今年の進学振分け

進学情報センター 里見大作

 進学振分けの制度が変わりました。第一段階進学振分け志望集計(第一次)発表があったこの時期、自分は希望している後期課程の学部・学科等に進学できるかなと不安を感じている人も多いと思います。そんな人のために進学情報センター担当者として気付いたことを少しばかり話してみます。

 今回の変更の眼目は「進学振分けの柔軟性を増す」ことにあります。具体的にいえば、例えば今までは不可能だった文科各類からの薬学部への進学が要求科目4単位を3学期までに取得すれば全科類枠(定数8名)により可能になりました。高校時代、まわりの友人に引きずられて何となく文系の科類に入学したけれど前期課程の総合科目E系列で生命科学関連の授業を聴いたことがきっかけで生命のしくみに興味を持ち、現在は治療が困難とされている病気に対する薬を将来自分の手で作り出したいと思うようになった人などには好都合な進学枠です。あるいは自分は小さい頃、星を見るのが好きだった。受験勉強などでそのことをすっかり忘れていたが大学に入学して改めてそのことを思い出した。今までうっかりしていたけれど理学部には天文学科があり好きな星のこと宇宙のことを専門に学ぶことができるんだと気づいた文系の人も全科類枠(定数、第一段階2名、第二段階2名)で進学する道ができました。人気の医学部医学科にも全科類枠(定数3名)が導入されました。文系からの進学のための要求科目は基礎科目(生命科学)2単位です。ぼくは何時、最初の文系から医学科への進学者がでるか関心を持って見ています。

 理科各類から文系の後期課程への進学はこれまでも可能でした。しかしそれは文学部の例では「定数外で内定させる」といったルールで理科各類からの志望者を少し不安な気持ちにさせるものでした。しかし、今年度の文学部27専修の第一段階での定数の割り振りを見ると社会心理学と社会学はいずれも理科から4名の定数、それ以外の25の専修では1名から4名の全科類枠が用意されています。進学情報センターで見ることのできる各専修ごとの志望者の成績分布表と自分の成績を見比べることにより進学内定の可能性が今まで以上にはっきり分かるようになりました。同様のことは教育学部への進学を希望している理科生にも当てはまります。

 今回の変更のもう一つは指定科類枠に関するものです。これまでは成績が進学振分けの対象となる条件を満たしていれば文科1類から法学部、文科2類から経済学部そして理科3類から医学部医学科へは志望すれば第一段階・第二段階にかかわらず必ず進学できたのですが、今回からは第一段階・第二段階にそれぞれに定数が設けられ進学志望者がそれを上回ると進学が内定しない人がでるルールに変わりました。文科2類の人が一番関係する経済学部を例に取ってみます。全科類枠が第一段階42名、第二段階18名、合計60名、そして指定科類枠は第一段階189名、第二段階81名、合計270名です。文科2類の入学定員は365名、大部分の人が経済学部を志望した場合には志望通りにならない人がでる可能性があります。このことが現在文科2類の人の心配の種になっているようです。進学情報センターへも相談に来る人がいます。ぼくはこんなふうに答えています。「経済学部への進学が希望なら、成績の善し悪しに関わらず進学志望登録では第一段階そして第二段階の第一志望に経済学部を登録するのがいいですよ。そして仮に9月12日の第一段階進学内定発表で内定しなかった場合は進学情報センターを訪ね第二段階の経済学部志望者の成績分布表をしっかり見てください。自分の成績が指定科類枠の81番目あるいは全科類枠の18番目以内であれば進学が内定する可能性が高いといえます。それ以下の成績だったとしても第二段階の第二志望の学科等が第一志望で定数を超えないと予想されるなら志望変更する必要はないでしょう。慎重に考えなくてはいけないのは経済学部への進学内定が難しくしかも第二志望に考えている学科等が第一志望で定数が埋まってしまうと予想される場合です。その場合は第一志望を経済学部から第二志望に考えている学科等に変更することを考えてみてください」。 経済学部を志望している人を例にとって話しましたが同じことはほとんどの学部・学科等の場合にも当てはまります。それともう一つ注意しておいてほしいのは第二段階では多くの学部・学科等が定数を超えて内定者を出していることです。具体的な例はこれまでの第二段階進学内定者数が載っている「進学情報センターニュース」(第46号など)あるいは進学情報センターのコンピューターで過去のデータを見てください。

