながら、長期的視点でオーラル・ヒストリー・プロジェクトに取り組んでいきます。
そして、連携研究室の御厨貴研究室でこれまで進められたプロジェクトについては、牧原自身も一部のプロジェクトに参画しており、現在はその記録全体の保存も含めて経験を継承しつつ、方法論的な革新を図っていきます。
(2)これまでの蓄積
①先端研外のプロジェクトへの参画
戦後国土政策の検証(国土計画オーラル・ヒストリー)
後藤田正晴(内閣官房長官)
鈴木俊一(東京都知事)
奥野誠亮(文部大臣)
谷福丸(衆議院事務局長)
②先端研でのプロジェクト
武村正義(大蔵大臣・新党さきがけ代表)
野中広務(内閣官房長官、自治大臣)
山崎正和(劇作家、大阪大学名誉教授)
吉國一郎(内閣法制局長官)
片桐幸雄(日本道路公団・道路関係四公団民営化推進委員会事務局次長)
黒野匡彦(運輸省事務次官)
大森政輔(内閣法制局長官)
西尾勝(東京大学名誉教授、地方制度調査会会長)
田畑貞寿(千葉大学名誉教授)
豊田正和(経済産業省経済産業審議官)
北村俊昭(経済産業省経済産業審議官)
(3)現在進行中のプロジェクト
①ライフ・ヒストリー・プロジェクト
特定の人物について、そのライフ・コースに沿って経験を聞き取るプロジェクトです。
内閣府事務次官経験者
財務大臣経験者
メーカー系企業環境部長経験者
独立機関委員経験者 等
②政策プロジェクト
公的機関と連携しながら、重要政策を回顧・検証するために政策担当者に聞き取りを集中的に行うプロジェクトを進めています。
地球温暖化対策に係わるオーラル・ヒストリー調査研究(2014)
京都議定書を巡る政治過程の把握と分析に関する研究(2015~2017)経済産業研究所のページ等
③科学とイノベーションプロジェクト
自然科学分野の研究者に、研究の深化と社会実装の工夫など、いかにして課題をブレイクスルーしていったか聞き取るプロジェクト。
菅裕明(東京大学理学研究科教授、2023年ウルフ賞受賞)