超音速ジェット騒音のアクティブ抑制に関する研究
研究背景 |
- ジェットエンジンの騒音低減の必要性
- ジェットエンジンの騒音の成分
- 超音速ジェット騒音の成分
近年航空機を開発する上で安全性、利便性のみならず、環境性能である騒音が重要視されてきています。ジェットエンジンの騒音は航空機の騒音の中でも大きな割合を占め、その低減に関する研究が盛んになってきています。
ジェットエンジンから発生する騒音はファン騒音、ジェット騒音、タービン騒音、圧縮機騒音、燃焼器騒音などに分けることがでます。将来次世代超音速旅客機などに搭載される予定の低バイパス比ターボファンエンジンはジェット排気速度が高くなり、超音速ジェット排気速度の3乗に比例するといわれているジェット騒音が最も重要な割合を占めると考えられています。
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ターボジェットエンジン |
超音速ジェット騒音の場合、騒音の構成要素は大きく分けて3つあるといわれており、ジェットから発生する渦騒音(乱流混合騒音:Turbulent Mixing Noise), 衝撃波とせん断層内の渦構造の干渉による騒音(衝撃波関連騒音:Shock Associated Noise)と音響学的フィードバックループが形成されることによる離散周波数音(スクリーチ音:Screech Tone) です。
ジェット騒音低減を目的としたパッシブ(受動)デバイス |
- シェブロンノズル
- ノッチ(タブ)ノズル
- シェブロンノズルおよびノッチノズルの特徴
ノズル出口を波状の形状にすることでノズル出口に縦渦を誘起し,主ジェットと周囲大気の混合を促進するデバイス.騒音の原因となる周囲の大気と,主ジェットとの速度差を速やかに緩和することで騒音を抑制すると考えられています.
ノズル出口の周囲数か所に切欠き状の突起を設け,混合を促進するデバイス.シェブロンノズルに比べて推力への影響が小さいとされています.
シェブロンノズル |
これらのデバイスは構造がシンプルであるという点で優れていますが,騒音を低減する必要がない高高度における巡航時にはエンジンの推力損失をもたらす恐れがあります。また高温の排気にさらされることで構造的な問題が発生しやすいといった問題もあります。
ジェット騒音低減を目的としたアクティブ(能動)デバイス |
- マイクロジェット
- マイクロジェットの特徴
空気や水などを騒音源となるジェットに対して噴射することで,音響場を変化させるデバイス.一度取り付けたら形状を変化させたり取り外すことができない上記パッシブデバイスに対して,マイクロジェットでは噴射のオン/オフを自由に切り替えることができます.このような能動的に制御が可能なデバイスをアクティブデバイスと呼びます.
飛行状態に応じた制御が可能であるため,巡航時の航空機性能に対して悪影響を及ぼさない点で優れています.しかし空気を用いたマイクロジェットの場合,噴射するための空気はエンジン内で圧縮された空気を抽気することによって賄うことになり,そのためマイクロジェット作動時にはエンジン性能が低下してしまいます.実用化に向けて,より少ない空気の噴射によって効率的に騒音を低減する手法を明らかにすることが重要となります.
本研究室におけるマイクロジェットの研究 |
- 実験内容
- マイクロジェットによる流れ場の変化
音響計測に適した無響室と呼ばれる設備の中で,矩形の超音速ジェットに対して空気のマイクロジェットを噴射する実験を行っています。様々な噴射条件に対してマイクを用いた音響計測やシュリーレン法による光学計測を行うことで,マイクロジェットによって騒音が低減されるメカニズムや効果的な噴射方法を明らかにしています。
矩形ノズル |
マイクロジェットの噴射角度 |
音響計測の計測点(球面上) |
音響計測の計測点(平面上) |
下図はシュリーレン法によって可視化された流れの様子をマイクロジェットの有無について比較したものです。マイクロジェットによって主ジェットの大規模なフラッピング運動が抑制されています.また大規模な渦構造の発生/発達も抑制されていることがわかります.
マイクロジェットなし |
マイクロジェットあり |