A) 成体海馬のニューロン新生
これまで、脳の細胞は年をとるとともに減る一方で、決して増えることはないと考えられてきた。近年、この通説を覆す数々の証拠が挙げられている。記憶に関係する海馬で、大人でも盛んにニューロンが入れ替わっていることがわかってきたのだ。
私たちは、サルやマウスを用いて、このニューロン新生のメカニズムを、生理・生化学的に解析している。また、この海馬新生ニューロンが、学習や記憶に深く関与するというデータも得られつつある。
加齢と共に、海馬新生ニューロンの数が指数関数的に減少することが知られており、高齢者の脳機能を高めるために、新生ニューロン数を増加させる方法の解明が待ち望まれている。
B) 脳回路の再生
超高齢化社会を迎えたわが国において、老人性認知症の増加が大きな社会問題になっている。高齢になるに従い、脳梗塞やアルツハイマー病等の病的変化の頻度が増してくるからだ。
成体脳におけるニューロン新生現象を再生工学的に応用し、傷害された脳回路の再生を目指した研究を進めている。サル類やマウスを用いた脳梗塞モデルを使用し、ニューロンの再生に関する基盤解析を進めている。
C) 脳の加齢変化の予防
歳をとると共に、どうしても脳の機能は衰える方向にある。どうしてなのか?この疑問に答えるために、高齢動物などを用いた研究を行っている。
その原因は脳細胞そのものによるのか、あるいは脳の血管系に起因するものなのか?脳イメージングなどを用いた解析を進めている。
また加齢に伴い、動脈硬化に代表される血管の変化が引き起こされ、脳組織内の血管においても血栓症や塞栓症が誘発される頻度が増す。脳内微小な血管の閉塞に起因するラクナ性脳梗塞の予防や再発防止を目指して動物モデルを用いた研究を進めている。
D) 記憶における海馬脳回路の役割解明
私たちの知性や感情は、脳のはたらきによって作り出されている。脳とは心のための臓器であると私たち脳科学者は考えている。
脳がはたらくとき、数百億に及ぶ脳神経細胞(ニューロン)が高速かつ複雑に情報を交換することから、ときに脳とコンピューターの類似性が議論の対象になる。
ただし、脳がコンピューターとは決定的に異なる点がある。それは、脳の中では、細胞が常に変化をしていることだ。コンピューターの中でICチップが形を変えるという話は未だ聞いたことがない。
記憶の中枢としての海馬回路を題材にして、脳のはたらきを細胞の変化という観点からとらえ、脳細胞の変化・応答性を通じた脳機能の解明を目指している。
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