学科紹介

教養学部後期課程の改革と新学科について

平成22年度教養学部後期課程委員長 三浦篤

 駒場キャンパスの教養学部後期課程は、現行の制度とカリキュラムの改組を進めてきましたが、このたび平成24年度以降に行われる進学振り分け(平成25年度以降の進学者)を対象に、新しい後期課程を発足させることになりました。その目的や新制度の概要、進学振分けの変更点などを説明しますから、自らの進路決定の参考にして下さい。

 教養学部後期課程は現在、超域文化科学科、地域文化研究学科、総合社会科学科の文系3学科、基礎科学科、広域科学科、生命・認知科学科の理系3学科、計6学科で構成され、高度な教養をそなえたスペシャリスト、高度な専門性をもったジェネラリストを、学問世界や一般社会に多数輩出し、大きな評価を得てきました。その精神を受け継ぎながらも、昨今の学問の急激な変革やグローバル化に伴う世界変動といった未知の情勢に対応できる、新しい教育研究体制を整える必要もまた近年強く感じていました。そのために、「教養学科」、「学際科学科」、「統合自然科学科」の3学科で再構築された新制度を施行することにしたのです。

 文系の教養学科は、「超域文化科学分科」、「地域文化研究分科」、「総合社会科学分科」の3分科で構成されます。人間の知と文化を多様な観点から複合的に研究する「超域文化科学」、地域文化から世界へという視点のもとに多元的な世界解析を主眼とする「地域文化研究」、社会科学の横断的学習にもとづく現代社会と国際関係の精緻な解明を目的とする「総合社会科学」です。現行の3学科を1学科に統合してより緊密なつながりを持たせるとともに、新3分科の内容も更新し、有機的に連関する18の個性的な履修コースを設けました。

 超域文化科学分科は、文化人類学、表象文化論、比較文学比較芸術、現代思想、学際日本文化論、学際言語科学、言語態・テクスト文化論の7コースで構成されています。本分科の特色は、学問領域や地域的境界、文化ジャンルを超えたダイナミックで横断的な学際性・総合性です。伝統儀礼や民族芸能から、異文化間の交流、情報化社会における芸術や文化、それらの根底にある言語活動や思想にいたるまで、その研究領域は人類の文化の総体が対象になっているのです。各コースでは具体的な対象に即した実地の作業が重視されており、コース間の連携を図りながら活き活きとした教育研究を実践することを目標としています。

 地域文化研究分科は、イギリス、フランス、ドイツ、ロシア東欧、イタリア地中海、北アメリカ、ラテンアメリカ、アジア・日本、韓国朝鮮の9つのコースから成り立っています。これらは独立したコースとして異なる地域を研究対象としながらも、地域文化研究という共通性をもち、分科として有機的な一体性を保っています。本分科は「地域文化から世界へ」を基本姿勢とする一方で、重層化・複合化が進行する世界各地域で観察される「世界から地域文化へ」の方向性も重要なテーマと考えています。学生に求められているのは、多様な地域文化を理解するために不可欠な言語の習得、具体的な知見を通した実践知の獲得です。

 総合社会科学分科は相関社会科学と国際関係論の2コースから構成され、社会科学の総合的研究とその現実社会・国際社会への適用をめざしています。両コースのカリキュラムは異なりますが、ともに経済学、法学、政治学、社会学など従来の社会科学の成果を尊重しつつも、その縦割り的な制約を超えて、グローバル化する現代社会の諸問題に対して領域横断的にアプローチしようとする点で共通しています。問題の複合化に創造的に対処しうる人材、さらにはその努力を具体的成果としてまとめあげることができ、国際的、社会的な諸分野で信頼を得て活躍できる人材の養成を目標としています。

 文理融合型の学際科学科は、「科学技術論」、「地理・空間」、「総合情報学」、「地球システム・エネルギー」の4コースで構成され、広域的な問題に対処し得る柔軟な教育研究を目指します。21世紀に入り、気候変動やエネルギー問題、地域間格差問題、科学技術や情報技術活用のあり方など、複雑かつ地球規模の問題への対応の必要性が高まっています。既成の細分化された学問領域によっては扱えない現代社会の重要な問題に対し、文理を問わず柔軟な思考と適切な方法論を用いて、新しい課題に総合的な視点をもって対処できる人材の育成が、今まさに求められているのです。こうした要請に応えるために、文理融合の教育研究を実現する新学科として、学際科学科が新設されることになりました。

 新学科の設置にあたっては、これまで学際領域を担ってきた広域科学科の「広域システム分科」と「人文地理分科」、基礎科学科の「科学史・科学哲学分科」が新たに合体されることになります。今回の改組により、人文社会科学、情報科学、自然科学の連携がより強化されることが期待されます。このように文理融合を進めて、学際科学の内容をより明確にするために、従来の分科を廃止し、新たに「科学技術論コース」、「地理・空間コース」、「総合情報学コース」、「地球システム・エネルギーコース」の4つのコースを設けることにしたのです。

