58回目の進学振分け

進学情報センター 里見大作

 「平成20年度第一段階進学振分け志望集計表」を眺めています。集計表には法学部、経済学部、文学部そして教育学部とまず文系の学部のデータが並んでいます。その中で「今年の人気はどうかな」と最初に目をやるのは文学部言語文化学科のフランス語フランス文学専修課程です。ぼくが進学情報センター担当になった最初の年、上記専修の文科3類からの志望者数が第一段階の定数さえも下回っていたので「なぜ?」と不思議に思ったのがきっかけです。それまでは文科3類には文学青年が多くいて人間を探求する学問としてフランス文学は人気があるんだろうなと漠然と想像していました。

 昭和24年5月31日に新制東京大学が発足、その年に入学した人達(定員1800名)の進学振分けは昭和25年に行われました。それから数えて今年は58回目にあたります。表紙には6回目「昭和31年度進学状況調べ」の一部を載せました。今から約半世紀前の進学状況です。ちょっと見てみましょう。文学部仏文とあるのが現在のフランス語フランス文学専修課程にあたります。定数(収容予定数)が35名、進学決定は38名、余談ですがこの内の一人にノーベル賞作家大江健三郎がいます。大江は仏文の学生の時(昭和33年)に「飼育」により芥川賞を受賞しています。ちなみに仏文の定数が35名時代で志望者が最も多かったのは昭和28年度の67名です。定数はその後30名、25名と減少しました。定数が30名となった昭和53年度以降、志望集計時に志望者数が定数を超えたことはありません。そして今年からは定数は22名となり志望者数は文科3類から3名、全科類枠で進学を希望している理科2類から1名の4名です。ぼくにはフランス文学は学ぶに値する学問と思うのですがなぜ人気がないのでしょう。

 ところでこの表によると文学部は独文から2名、心理から1名そして教育学部内定者からは3名が医学部に入学しています。これはY組といって進学振分け時に「医学科」以外に内定しておき2年生の3月に医学科の選抜試験(この頃は医学科には進学振分けがありませんでした)を受けそれに合格した学生です。Y組の定数は約20名でした。

 もう少し文学関連のことを話してみます。4月27日に開催された進学情報センター主催シンポジウム「私はどのようにして専門分野を決めたか」で文学部の塚本昌則先生(フランス文学)は「文学は没落するか」との演題で話してくださいました。文学の人気がなくなったのはなぜかといった話題なのかなと思いながら先生の話を聞き始めたのですが勿論そんな話ではなく「現在の文学は一度没落することにより新たな文学に生まれ変わることができる」との壮大な内容のお話しでした。ぼくにはよく分からないところもありましたが「人間は決して書くことをやめないだろう」との話にはなるほどと納得しました。先生の講演はDVDに録画してあり、進学情報センターで視聴することができます。文学は人間研究の学問です。かなり長い間、人気のない状態が続いていますが「ヒトはヒトに関心を持つ動物です」文学への人気はいったん没落を経た後、再び盛り返すのではないかと予想しています。

 今回の進学振分けから全科類枠が導入され、これまで不可能だった文科各類から理系の後期課程への進学が可能になりました。しかし第一段階の志望集計表を見てみると文科各類から全科類枠で理学部あるいは薬学部への進学志望者はいません。進学情報センター担当者としては何人か志望者がいてほしいなと思っていたのでちょっと残念な気持ちです。現在の1年生の中には何となく文系の科類に入学したけれど、入学後理系の学問に興味がわいてきたという人がいると思います。そんな人は是非、要求科目等の履修計画をしっかり立てて来年度の進学振分けで全科類枠による進学を考えてみてください。

