イオノフォアを利用したマルチイオンセンシング

 マイクロチップ溶媒抽出(イオン対抽出)と異なる化学種を含む有機相をセグメント状に導入するセグメントフローインジェクション法を組み合わせることで、多種類イオン連続分析システムを実現した例(図1)を示す。
 通常、このようなイオンセンシングには、センシング相として高分子膜を利用したイオン電極法が用いられるが、イオン電極法は膜の劣化が問題になり、また、1種類の目的イオンに対して1種類の電極(デバイス)が必要である。このような従来法の欠点を補い、さらに高度な機能を持つマルチイオンセンシングデバイスの開発を目標とした。


図1 イオンセンシングデバイスの集積化の概念図

 図2にマルチイオンセンシングに必要な全プロセスを連続流化学プロセス(CFCP)でデザインした模式図を示す。Y字型のマイクロチャネルの一方から異なるイオノフォア分子(特定のイオンを選択的に捕捉する能力を持つ分子)を含む有機相を、マイクロシリンジポンプのON-OFFスイッチングにより、セグメント状に導入する。(仕切りとして有機溶媒を挟む)もう一方の導入口からは複数のサンプルイオンを含む水溶液を導入して2相層流を形成させる。マイクロチャネル内では油水界面が形成され、下流に行くにつれて、それぞれの有機相セグメントに含まれるイオノフォア分子の選択性に応じて異なるイオンが対応するそれぞれの有機相セグメントに抽出される。それを下流で検出すれば、複数のイオンを含む水溶液中の異なるイオンを連続的かつ選択的に検出することが可能となる。


図2 マイクロチップ中連続流体と油水2相流を利用したマルチイオンセンシング

 実際に、ナトリウムイオン(10-2M)とカリウムイオン(10-2M)を含む水溶液をサンプルとして用い、有機相には、試薬として脂溶性pH指示薬(KD-A3)、ナトリウムイオンイオノフォア分子(DD16C5)とカリウムイオノフォア分子(valinomycin)を用いた。有機相を下流で熱レンズ顕微鏡で測定した結果を図3に示す。結果、特定イオンの選択的抽出に基づく応答が得られた。このシステムにおける分析時間は、複数イオンに対して約30秒以下であり、従来の方法では1サンプルあたり約10分を要していたことと比較して、大幅な分析時間の短縮を実現できたといえる。また、必要としたサンプル体積、有機相はともに約6μl、色素・イオノフォア量数pgで、従来法(それぞれ数ml、数mg)に比べて大幅な使用量の低減も実現している。


図3 複数イオンの連続測定結果

【関連文献】

  1. On-Chip Integration of Neutral Ionophore-Based Ion Pair Extraction Reaction
    Hideaki Hisamoto, Takayuki Horiuchi, Manabu Tokeshi, Akihide Hibara, and Takehiko Kitamori
    Anal. Chem. 73, 1382-1386 (2001)
  2. On-Chip Integration of Sequential Ion Sensing System Based on Intermittent Reagent Pumping and Formation of Two-Layer Flow
    Hideaki Hisamoto, Takayuki Horiuchi, Kenji Uchiyama, Manabu Tokeshi, Akihide Hibara, and Takehiko Kitamori
    Anal. Chem., 73 (2001) 5551-5556.