教育学部の組織改革


教育学部長 金子元久

 教育学部はこれまで6コースの体制をとってきましが、今年(平成21年)の進学振り分けから、5コースの体制になることになりました。これは従来の学校教育コースの再編にかかわるものです。

 従来の「学校教育」コースは学校教育全体にかかわる多様な内容を含むものでした。それを整理して、教育実践・制度政策にかかわる部分を「教育政策学」コースと合併して「教育実践・政策学コース」とするとともに、教授・学習心理にかかわる部分を「教育心理学コース」に、そして教育理念・哲学に当たる部分を「基礎教育学」コースに統合することになりました。

 このように書くと、教育学部では、学部教育を細かい専門分野に分割することを目指しているかに見えるかもしれません。しかし我々の狙いはむしろ逆の方向にあります。学部でのコースの編成のしかたを整理したうえで、学部段階においては、「教育」にはじめからあまり細かい専門分野からアプローチするのではなく、むしろより幅広い視野から学んでもらう、という考えかたです。

 このような改革は、教員組織および大学院組織をふくむ、教育学部全体としての改組の一環です。現代社会の急速な変化の中で、人の成長や、学校の現場で、現実に新しいさまざまな問題が起こっています。教育問題、学力問題、そして様々な教育改革とそれが引き起こす混乱、「引きこもり」、大学教育のユニバーサル化。そうした現実の問題に、教育学部・教育学研究科は、真っ先に取り組むことを求められています。

 先端的な基礎研究を踏まえたうえで、現実の教育の問題に新しい角度からアプローチする。これを改革の軸として、大学院では2004年に「臨床心理学コース」、2005年に「大学経営・政策コース」、2006年度に「学校教育高度化専攻」を設置しました。東大の教育学部・教育学研究科は全国の大学の教育関係の学部や大学院の中で、もっとも大きく変化しつつある、ダイナミックな学部だといって過言ではありません。

 新しい教育学部・大学院教育学研究科の体制は図のようになります。この新しい体制の中では、学部教育の5つのコースはさらに教育学専修(基礎教育学コース)、教育社会科学専修(比較教育社会学コース、教育実践・政策学コース)、心身発達科学専修(教育心理学コース、身体教育学コース)の三つの「専修」に組み入れられることになっています。ただし進学振り分けは、五つのコースを単位として行われます。

 教育学部に進学する皆さんの多くは、将来は教育の専門家になるというよりは、むしろ社会にでてその力を試したいという人でしょう。そして教育学部はそうした人たちに、大きな意味のある教育をできると思っています。それは、「人間の成長」という観点から、人間や社会、自然を考えることが、大学で学ぶべき、広い意味での教養として、きわめて重要な役割を果たし得るからです。

 他方で、教育学部に進学する人の中には、将来、専門の研究者になろうとしている人もいると思います。そうした人にとっても、幅広い教育への視野をもってもらうのは大きな意味があります。同時に上述のように、教育学部の大学院は、教育の最先端の問題に応じて新しく再編されました。学部段階でそうした先端の動きに触れることも可能とすることも計画されています。

 このように教育学部は、学問としての課題と、学生への教育的な意味、の二つの視点から、自らを常により良いものに変え続けていこうと努力しています。こうした活動のなかに、教養学部の皆さんが参加されることを願っています。