学科紹介

理学部地学科(地質学鉱物学、地理学)

http://www.eps.s.u-tokyo.ac.jp/jp/gakubu

2002年度地学科教務委員連絡先:hiroko@eps.s.u-tokyo.ac.jp

理学部地学科 永原裕子

1.地学科の概要

理学部地学科は、この地球を含む太陽系が約45億年前に誕生してから現在までどのように進化してきたのか、そこに生きる生命がどのように誕生しどのように進化してきたのか、そして特に、地球と生命は環境を介してどのようにかかわってきたのか、ということを学ぶための学科です。

地球は太陽系の初期に誕生し、その過程で生命をはぐくみ、いまなお進化を続けています。物理的な変化、化学変化、それと生物活動が相互作用をしつつ、長い時間をかけて進化する、という複雑な系です。宇宙と生命の起源と進化は古代より人間のもつもっとも根幹的な疑問です。地学科ではまさにこの根元的問題の解明にとりくんでいるのです。学んだ知識や理解は、地球表層の大気や海洋の環境、火山、地震、地滑りといった人間にとっての重要な問題に応用され、社会に役だってゆきます。

地学科は地質学鉱物学コースと地理学コースの2つのコースからなります。地質学鉱物学コースと地理学コースの違いは、主として対象とする時間スケールにあり、地球史全体の45億年、地球が人間の活動とは直接関係なく進化をとげてきた時間を対象とするのが地質学鉱物学コース、氷河期以降のごく最近、人間活動と自然の営みが強く結びついている時間を対象としているのが地理学コースです。ただし学問体系や教育体系、研究手法には共通点が多く、学部授業のかなりの部分が共通となっています。

2.地学科で学ぶこと

地学科の大きな特徴は、地球と生命の進化を実証的に解明しようというところにあります。そのため、野外で実際に地質や地形の調査をおこない、岩石や化石を採集します。その結果から古い時代の地球表層の構成を復元したり、採取してきた岩石の形成された条件を推定したり、その化石が生物として生きていた陸や海の環境を復元したりします。ただし、このようにして得られる情報は断片的ですので、それを補うため、理論的な考察をおこないます。天然から得られた情報と、理論的に考察したことを比較し、地球と生命の進化を理解してゆきます。

地球と生命の起源と進化を理解するためには、秒という時間から45億年という広い時間スケール、原子から太陽系までの広い空間スケールを対象としなくてはなりません。そのため、観測する手段も実験の手段も様々です。ハンマーをもって地質調査をしたり、化石の中から過去の生物のDNAを抽出したり、電子顕微鏡で鉱物中の原子の並びを観察したり、コンピュータにより地球内部の大規模な対流をシュミレーションしたり、あらゆる手段を駆使し、これらの研究を進めています。

地学科においてなされている研究はおおまかに以下の5つの分野にわけることができます。

(1)太陽系や惑星の進化を理解するため、隕石を調べ、太陽系星雲の物理化学条件を求め、その進化を探ること、地球とほかの惑星を比較することで、惑星の違いをもたらした原因を太陽系進化のストーリーの中に見いだすこと。(2)地球表層のプレートのダイナミックな動きを過去にさかのぼって復元したり、プレートの動きや火山活動の原因やメカニズムを理解すること。(3)地球や惑星を構成する物質である鉱物の原子の配列状況からその鉱物のおかれていた条件を推測したり、化学反応の根本的なプロセスである結晶内の原子の動きを理解すること。(4)化石となった過去の生物を調べることで、いつの時代にどのような生物がどのような進化を遂げたのか、繁栄や絶滅の原因は何か、生命活動と環境はどのようにからんでいたのかを解明すること。(5)地球表層は生命の起源や進化にもっとも密接にかかわり、また、現在の環境問題にも密接にかかわっているところです。堆積物から、過去の海洋や大気の環境を推定したり、現在により近い時代の環境変動については、そのタイムスケール、メカニズムをきわめて詳細に推定します。また、現在の地球表層環境について、地理や気候など地域的な特徴にまで踏み込んだ理解すること。グローバルな変化の中で、ローカルな環境の変化がどのような仕組みでおきているかを現在の地球で理解することで、過去や未来の地球のそれを推測することが可能となるのです。

3.地学科のカリキュラム

地学科のカリキュラムは、5つのグループからなる科目群により構成されています。基礎的な知識や学問の大系を学ぶもの、数理的な力を養うもの、室内における実験や実習など観察能力や処理能力を養うもの、野外において調査や観察をおこなう能力をやしなうもの、総合的な力を養うもの、です。

駒場4学期の6つの必修科目は、地球や惑星の概括的な知識を得、数理的な能力を養うことが目的です。地質学鉱物学コースと地理学コースの区別はありません。

本郷に進学したのち、地質学鉱物学コースと地理学コースとは異なる時間割表にしたがい教育をうけます。どちらのコースとも必修科目は実習、演習、調査などです。特に、年間に2,3回の1週間程度の長い野外調査や巡検が含まれています。行き先は年によって異なり、国内の場合は北海道から沖縄まで、外国にゆくこともあります。

4年次になる前に、地球科学特別研究(いわゆる卒業論文研究)の指導をうける教官を選択します。地質学鉱物学コースの場合は、指導教官が主催するセミナーに出席し、教官や大学院生とともに、研究発表をおこなったり、他の人の発表をきいて専門の議論をする訓練をおこないます。4年夏学期は、授業をうけつつ、卒業研究の準備として地球科学特別演習を指導教官のもとにおこないます。これは主として論文購読を通じて、卒業論文のテーマとしようとすることの意義、その分野の到達点、関連する知識などを習得するためのものです。地理学コースでは、同じように卒業論文研究を特定の指導教官のもとにおこないますが、地理学特別演習は4年生がまとまって演習形式の授業としておこないます。

4年生の冬学期はほとんどすべての時間を使って卒業研究に取り組みます。みなさんはここではじめて、自分自身の研究テーマをもち、主体的に調査や研究をおこない、その結果を論文としてまとめあげ、最後は発表会において専門分野以外の人にプレゼンテーションする、という訓練をおこないます。卒業研究の経験は、大学院に進学するにしても、卒業後直接社会にでて働くにしても、とても貴重な体験となります。

4.卒業後の進路

最近10年間をみると、地質学鉱物学コースの約9割、地理学コースの約5割の卒業生は大学院に進学しています。地質学鉱物学コースの卒業生の大部分は、理学系研究科地球惑星科学専攻に進学します。地球惑星科学専攻は、地学科と地球物理学科のほか、学内の関連する研究所(海洋研究所、地震研究所、気候システムセンター、物性研究所など)や国の研究機関(宇宙科学研究所)などの教官からなり、地球や太陽系のことに関するより広範囲な分野の研究をおこなっています。地理学コースの卒業生が進学するのは、約半分は地球惑星科学専攻ですが、約半分は新領域創生研究科環境学専攻です。

卒業後就職する場合の進路は、公務員(産業技術総合研究所、国土交通省気象庁、国土地理院など)、関連民間会社(石油、ガラス、金属、セラミックなど)、そのほかの民間会社(コンピュータ、金融、マスコミ報道、出版など)と多岐にわたっています。

地球と生命の起源と進化に興味をもつなら、ぜひ本郷キャンパス、理学部5号館をたずねてみてください。教官でも、学生でも、院生でも、研究室をたずねて、実際どのように研究や教育がおこなわれているかを、あなた自身の目でたしかめてください。


agc@park.itc.u-tokyo.ac.jp