果樹、野菜、花きといった園芸作物は、私たちが健康で文化的な生活を過ごすために不可欠で、わが国の産業上も大変重要な役割を果たしている。園芸作物では、絶え間ない育種改良によってさまざまな色、形、機能性を有する品種が生み出されてきた。また、普通作物とは異なり栽培環境を制御するなどして積極的に作期の拡大が図られてきた。そのため園芸作物にはモデル植物にはない複雑な多様性や環境応答性をみることができる。園芸学研究室では、こうした園芸作物の秘められた魅力についての研究を行っている。

最近の主な研究テーマ

 キクにおけるカロテノイド酸化開裂酵素遺伝子の多様性の解析

キク(Chrysanthemum morifolium Ramat.)はバラやカーネーションとならんで世界的に重要な花きであるキクの花色は多彩で、白、黄、ピンク、赤などがあるが、黄色の花色発現にはカロテノイドが関わっている。近年、キクの花弁にあたる舌状花で特異的に働くカロテノイド酸化開裂酵素遺伝子が発見された。葬儀用、仏事用に主に用いられるキクで最も需要の多い白色の花色発現には、本遺伝子が大きな関わっていると考えられる。一方、キクは六倍体を中心とした高次倍数体でゲノムサイズも大きいことから、遺伝子の発現解析に関する研究が進んでいない。本研究では、キクにおけるカロテノイド酸化開裂酵素遺伝子の多様性を解析し、キクゲノム中の本遺伝子の構成と花色発現との関係を明らかにすることを目指している。


 ハナスベリヒユの多様性に関する研究

雑草のスベリヒユと同様に猛暑の中でも旺盛に生育し、かつ赤、黄、白、ピンクなど鮮明な花色の花を毎日次々と咲かせるいわゆるハナスベリヒユは、盛夏の花壇用の花きとして広く普及してきた。本植物はこれまでスベリヒユの変種や種間交雑由来などとされてきたが、南米原産のPortulaca umbraticola Kunthが起源であると思われる。わが国で育種改良が進み、花色、花の大きさ、開花特性などで変異拡大が急速に進んできている。毎朝開花した花が午後には閉じてしまう一日花であるが、夕方まで咲き続ける品種や、これまでになかった大輪や複色の品種も登場してきた。終日開花性や倍数化による大輪化・不稔化について解析を進め、さらなるハナスベリヒユの変異拡大の可能性を目指している。


トルコギ キョウでみられる優性の八重咲き性に関する研究

 園芸品種としては,より豪華にみえる八重咲きと呼ばれる花弁数の多い品種が好まれ る.花器官数が定数の植物では基本的な構造は一重咲きであり,八重咲きは人為的な選抜がなされない限り珍しく奇形花の一つとされ,2000年以上前から数 々の記述が残っている.シロイヌナズナでは,ある花器官が他のタイプの花器官へと変化したホメオティック変異体が多数確認されている. 一般的に八重咲きとは,ABCモデルに基づき,雄しべ,雌しべなどの花器官が変化して花弁となる 現象(弁化)によって,本来の花弁数が増加した花と考えらている.この説明では,八重咲きはCクラス遺伝子の機能が失われたために生じるもので,雄しべは 形成されず,従って不稔である.しかし,八重咲きの園芸品種をひろく調べると,雄しべが正常に形成される八 重品種もある.バラのようなもともと花器官数不定の種だけでなく,トルコギキョウ(Eustoma grandiflorum (Raf.) Shinners)のように本来花器官数が定数でありながら雄しべが弁化せず に花弁数が増えるものが存在する.トルコギキョウでは花弁 を形成するホール数そのものが増加し,雄しべ・雌しべは正常に形成され,優性形質をする.この研究では,遺伝子マッピングにより,八重咲き性の原因遺伝子 を明らかにすることを目指している.


レタスの抽だいと葉形に関わるQTL解析

 レタス(Lactuca sativa L.)は冷涼な気候を好み、30℃以上の高温長日条件下では花成が誘導され、その後急激な茎の伸長(抽だい)が起こる。温度上昇期のレタス栽培では、不時抽だい、球内で茎が伸長して球がいびつになる球内抽台、球のしまりが悪くて葉の中助部が突出する異常球の発生が増加し、生産現場では安定生産の大きな妨げになっている。また、球の結球程度や葉の形はレタスの分類上の大きな特徴であり、市場での商品価値を決める重要な要因でもある。このような形質は、表現型の分布が連続的で多数の遺伝子が関与する量的形質(Quantitative Trait)であり、環境条件によってその発現が変動するので今まで解析が困難であった。本研究ではQTL解析法を用い、レタスの茎の伸長や球の形成に関係する量的形質遺伝子座を明らかにし、抽だいや結球現象のメカニズムについての理解を深めることを目的とする。