 次は平成17年度以前に入学した人への注意です。文科1類から法学部、文科2類から経済学部そして理科3類から医学部医学科を第一段階で志望すれば進学振分けの対象となる条件を満たしていれば成績の如何に関わらず必ず進学が内定します。ただしこれは第一段階のみでの措置で第二段階ではこの措置はとられません。平成17年度以前の入学者はこの点、誤解のないようにしてください。

 進学希望者全員への注意です。まず現在教務課で配布されている「平成20年度進学振分けの手引き」で自分に関係ある部分をしっかり読んでください。今回の変更は進学する皆さんにとってプラスになる変更であることは間違いありませんが全科類枠の導入などで各学部の「進学者受入予定表」、教務課が発表する「進学振分け志望集計表」の記載が今までのものより複雑になりました。受入予定表や志望集計表などで不明な点があれば教務課の窓口あるいは進学情報センターの相談室を訪ねてください。皆さんの質問に正確に答える準備をして待っています。

 今年の進学振分けは昭和25年に行われた第1回から数えて58回目、長い歴史があります。なぜこんな制度が東京大学で採用されてきたのでしょう。実はこの制度のもとは教養学部の前身である旧制第一高等学校にあります。一高は全寮制、クラスは理科甲類、乙類、文科甲類、乙類といった具合に分かれていました。現在の教養学部前期課程の科類分けとよく似ていますね。よく似ているというより実際は教養学部が一高のクラス分けを踏襲したのだと思われます。一高での授業は幅広い教養を身につける場に、また寮生活は親密な人間関係を築く場になっていました。3年間の高校生活の後、各自は自分の興味と適性を考えそれにかなった大学の学部・学科に進学していきました。この一高から大学へ進む節目がほぼ現在の進学振分けにあたります。この節目でいろいろ迷った人を二人紹介します。

 一人目は小柴昌俊さんです。小柴さんは昭和20年理科甲類に入学、もともと物理は好きだったのですがいろんな事情で一高での物理の成績がふるわず一度はドイツ文学に進もうと考えたこともあったようです。しかし大学の入学試験直前にもう一度考え直し友人の助けを借りて物理を猛勉強、東京大学の物理学科に入学しました。二人目は夏目漱石です。漱石は明治17年一高の前身である大学予備門に入学、3年生になる時、専門を決める必要があり数学など理系の科目が得意だったので飯の食いはぐれがなさそうな建築学科に一度は進学を決めたそうです。けれども友人の強い勧めがあって結局は英文学に進むことにしたのだそうです。それぞれ今から約60年前あるいは120年前のことですが小柴さんそして漱石が自分の進路について迷いそして決断したのは年齢的にもちょうど今進学振分けに臨んでいる皆さんと同じ年頃です。是非皆さんも思いきり迷ってください。そして自分の進路を決めてください。進学情報センターニュース46号に基礎科学科の酒井邦嘉先生が先輩の立場から書いてくださった「進学の決定論」を読んでみてください。進学先を考える際のよい参考になると思います。

 最後に一言、当たり前のことですが人気学科を志望している人は3学期の試験に十分実力を発揮し、悔いを残さないようにしてください。それでも毎年進学振分けでは、第一志望の学部・学科等には内定せず第二志望、第三志望あるいは再志望で進学が内定する人がでます。これは止むを得ないことです。希望通りに行かなかった場合はとりあえずがっかりしてください。そして次にこれを自分の別の可能性を見つけるチャンスと考えてみてはどうでしょうか。進学振分けに不安はつきものです。相談があればいつでも1号館2階の進学情報センターを訪ねてください。


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