肝臓がんとは

肝臓がんとは

種々の遺伝子異常の蓄積により無制限に増殖する能力を備え、周囲の組織を破壊して増大し、血流にのって別の臓器への転移を起こしうるような細胞集団を「悪性腫瘍」または「がん」と呼び、そのうち上皮組織(体内と体外との境界を形成している組織)由来のものを特に「癌」といいます。肝臓に発生する悪性腫瘍(「肝がん」)のほとんどは、上皮組織由来の「肝癌」です。

肝臓には、食べ物から吸収された栄養分を体の役に立つように代謝して他の臓器に供給したり、余分な物質を分解・解毒して胆汁として体外に排泄する働きがあります。胆汁にはまた、食べ物の中の脂肪分を体内に吸収しやすくする作用があります。肝細胞で産生された胆汁は、肝内胆管という細い管に分泌され、それらが順次合流して総胆管に至り、肝臓の外に出て、最終的に十二指腸に分泌されます。
肝臓癌には、代謝・解毒・排泄を担う上皮組織である肝細胞から発生する「肝細胞癌」と、肝内胆管を形づくる胆管上皮細胞から発生する「肝内胆管癌」があります。肝細胞癌が肝癌の約9割を占めますので、肝臓癌といった場合、肝細胞癌を指すこともあります。「肝臓癌」以外の「肝臓がん」には、血管肉腫や肝悪性リンパ腫など種々のものがあります。また、肝臓は、他の臓器に発生した癌が血流に乗って転移しやすい臓器です。肝臓に見つかった癌で他臓器から転移してきたものを「転移性肝癌」とよび、頻度自体は肝原発がんよりも多く、特に大腸癌、胃癌、膵癌などの転移が多く見られます。

我々は、主に「肝細胞癌」の診療に取り組んでおります。そこでこのページでは肝細胞癌につき記載しています。肝内胆管癌は、肝細胞癌とは診断や治療戦略が大きく異なり、当科では胆膵グループが診療に当たっています。また、肝臓に転移した癌(転移性肝癌)の治療は、もともとの原発臓器の癌の治療戦略の一環として考える必要があります。

肝細胞癌とは

肝細胞癌はC型肝炎、B型肝炎、アルコール性肝炎、脂肪肝など、慢性の肝臓病をお持ちの方に出来る癌です。C型やB型の肝炎ウィルスや、過量のアルコール、過度の脂肪蓄積などは、いずれも肝細胞を慢性的に傷害するため、線維化を促進して肝硬変へ進展したり、肝細胞の遺伝子の異常が蓄積して癌化を引き起こすのです。そして、肝硬変に進展している方ほど、肝細胞癌の発生率が高くなりますが、肝硬変に至っていなくとも、癌は発生することがありますので注意が必要です。癌が発生しても、かなり大きくなるまでは癌による症状(痛みなど)は全くありません。そのため、これらの肝臓病をお持ちの方は、症状が何もなくても、癌が発生していないかどうかをチェックするため、定期的な超音波検査(エコー検査)が必要になります。癌が疑われた場合、CTまたはMRI検査にて診断が確定されます。

治療について

肝細胞癌の治療の基本は手術(肝切除)です。最も確実に、狙った癌を取り除くことができます。肝切除術は、数十年前までは手術中の出血量が多く負担の大きい治療でしたが、近年の技術の洗練により急速に安全性が高まり、入院期間も短くすむようになってきました。しかしながら、肝硬変に至っている方では、肝予備能が低下し、肝切除の負担に耐えられない可能性があります。また肝細胞癌はしばしば同時多発的に発生しますので、複数個ある癌をすべて切除することが困難なこともあります。また御高齢であったり、心臓や肺などに持病をかかえていて、手術はできれば避けたい、とお考えの患者さんも多くいらっしゃいます。そのために、手術以外の、より負担の少ない治療法が開発されています。それが、ラジオ波焼灼術と、肝動脈塞栓術です。

ラジオ波焼灼術は、超音波検査で観察しながら肝細胞癌病巣に細い電極針を刺し、先端から電磁波を発生させ、その熱で癌を凝固壊死させる治療法で、我々は1999年からラジオ波焼灼術を導入し、単一の病院・施設としては最も多くの治療経験を積み重ねてきました。一般に、比較的小さい癌で、個数も少ない場合(3cm以下、3個以下)に、肝切除に匹敵する治療効果が得られるとされています。特に2cm以下の小型癌であれば、少ない負担で確実な根治が得られます。一方、5cmを超える癌については、長時間に及ぶ焼灼が必要となり、体の負担も大きくなり、また根治の確実性も低下しますので、通常は対象となりません。また、癌の存在する部位によって、技術的な難しさや、危険性が大きく異なります。ラジオ波焼灼術を検討するにあたっては、経験豊富な医師の判断が重要です。

肝動脈塞栓術は、足の付け根を走る動脈からカテーテルを肝臓内にまですすめ、癌を養う動脈に詰め物(ゼラチンスポンジ)を注入して血流を遮断してくる治療法です。東大病院では、放射線科の医師が治療にあたっています。この治療法は、適応となる病状の範囲が広く、かつ比較的安全であるため、広く行われています。特に、癌の個数が多い場合に適した治療法です。ただし、狙った癌を確実に壊死させる効力ではやや劣るため、多くの患者さんでは、一定の間隔をおいて治療を反復する必要があります。

肝癌の治療法の選択にあたっては、癌の大きさと個数に加え、癌の悪性度や、肝臓の機能がどのくらい残っているか(肝硬変にどの程度進展しているか)という点が重要になります。切除とラジオ波のどちらがよいのか、など、判断が難しい場面も多々ありますが、我々は、個々の患者さんの病状や希望にあわせ、最も適切な方針を提案致しています。

治療後の再発の可能性について

最初に出来た癌を完全に切除したり、ラジオ波焼灼術で完全に壊死させたとしても、肝細胞癌は残念ながら高率に再発し、以後も再発を繰り返します。再発の大多数は、最初に治療した癌とは全く別の場所に発生してきます。5年間、1回も再発なく過ごせるのは、肝切除やラジオ波を受けた患者さんの2~3割にすぎません。また、何年間再発がなければ大丈夫、というわけにも行きません。そのため、肝癌の治療にあたっては再発を念頭においた長期的な観点が必要です。ラジオ波焼灼術は、負担が少ないため、再発した癌の一個一個に対して、繰り返し施行し、その都度、狙った癌を消すことが出来ます。ただし、再発癌が大きい場合や、ラジオ波焼灼術が困難な部位に再発した場合は、肝切除も検討します。同時に多数の癌が出現してきた場合、肝切除やラジオ波焼灼術ですべての癌を治療することは困難となり、肝動脈塞栓術が選択されます。

しかし、ラジオ波焼灼術や肝動脈塞栓術による治療を繰り返しても再発や進展を抑えることが難しくなってくると、癌が肝臓を養う血管(門脈)の内部にまで食い込んできたり、肺、全身の骨、リンパ節などへの転移が出現することがあります。このような場合、ラジオ波焼灼術では太刀打ちできませんが、全身化学療法(ソラフェニブ)による治療のほか、肝切除、転移巣の切除、肝動注化学療法、放射線療法など、さまざまな治療法が考えられます。我々は、外科、放射線科や、他の提携病院と密に連携しながら、治療に当たっています。

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