1 : ガスタービンとは何か

このページでは、地球環境に優しく社会を支えている『ガスタービン』について、分かりやすく解説していきます。

1.1 : ガスタービンの概要
ガスタービンとは、燃料となる軽油や灯油、天然ガスなどを燃やして動力を得る、エンジンの一種です。 ガスタービンは大量の空気を吸い込み、まず『圧縮機』で空気を圧縮します。続く『燃焼器』で高圧の空気に燃料を噴射し、燃焼させます。最後に高温高圧となった気体が『タービン』を回転させ、動力を回転力として取り出します。ガスタービン発電では回転力を発電機の軸回転に利用し、回転エネルギーを電力に変換しています。また、タービンの回転力の一部は圧縮機の回転にも使われます。このように高温高圧の『ガス』で『タービン』を回すことから、この装置はガスタービンと呼ばれています。他方、タービンの回転力を取り出すかわりに、タービンからの排気エネルギーにより排気自身を加速し、ジェットとして噴出することにより、推進力を得ることもできます。これが航空機のジェットエンジンです。

図1-1-1
出典:三菱重工ホームページ

図1-1-2

図1-1-3
ガスタービンは以下のような特徴を備えています。
・ 同じ大きさのガソリンエンジンなどに比べ、大きな出力を得ることが出来ます。
・ エンジンとしては構造が比較的単純です。
このような特徴を持つガスタービンは、発電機、船舶、航空機などの大型機械の動力源を中心として様々な分野で用いられています。 航空の分野では『ジェットエンジン』として数多くの航空機の推進を担っています。
 

1.2 : 仕組み
 ガスタービンとは、燃料の燃焼によって得られた高温のガスを膨張させてタービンを回すことにより、燃焼ガスから動力を得る熱機関です。
 ガスタービンは主に、圧縮機、燃焼器、タービンの三つの構成要素から成り立っており、吸い込まれた気体は、これらの要素を順に通過していき動力を発生し、排気されます。
(1)圧縮機
圧縮機では取り入れた空気を圧縮します。軸流圧縮機や遠心圧縮機などといった様々な形態が存在し、用途や大きさに応じ使い分けられたり、2つを組み合わせて使われたりします。
大型のガスタービンにおいて主流である軸流圧縮機は、軸方向に空気を流しながら、圧縮していく圧縮機です。大きな送風機を軸方向にいくつも繋げたようなもので、空気に仕事を与えて圧力を上げる回転している翼列の「動翼列(ローター)」と、気流の向きを整える回転しない翼列の「静翼列(ステーター)」を一つの段として、軸方向に幾重にも段を重ねることにより大きな圧力上昇を生み出します。ガスタービン用の圧縮機では最新のジェットエンジンにおいて気体を大気圧の40倍以上に圧縮するものも存在します。

図1-2-1 図1-2-2
出典:日本航空ホームページ (航空実用辞典)
出典:GTSJ教育シンポウム教材
(2) 燃焼器
 燃焼器では、圧縮機を出た高圧の気体に燃料を噴射し、燃焼させます。一度燃焼器内の気体に点火したら、そこに燃料を噴射し続けることにより、炎が持続する仕組みになっています。燃料には軽油や灯油から、天然ガスなど用途に応じ幅広い燃料が利用されています。
 ガスタービンの燃焼温度は非常に高温であり、燃焼温度が高いほどより多くの出力を効率よく発生できることから、新材料の開発や、新しい冷却手段などにより燃焼ガスの温度(タービン入口温度)は年々上昇の一途をたどっています。最新のもので1500℃以上となっており、1700℃に達するものも研究されています。

図1-2-3
出典:日本航空ホームページ (航空実用辞典)
(3) タービン
タービンでは、圧縮機、燃焼器を経た高温高圧ガスから、回転の動力を取り出します。その仕組みは風車のそれと同じで、高温高圧ガスがタービン羽根車に吹き付けられることによって回転します。風車と異なる点は、羽根車に風を整えて吹きつける点です。
タービンは、空気を整流する静翼列(ステーター)と高温高圧ガスの流れを受け止め回転する動翼列(ローター)からなり、静翼列と動翼列をあわせて一つの段とします。タービンでも圧縮機と同様に、段を軸方向にいくつも重ね、段階的に高温高圧ガスから回転の動力を取り出していきます。

