Co湿式分析の集積化

 非常に複雑なコバルト湿式分析システムを30 mm X 70 mmのガラス製マイクロチップに集積化した例を図1示す。
 コバルト湿式分析は、錯形成反応、溶媒抽出、共存金属錯体の分解・除去、コバルトの定量からなり、これらを単位操作に分解すると約40操作分に対応する。通常は分液漏斗などを用いて煩雑な操作を繰り返し行わなければならず、コバルトを定量するのに数時間要する。特に共存金属錯体の分解・除去は塩酸、水、水酸化ナトリウム水溶液を3回以上作用させる必要があり、操作の簡略化が望まれる。


           図1 Co湿式分析の集積化の概念図

 図2にコバルト湿式分析に必要な全プロセスを連続流化学プロセス(CFCP)でデザインした模式図を示す。このシステムは錯形成反応・溶媒抽出と、共存金属錯体の分解・除去を行う2つの領域から構成される。前半の反応・抽出領域で生成・抽出された金属錯体を含む有機相を後半の分解・除去領域に導入し、塩酸と水酸化ナトリウム水溶液を両側から接触させてコバルト以外の金属錯体を分解・除去する。これはコバルト錯体が非常に安定で塩酸と接触しても分解されないのに対して、他の共存金属(銅、鉄、鉛など)錯体は分解されることを利用したものである。分解された金属イオンは塩酸に、配位子は水酸化ナトリウム水溶液に抽出される。このシステムで塩酸と水酸化ナトリウム水溶液を同時に作用させることができるのは、CFCPの大きなメリットの1つである。CFCPの利点は単にマイクロ分析システムを実現するだけでなく、操作の簡略化も同時に実現できることにある。
 チップは試料、反応試薬(2-ニトロソ-1-ナフトール)、有機相(m-キシレン)、塩酸、水酸化ナトリウム水溶液を導入する5つの導入口と2つの排出口を持つ。それぞれの溶液はマイクロシリンジポンプで流速を制御しながらマイクロチャネル内に導入している。


図2 マイクロチップ中連続流体とマイクロ多相流を利用したCo湿式分析法

 共存イオンとして銅イオン(1×10-6M)を含むコバルトイオン(0〜1.5×10-7M)水溶液を試料として、有機相をマイクロチャネルに沿って熱レンズ顕微鏡で測定した結果を図3に示す。前半の反応・抽出領域では試料、反応試薬、有機相の合流地点から下流に行くにしたがって信号強度が強くなり、コバルトと銅イオンが共に錯体を形成し、有機相に抽出されていることがわかる。後半の分解・除去領域のはじめの部分では銅錯体が塩酸と水酸化ナトリウム水溶液により分解・除去されるので信号は減少するが、コバルト錯体は分解されないので合流点から約2mm下流以降では信号は一定値になる。合流地点から3mm下流の結果を用いて作成された検量線は良好な直線関係を示し、このシステムでコバルトの定量ができている。また、このシステムにおける1サンプル当たりの分析時間は約50秒であり、従来の2〜3時間と比較して大幅な分析時間の短縮が実現している。また、試料、試薬、抽出溶媒の使用量はそれぞれ数mlで、従来法に比べて大幅な使用料の低減も実現している。


図3 反応・抽出領域と分解・除去領域での熱レンズ顕微鏡からの信号

【関連文献】

  1. Continuous Flow Chemical Processing on a Microchip by Combining Micro Unit Operations and a Multiphase Flow Network
    Manabu Tokeshi, Tomoko Minagawa, Kenji Uchiyama, Akihide Hibara, Kiichi Sato, Hideaki Hisamoto, and T. Kitamori
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  2. Integrated Multilayer Flow System on a Microchip
    Akihide Hibara, Manabu Tokeshi, Kenji Uchiyama, Hideaki Hisamoto, Takehiko Kitamori
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  3. Integration of a Wet Analysis System on a Glass Chip: Determination of Co(II) as 2-Nitroso-1-Naphtol Chelates by Solvent extraction and Themal Lens Microscope
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  4. Integration of a Microextraction System on a Glass Chip: Ion-Pair Solvent Extraction on Fe(II) with 4,7-Diphenyl-1,10-phenanthrolinedisulfonic Acid and Tri-n-octylmethylammonium Chloride
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  5. Molecular Transport between Two Phases in a Microchannel
    Kiyoshi Sato, Manabu Tokeshi, Tsuguo Sawada, Takehiko Kitamori;
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