 これらに加えて、4つのコース間の相互浸透性を高めるために、各コースが他コースに提供する「科学技術論」、「地理・空間」、「総合情報学」、「地球システム・エネルギー」、「進化学」の5つのサブプログラムも設けました。従来から他学部・他学科の科目履修は可能でしたが、系統的に学習する機会は限られていました。学際科学科では、複数の専門を極めようという意欲あふれる学生に対し、サブプログラムの履修を勧めます。さらに、学際科学科内のサブプログラムとは別に、学科間の連携を通じて複数の学科に関わる最新の研究成果を授業で紹介する「学融合プログラム」として、「グローバル・エシックス」、「進化認知脳科学」、「バリアフリー」、「科学技術インタープリター」を新たに設けたのも大きな特徴になっています。

 理系の統合自然科学科は、「数理自然科学」、「物質基礎科学」、「統合生命科学」、「認知行動科学」の4コースに加えて、「スポーツ科学」をサブコースとする、4コース・1サブコースから構成され、統合的な視野に基づく自然科学の教育研究を行うことを目的に作られました。数理、物質、生命、認知、身体に関する基本的知識を習得するとともに、複数の分野にまたがる専門的知識を獲得することが奨励されています。

 「数理自然科学コース」では、様々な数理的概念の理解を深めつつ広く自然現象の背後にある数理的構造を学び、自然科学を統合的に理解することによって、高度な数理的考えや手法を多様な分野に生かせる人材を育成します。「物質基礎科学コース」は、広く物理・化学的概念を学び,その深化・統合によってミクロからマクロにわたる物質世界の理解を深めることで、物質科学の新しい統合的な学問領域の創造を目指しています。「統合生命科学コース」は、生命の様々な階層における秩序,構造,機能,法則性とそれらを統合するシステムの成り立ちを把握し、生命科学のフロンティアを開拓する人材の養成が目標です。「認知行動科学コース」は、人間の認知機能や行動の諸特性とその成立の仕組みを総合的に把握させるとともに,発生及び適応の観点から人間科学を深く理解することを目的としています。「スポーツ科学サブコース」は、様々な身体運動を力学・医学・生理・生化学・心理学の観点から科学的に学び,運動や身体について総合的に把握・理解することを目指します。

 各コースのカリキュラムは、10単位の学科共通科目と、32単位のコース科目を中心とし、他コース、他学科の科目も柔軟に取得できるようになっており、学生自身の選択によりそれぞれのコースの科目を中心に専門的な分野に集中して学ぶことも、広く様々な分野の科目を取得し、総合的な知識を身につけることも可能になっています。また、自分の所属するコース以外の特定のコース、サブコースの単位を24単位以上取得することにより、副専攻の認定を行う制度を設けています。さらに、卒業研究は、必ずしもコースの枠に縛られず、広い範囲の教員が出している研究テーマの中から選んで実施できるようになっています。

 このように、統合自然科学科は、学問領域を自由に越境、横断して自然科学の知を統合し、新たな領域を開拓する研究者の養成を目標としています。また同時に、深い専門性と幅広く豊かな知性を有する自然科学的な教養人も育成するつもりです。

 進学振り分けについては、進振り定員が教養学科101人、学際科学科25人、統合自然科学科57人になります。平成24年に進学振分けによって新制度の第1期生が誕生し、この年の冬学期から新カリキュラムに基づく内定生向けの授業が始まり、平成25年の4月に新制度の3年生が正式に後期課程に進学することになります。ちなみに、旧制度下の学生諸君については、新カリキュラムが施行された後でも授業科目は旧カリキュラムの授業科目で読み替えられますから、単位取得や卒業に関して支障が起こることはまったくありません。その点は安心して下さい。

 なお、卒業生の進路は、文系の場合、官公庁、国際機関、メディア、情報サービス、金融、商社、製造業などの分野における国内外のグローバルな諸機関、諸企業への就職、及び人文・社会科学系を中心とした関連する大学院への進学などを想定しています。理系の場合は、専門的な科学・技術分野における研究者を目指すための大学院への進学や、科学技術政策や理科系教育の行政職、科学ジャーナリスト、科学インタープリター等、社会と科学を結ぶ職業人等、高度な自然科学的教養人などを想定しています。いずれにしても、学際化と国際化を特徴とする教養学部後期課程に相応しい人材を、全教員の協力体勢の下に輩出できるよう熱意をもって教育に当たるつもりです。新時代を開く意欲のある学生諸君にぜひ挑戦していただきたいと心から願っています。


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