図1-2-4
出典:日本航空ホームページ (航空実用辞典)
(4)構成と出力の取り出し
ただし、ガスタービンから動力を得る方法には後述するように二通りあり、ジェットエンジンの推進力(推力)を得る方法は、回転力を得る方法と少し違います。
圧縮機、燃焼器、タービンの3要素は、同時進行で常に作動するため、ガスタービンを運転すると、気体の流入・流出が絶え間なく続きます。エンジン内部を気体が留まることなく高速で流れていきます。また、各構成要素がそれぞれ別個の役割を持っているため、各構成要素の構造や組み合わせを柔軟に変更することができ、小型のものや作動流体の通過経路を工夫することによる効率向上を図ったものなど、様々な利用の仕方が可能です。

1.3 : 性能 熱効率と比出力
 ガスタービンの性能指標には、比出力と熱効率があります。 
 比出力とは、ガスタービンに流入する気体の単位流量当り取り出せる動力であり、比出力が大きければ、同じ動力をより少ない作動流体で発生させることが出来るため、小型で大出力の熱機関になります。
 熱効率とは、燃料が持つ熱エネルギーから取り出せる動力の割合で、[取り出した動力]/[燃料が持つ熱エネルギー]で算出されます。同じ出力の機械を動かすとき、熱効率の高いもの程、少ない燃料で動かすことが出来るので、燃費が良くなります。
優れたガスタービンは、大きな比出力と高い熱効率を持つもの、といえます。
 一般に、比出力を大きくするために、サイクルの最高温度(タービン入り口温度(燃焼ガス温度))と最低温度(普通は大気温度)の比を大きくし、熱効率を高めるために、圧縮機での圧力比を高くします。そのため、ガスタービンの高性能化のため、高温化、高圧力比化が進んでいます。

 高温化は著しく、タービンの材料の融点によって最高温度が決まるので、より耐熱性に優れた材料の開発が、ガスタービンの性能向上に直接効きます。現在のガスタービンでは、タービンを冷却したり、タービン翼に耐熱コーティングを施したりすることによって、材料の融点を超えた温度で作動することが可能となっています。性能向上の核となる部分だけに、タービンの耐熱性を高める材料、冷却、コーティングに関する研究は、重要な位置を占めています。

図1-3-1
出典 : GTSJ調査研究報告書

1.4 : 用途
このようなシステムであるガスタービンは、大量の作動流体を連続して処理できるので、間欠的に気体を処理するガソリンエンジンや、ディーゼルエンジンと比較し様々な長所があります。
・ 同じ大きさのエンジンで大出力を達成することが出来ます。
・ 構造が比較的単純であるという長所があります。
 ガスタービンは、発電機、船舶、などの駆動に利用されているほかにも、ジェットエンジンとして航空機に搭載されており、大型の機械の動力源として様々な分野で用いられています。
 ガスタービンは高温高圧の燃焼ガスから動力や推進力を得ます。基本的にはタービンにおいて、まず圧縮機を駆動するための動力を確保し、残ったエネルギーを動力として出力します。その方法には主に2通りあります。
(1) 回転力としての動力
 タービンにおいて高温高圧の燃焼ガスから回収できる動力全てを回転エネルギーとして回収します。圧縮機を駆動するために用いる動力を引いた回転力が出力として発生します。
(2) 排気ジェットによる推進力としての動力
 ジェットエンジンに用いられる方法です。圧縮機を駆動するために必要な動力をタービンにおいて回収し、その後残った高温高圧の排気ガスをそのまま推進力として排気します。ジェットエンジンにおいてはタービンの下流にノズルがあり、排気ガスが適切な速度、圧力で排気されるようにします。
 また最近の旅客機用のエンジンでは、排気ガスによる推力とタービンで発生した回転力で駆動するファン(送風機)による推力とを同時に利用するファンエンジンも多く使われています。

 このように様々な形態にて出力を発生できることが、様々な大型機械の動力源となっている理由でもあります。

図1-4-1
出典:川崎重工ホームページ

2 : 様々な発電方法とガスタービン発電

2.1 : 様々な発電方法
私達の身の回りには、冷蔵庫やテレビ等の電化製品から電車や照明などの電気を必要とするものが満ち溢れおり、あらゆるところで電気が使われています。しかし、この電気はもともと電気という形で存在していたわけではありません。電気以外のエネルギー資源を変換して電気にしているのです。この変換のことを「発電」といいます。
 では、どのようにして発電を行っているのでしょうか?
 日常、私たちの使っている電気の大半は火力発電、水力発電、原子力発電によって作られたものです。これらの発電方法では、共通して発電機を回して電気を作っています。モーターに豆電球をつけてモーターを回すと電気が流れて豆電球が光りますが、基本的にはこれらの発電も同じで、規模が大きくなったものが発電機と考えることができます。
 では、水力発電、火力発電、原子力発電の何が違うかというと、発電機をどのように回しているかということです。これらの発電方法それぞれについて簡単に見てみましょう。
○水力発電
貯水池に貯めた水を落下させ動力に変換し発電機を回して発電を行います。

