古田ゼミについて
[2008年4月9日更新]

東京大学大学院総合文化研究科の古田元夫先生のゼミ(古田ゼミ)の特徴の1つは、東南アジアを中心に、さまざまな地域のさまざまな事象を研究対象とする学生が集まっていることにあります。 関心の多様さ、そして1人1人の個性の強さにもかかわらず、古田ゼミがまとまって見えるのは、いくつかのことがらがゼミ生のあいだで共有されているためです。

「野蛮」な古田ゼミ
古田ゼミでは、(おそらくべトナムを唯一の例外として)自分の研究対象地域に関するディープな知識を披露しあうことで満足を得ることは期待できません。対象地域に関する知識量ではなく、(正確な知識のうえに組み立てられる)議論の筋が通っているかが議論の中心となります。

研究対象地域や研究テーマの選択では、古田先生から指示や示唆があることはなく、ゼミ生自分なりに考えて(暫定的なものであるとしても)決める必要があります。ただし、対象地域や研究テーマをゼミ生が自主的に決めてよいといっても、ゼミ生が決めたものがそのまま歓迎されるとは限りません。例えば、「これまであまり知られてこなかった地域を紹介する」というだけでは、(古田先生は、学生の考えを尊重して、なるべくそれを活かして研究を発展させる方向を示唆してくださいますが)ゼミのメンバーから納得してもらえません。その研究テーマが他の地域や時代を研究対象とする人たちにどのような意義を持ちうるのかなどといった説明が求められたりします。

表現にあれこれ工夫せずに思ったことをストレートに言うことが共通の了解になっているため、ゼミの議論では厳しいやりとりが飛び交うこともあります。古田ゼミの議論が「野蛮」だと言われることがあるのはそのためです。(もちろん、私たちはその言葉をよい意味で捉えています。)

不特定多数の人が出入りする学会や研究会の議論はどうしても「節度をもった」ものになりがちですが、ゼミでの研究発表と議論では先輩も後輩も(先生も?)関係なく、論理的な説得力があるかどうかだけが問われるのが古田ゼミの慣行になっています。

「その議論は世の中をよりよくするのか」
ただし、「論理的な説得力があるかどうかだけが問われる」というのは、理屈が通っていさえすればどんな結論を導いても受け入れられるということではありません。ゼミの議論で明示的に語られることはほとんどありませんが、古田ゼミの共通の了解として、提示された議論によって自分自身を含む世の中がよりよくなるかが常に意識されています。「その議論は世の中をよりよくするのか」――これが、言葉では語られないけれど古田ゼミで受け継がれてきた基本的な考え方の1つです。

このような学問的態度を、古田ゼミでは「地域研究」(地域文化研究)と捉えています。特定の地域事情に関する情報集めに埋没する消極的な意味での「地域研究」ではなく、特定の地域に対する実証的な理解をもとに、人類社会全体に通用する理論を生み出し、それを通じて世界のよりよいあり方を提示することを目標においた積極的な意味での「地域研究」を目指して勉強しています。

ゼミ室から外の社会へ
古田ゼミには、自分が世の中にどのように関わるかを強く意識している人々が集まっています。自分に何らかの場が与えられたら、自分の力の範囲内で、その場がうまくまわるように1人1人が努力するというマインドをもった人たちが集まっています。

古田ゼミのメンバーは、学会の研究大会や国際シンポジウムなどの運営に積極的に参加し、好意的な評価をいただいてきました。古田ゼミは結束が固いと言われることがありますが、もしそのように見えるとしたら、それはメンバーどうしの仲がよいからでも上下関係が厳しいからでもなく、上で述べたマインドを共有しているためだろうと思います。

世の中に関わりたいと思う人たちが、より有効な関わり方を求めて連携しているために古田ゼミの結束が強いように見えるのかもしれません。しかし、その意味で古田ゼミは連携のための枠組の1つにすぎず、それ以外の枠組での連携も当然あり得ますし、たとえ1人であっても、適切な場が与えられれば力の限りで必要な役割を果たすことができると私たちは考えています。古田ゼミを卒業した後も、社会のなかで何らかの責任を負う機会が与えられれば、自分たちの力の範囲内でその役割を十分に担い、そのことによって研究を通じた世の中との関わり方を積極的に模索していきたいと考えています。

「想像の共同体」をどう乗り越えるか
古田ゼミにはさまざまな学問的関心を持った学生が集まっていますが、多くのゼミ生の関心は、20世紀から現在に至る東南アジアのさまざまな社会秩序とその実践にあると言うことができます。 また、ゼミ生のほとんどは、研究対象地域の言語に通じ、研究対象地域やそれと密接に関連する地域に長期間滞在して留学や調査研究を行った経験を持っています。