 話題を変えます。進学情報センターに相談に訪れた2年生の何人かから「今年度の進学振分けに使われる単純平均点、昨年度よりも低くなったのではないですか」との質問を受けました。そんなことはないんじゃないかなと思いつつも、そういえば今年の2年生からは新カリキュラムに変わりそれが何か単純平均点や成績分布に影響を与えているかもしれないなと思い直し、昨年の同時期のものと比較してみました。その結果、文科1類から理科3類まですべての科類で単純平均点が下がっていること、そしてその下がり方は文系よりも理系の方が大きいことが分かりました。同じ傾向がより顕著に総合科目の平均点についても見られました。何か原因があるはずです。ぼくは二つの大きな原因があるのではないかと推測しています。一つは基礎科目外国語の1コマが1単位から2単位に変更になったことです。この変更で単純平均点に及ぼす外国語の比重が大きくなりました。多くの皆さんの外国語の平均点はその他の基礎科目あるいは総合科目の平均点と比べて低い傾向にあります。もう一つは総合科目の履修のしかたに関連しているのではないでしょうか。総合科目は昨年度までは「系条件による成績上位18単位を算入」だったのが「系条件による成績上位16単位を重率1で算入、それを超えた科目については重率0.1で算入」に変更になりました。この変更で総合科目を沢山履修すると単純平均点が下がるのではと考え履修に慎重になりすぎている人がかなりいるのではないでしょうか。その為2学期までには系条件による16単位を履修できず2単位ないしは4単位程度が未履修で残りそれが零点で平均点に算入され平均点を下げているケースが多いのではないかと推測しています。理科各類の総合科目の平均点が文科各類よりも大きく下がった原因として新カリキュラムでは理科生の場合1・2学期で履修しなければならない基礎科目が増えたことがあるのかもしれません。理科1類の場合、これまで総合科目だった「数学演習」、「熱力学」それに「生命科学」が基礎科目に加わりました。その為、1・2学期中に総合科目の16単位履修まで手が回らなかった人が多いのかなと推測していますがどうでしょうか。

 これから2学期の履修を考えている1年生には総合科目は自分の興味に従ってどんどん履修することを勧めます。先に示した平均点算出のルール「系条件による成績上位16単位を重率1で算入、それを超えた科目については重率0.1で算入」の主な目的は総合科目の場合これまでは履修届を出したのに試験を受けない人が多かったのでそれを防ぐことにあります。このルールが導入され受験率は飛躍的に高まりました。ところで重率0.1という数字は平均点にはほとんど影響を与えません。一度自分で計算してみてください。そんなことを気にするよりも興味が持てそうな総合科目の講義に出会ったら是非積極的に履修してください。そして試験を受けてください。そうすることによって自分の知らなかった学問分野に出会うチャンスが生まれます。現在の2年生も4学期に総合科目を履修する機会が残されています。今度は成績を気にする必要はありません。時間割に余裕があればいくつかの総合科目を履修することを勧めます。

 9月12日に第一段階の進学内定者の発表がありました。内定した人はほっとしたことでしょう。第一段階で内定せず第二段階にまわった人は進学情報センターに来て第一志望、第二志望そして第三志望にしている学部・学科等の成績分布表などを見てください。かなり正確にどの学部・学科等に内定が可能かが判断できるはずです。そして必要なら志望変更をしてください。中には9月12日の時点で残念ながら進学振分けの対象から外れ降年が決まった人もいると思います。第二段階での志望に不安がある人、降年が決まりがっかりしている人、相談があれば進学情報センターを訪ねてください。また、9月28日の第二段階進学内定者発表でも内定しなかった場合には再志望のチャンスがあることも忘れないでください。ところで進学が内定した人、これからの人、降年が決まった人それに1年生、誰にとっても冬学期が始まるまでの秋休み、貴重な時間です。しっかり考えて大切に使ってください。ぼくが学生だった頃(40年以上も前ですが)にも秋休みがありました。その頃は夏休みが終わってから夏学期の試験、その後に20日間ほどの秋休みがありました。秋休みは学校にとっては進学振分けのための事務作業の期間だったわけですが、ぼくにとっては試験が終わりほっとした気分、そして秋のさわやかな気候、何となくゆったりと過ごせる楽しいお休みでした。

 10月に入ると2年生は4学期、前期課程最後の学期ですが講義の大部分は進学内定先のものとなり実質的に後期課程が始まります。この時期に進学情報センターを訪れる2年生から「第一段階で希望の進学先に内定したのだけれど、4学期の授業を受け始めてどうも自分には向いていないのではないかと思うようになった。どうしたらいいでしょうか」といった相談を受けることがあります。後期課程の先生方の授業の進め方に最初の内うまくなじめない事があります。ぼくは「十の内一つか二つ分かることがあればそのうちだんだん調子が出てきますよ」と励ますことにしています。でも、やはり自分には不向きだと思ってしまった場合はどうしたらいいのでしょう。その場合は二つの選択肢があります。一つはそうは言っても自分が望んで決めた進学先です。とりあえず進学し、もう少し自分の適性を見極め、それでも向いていないと判断した場合には転学部・転学科を考える方法です。もう一つは今年度から取り入れられた「内定辞退届」を提出して留年、もう一度進学振分けに臨むやり方です。ほかにも進学内定先についていろいろ悩むことがあるかもしれません。そんな時は進学情報センターを訪ねてください。ひょっとしたら皆さんが気付いていない視点からのアドバイスができるかもしれません。


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