図2-1-1
○原子力発電
核分裂で発生した熱で水を沸騰させて作った蒸気によって発電機を回して発電しています(→後述の蒸気タービン発電)。

図2-1-2
○火力発電
石炭や石油、天然ガスなどの燃料を燃やすことで発生する熱を用いて発電機を回します。現在、発電所では熱から発電機を回す方法として、主に二つの方法が利用されています。
・蒸気タービン発電
燃料を燃焼させることによって発生した熱で水を温め、発生した蒸気を用いて羽根車(蒸気タービン)を回し電力を得る方法です。蒸気タービンは大動力を比較的簡易な設備で発生できることから、現在の大型の火力発電所で主流な方法として用いられています。

図2-1-3
・ガスタービン発電
燃料を燃焼させてできた燃焼ガスを用いて羽根車を回します。燃焼ガスから直接動力に変換して発電機を回す方法です。

図2-1-4
ガスタービン発電は燃焼によって得られた動力を用いて発電機を駆動しているので、火力発電の一種ですが、ほかの発電方法と比べると次のような特徴が挙げられます。
・ 短時間で始動することができる
・ 同じ程度の出力であれば小型化することができる
 これらの特徴から、電力需要の変動に応じるためのピーク時用発電機関や非常時用電源として広く普及しています。
 また、最近では熱効率の低い蒸気タービン発電のみを用いる方法に変わり、次に述べる蒸気タービン発電とガスタービン発電を組み合わせたコンバインドサイクル発電が盛んに用いられており、その要素であるガスタービン発電の重要度が高まっています。

2.2 : ガスタービン発電のいろいろ
次に、現在実際に行われているガスタービン発電の方法について見ていきます。
 ガスタービン発電をすると、電力だけでなく大量の熱が発生します。この熱をそのまま捨てるのはもったいないので、この熱を利用したシステムとガスタービン発電を組み合わせた複合的なシステムが広く採用されています。ここでは、現在、よく使われている「コンバインドサイクル発電」と「コージェネレーション」を紹介します。
○コンバインドサイクル発電
ガスタービン発電には、ガスタービンを使って発電した後の排気が高温であるという特徴があります。この排気を利用してさらに発電しようというのがコンバインドサイクル発電です。
 コンバインドサイクル発電の仕組みは下図のようになっています。廃熱回収ボイラでガスタービンから高温の排気を取り入れ、水を沸騰させて高温高圧の蒸気を発生させ羽根車(タービン)を回転させて発電を行います。つまり、ガスタービン発電の廃熱で蒸気タービン発電を行っています。
 このようにコンバインドサイクル発電では、ガスタービン発電で使われなかった排ガスの熱を回収し二重に発電を行っているので、非常に高い発電効率を得ることができます。ガスタービン発電では発電効率が40%程度にとどまるのに対して、最新のコンバインドサイクル発電では、60%程度の発電効率が達成されています。
 コンバインドサイクルは現在では広く普及しており、小型のものから、大型のものまで幅広く実用化されています。特に大規模なガスタービン発電の設備は、ほとんどがこのコンバインドサイクル発電システムを採用しています。

図2-2-1
○コージェネレーション
コンバインドサイクル発電ではガスタービン排気でさらに発電をしましたが、コージェネレーションでは排気から熱を回収し、暖房や給湯などのシステムに熱エネルギーを供給します。電気と熱の両方を利用するので、二つのものを作り出すという意味で「コージェネ」、「コージェネレーション」と呼ばれています。
 コージェネレーションのシステムは下図のようになっていて、廃熱回収ボイラで熱を回収し高温の蒸気を発生させ、これを熱源として供給します。
 コージェネレーションシステムでは、ガスタービン発電で廃棄された熱が有効に使われているので総合的に高い効率を得ることができます。
 また、以下のような機能を持たせることで、電気需要、蒸気需要の変動に対応することができます。
・ 蒸気需要が大きいとき
    →排熱回収ボイラで追いだきをする。
・ 蒸気需要が小さいとき
    →過剰な蒸気をガスタービンサイクルの中に注入することで電気出力を増大させる。
 このシステムは電気と熱を同時に作るものなので、両方を大量に使うような場所で、特にメリットが大きくなり、ビルや大規模工場などで導入が進んでいます。

図2-2-2



今後、様々な分野で活躍するガスタービンを取り上げてみなさまに紹介していく予定です。


著作 : 社) 日本ガスタービン学会
制作協力 : 東京大学航空宇宙工学専攻 渡辺・姫野研究室