1990年代には、言語、教育、政治制度、民族意識などにゼミ生の関心が集まりました。そのため、ベネディクト・アンダーソンの『想像の共同体』についての議論を行い、それを踏まえて、ゼミ生がそれぞれの研究対象地域への理解を深めるとともに、アンダーソンの議論を批判的に検討し、それぞれ議論を発展させてきました。いわば、この時期の古田ゼミのテーマは「『想像の共同体』をどう乗り越えるか」(そしてそれを通じて古田先生をどう乗り越えようとするか)と言えるものでした。

その成果はゼミ生によってそれぞれの博士論文としてまとめられつつあり、一部は書籍として刊行されています。なお、古田ゼミとアンダーソンの縁は深く、『想像の共同体』に続くアンダーソンの著作である『比較の亡霊』の日本語版の出版にあたっては、古田ゼミのゼミ生が中心的な役割を担っています。

2007年度の古田ゼミ
古田先生がフルタイムのスタッフとして駒場のキャンパスにお戻りになった2007年現在、教室では現役生が、ゼミの先輩方の著作や、提出されたばかりの博士論文をテキストとして輪読しています。今日まで古田ゼミでは主にナショナリズムやエスニシティに関する議論を深めてきましたが、現役生はその議論を踏まえつつ、博士論文や修士論文の執筆に向け独自のテーマや見方を模索しています。
毎回の参加者は20名程度で、実社会での経験を持った社会人学生や、博士論文執筆中の卒業生、フランスとベトナムからの留学生が加わり、議論の幅を広げています。
古田ゼミの修士論文題目一覧
 「フィン・トゥク・カンにおける文明・民族・社会」
 「『南風雑誌』に見るベトナム語論:漢字語彙の位置付けを中心に」
 「近代日本の言語計画:「満州国」の言語計画を中心に」
 「現代サバの政治と木材業」
 「インドネシア独立戦争期のアチェ」
 「民族統一と統一戦線」
 「フィリピン農村社会変動の解釈論」
 「リム・ブーケンの思想と行動:20世紀初頭の海峡植民地におけるある知識人の選択」
 「第1次インドシナ戦争時のベトナム・中国関係:「小国=大国同盟」の分析」
 「軍事政権における軍の統制:インドネシアの新秩序体制」
 「ドイモイ期におけるベトナム少数民族言語教育政策:北部山間部の言語教育政策をめぐる一研究」
 「インドネシアのポピュラー音楽、ダンドゥットの発展:“低俗な音楽”のイメージは如何にして克服されたか」
 「ベトナムの家譜:青霞社阮曰氏家譜の分析」
 「負けた戦争を生きること:アメリカのベトナム撤退とアメリカにおけるベトナム人コミュニティの形成」
 「韓国のベトナム派兵前史:李承晩の反共同盟構想とインドシナ派兵提議を中心に」
 「戦間期のベトナム知識人ファム・クインの思想」
 「国語新聞と市議会選挙:植民地期サイゴン市・チョロン市におけるベト人住民の同胞意識」
 「日本・南ヴィエトナム戦後賠償交渉の研究:サイゴン政権の主体性とその変化」
 「ドイモイ初期の労働問題と労働組合:市場経済化に対応するベトナム労働総連合(VGCL)の認識と活動を通しての研究」
 「現代マレーシアにおけるイスラームと「棄教」:リナ・ジョイ係争をめぐる論争の分析」
古田ゼミの博士論文題目一覧
 「近代「国語」の歩み:帝国日本の言語政策」
 「日本援助外交政策の変容:対ベトナム援助に見る国内外影響要因の分析」
 「エスニシティ「創生」と国民国家:中越国境地域のタイー族・ヌン族とベトナム」
 「英領北ボルネオ(サバ)における民族形成」
 「フランス植民地時代のベトナムにおけるジェンダーをめぐる言説」
 「コミンテルン・システムの中のインドシナ共産党」
 「フォード財団と国際開発レジーム」
 「現代フィリピン・カトリック教会の政治・社会参与と教会刷新」
 「第1次インドシナ戦争の終結とベトナムの軍事・外交政策:戦争末期からジュネーブ会議まで」
 「在米ベトナム人とベトナム共産党の政策転換」
 「20世紀初頭のペナンの華人と政治参加」
 「スハルト体制下における与党ゴルカルの変容とインドネシアの政治変動:翼賛型個人支配とその政治的移行」
 「アチェ紛争の起源と展開:ポスト・スハルト体制期における紛争と災害」
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東京大学大学院総合文化研究科(地域文化研究専攻) 古田元夫ゼミ


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