学科紹介

理学部生物学科が変わります」

理学部生物学科 寺島 一郎


 進学ガイダンスでは、「農学部や薬学部と、理学部の生物学科との違いは?」、「理学部生物化学科や生物情報学科とはどこが違うのか?」という質問をよく受けます。東大には生物を研究対象としている学部が多いので、駒場で学ぶみなさんにとって、いったいどこに進学すれば「自分にあった生物学」をやれるのか、判断するのは難しいかもしれません。

 今世紀に入って、生物科学は爆発的な展開を見せています。その中にあって、1877年に設立された理学部生物学科は、世界第一線で活躍する研究者を輩出する学科であり続けるため、学科改革計画を熱心に進めてきました。そして、2010年秋から、新しい進学振分けシステムを適用し、カリキュラムを大幅に再編・改良することにしました。他学部や、理学部の他学科との違いが、一層明確になったはずです。

進学振分けシステムの変更(学科の一体化)

 動物学(定員8名)、植物学(8名)、人類学(定員4名)の3コースで募集していた進学振分けシステムを変更し、生物学科1学科として定員20名を受け入れることにしました。これまでは、定員が少人数であったため、志望者の微妙な増減で最低点が大幅に変わる「難関」でしたが、定員を20名とすることにより、みなさんにとって安心して志望できる学科になります。進学者は、これまでのコース定員にとらわれずに、自由に専攻分野を選ぶことができます。

新しいカリキュラム

 進学内定後の4学期には、分子生物学、細胞生理学、遺伝学、生態学、系統分類学、進化学、人類生物などを学びます。駒場における生物学教育は、分子生物学と細胞生物学が中心ですが、生物学の対象は広いことを理解したうえで、自身の立ち位置を見極めてほしいと思います。

 進学後は、本郷キャンパス理学部2号館の学生室・実習室で大半の時間を過ごします。各学生に、机、パソコン、光学顕微鏡、実体顕微鏡が与えられます。3年夏学期には、細胞生物学、分子進化学、発生学、生理学などを学びます。また、科学英語演習では、教科書や論文の丁寧な講読、科学英作文などを行います。パソコンを使った生物統計学や生物情報学の演習も行います。人類学を中心に学びたい進学者は、3年夏から人類学分野のカリキュラムを履修します。

 午後のほとんどの時間は実習です。3年夏には4つの柱からなる共通実習を行います。人類学分野では、別途、医学部との密接な連携によるヒトの解剖や組織・生化学、ならびに人類学基礎実習・講義が行われます。

 BioDiversity:モデル生物を用いた研究によって生物科学が爆発的な進展を見せている一方、今年、名古屋で開催されるCOP10の主題「生物多様性」も生物科学のキーワードです。みなさんには、モデル生物を単に使いこなすだけではなく、新たな生物学現象を発見し、新しいモデル生物を選び出す能力を備えてほしいと思います。また、系統分類学、生態学、集団生物学、霊長類学などのマクロな多様性生物学の展開を担う人材も必要です。このために、多くの生物・生物現象に触れることのできる実習を行います。理学部2号館の実習室で行う実習ばかりではなく、神奈川県三崎の理学系研究科(理学部)附属臨海実験所、文京区小石川附属植物園を利用した実習も行います。

 BasicMolBio:現在、生物科学の各分野でさかんに用いられている分子生物学の技術は、大腸菌や酵母などの微生物を用いた分子遺伝学・分子生物学の発展によってもたらされたものです。この実習では、微生物を用いた分子遺伝学・分子生物学の基礎をしっかり学び、最新の技術を、原理を含めて習得することを目的としています。原理がわかれば、応用・展開もできます。新たな手法を編み出すことのできる研究者になってほしいと考えて企画しました。

 BioClassics:生物学の古典的な知見を知識としては知っていても、実際に体験したことのある人は少ないでしょう。写真や図だけを見て、わかったような気にさせられてはいないでしょうか。この実習では、講義で学んだ重要な生物学の実験を追体験し、それを現代の技術で展開します。イモリの卵の手術(オーガナイザー誘導)、アベナ(マカラスムギ)の屈曲テストなどを予定しています。

 BioImaging:顕微鏡技術の進歩は著しく、特殊な共焦点レーザー顕微鏡を使えばオルガネラにあるタンパク質分子などの動きを直接観察できます。この実習では、光学顕微鏡の基本原理を学び、それを基礎に蛍光顕微鏡、共焦点レーザー顕微鏡、走査電子顕微鏡、透過型電子顕微鏡を用いた最先端の可視化技術を体験します。これらを通して、「生物を視る」ことの重要性を体得してほしいと願っています。

 3年冬学期からは、さらに専門的かつ高度な講義や実習を行います。これに加えて、動物・植物学関係の臨海実習、植物学関係の富士山、日光、屋久島などで行う野外実習、人類学関係では、長野県地獄谷のニホンザルの観察実習、古人骨遺跡発掘実習なども行います。

 4年生の実習は、理学部2号館、臨海実験所、植物園の各研究室で行います。年間で2?4研究室に滞在し、各自の研究に着手します。

 演習、集中講義なども適宜行われます。

生物学科の研究・教育の特徴

 生物学科では、理学部生物学科、三崎の臨海実験所、小石川と日光の附属植物園の教員、約50名が教育を担当しています。学生定員20名に比べて教員の数は圧倒的に多く、徹底した少人数教育を可能にしています。

 教員は、ヒトを含む多様な生物の、分子から、個体、集団にいたる様々なレベルの生命現象に取り組んでいます。モデル生物を使う研究では、新たな視点や手法を導入し分野をリードしています。また、新しい生物現象の解析に適したモデル生物を新たに作り出すような研究、新分野を開拓する研究でも世界第一級の業績をあげています。これらの研究の成果は、理学としての基礎生物学の発展をもたらすばかりでなく、医学の発展や、食料危機や生物多様性の維持など、21世紀の人類に突きつけられた難問の解決にも大きく寄与しています。生物種としてのヒトを学ぶことを通して、人間を深く理解することにも繋がっています。詳しくは学科のホームページ(http://www.biol.s.u-tokyo.ac.jp/index.shtml)をご覧下さい。

 生物学科は、関東大震災級の地震にも耐えられるようにと1934年に建設された、風格ある理学部2号館を拠点としています。現在、新しいカリキュラムで学ぶみなさんを受け入れるべく、実習室と学生室を改装しています。ぜひ、改装なった生物学の新たな牙城で研鑽して下さい。

                    


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