学科紹介

理学部生物学科(動物学、植物学、人類学)

( http://www.biol.s.u-tokyo.ac.jp )

    生物学科長 木村 賛

1.理学部生物学科並びに大学院生物科学専攻

 理学部生物学科は学部教育を動物学課程、植物学課程、人類学課程の3課程に分けて行っている。これは各専門分野の対象、特徴が異なることによる。この関係で教養学部からの進学振分けも、生物学科志望の枠内で3課程別個に行っている。しかし、生物学科の授業には学科共通科目を設定してあり、広い生物学全般を学ぶ姿勢を望みたい。授業の大半は本郷キャンパス理学部2号館で行われる。

 生物学は現在先端の学問として脚光を浴びているが、同時に我々人間存在の基礎であるために歴史の古い分野でもある。生物共通の進化、適応、社会性、変異、遺伝、遺伝子情報、蛋白質合成などの原則を追及するとともに、生物種、個体のもつ個別性をも考えねばならない。このような広い分野に対応した研究教育体制として、大学院においては動物科学、植物科学、人類科学、広域理学、進化多様性生物学の基幹講座に属する教官の他に、分子細胞生物学研究所、海洋研究所、総合研究博物館、アイソトープ総合センター、総合文化研究科、新領域創成科学研究科、農学生命科学研究科、など東京大学内の兼担教官と、国立科学博物館および全国の国公私立大学等からの併任、客員教官を含む理学系研究科生物科学専攻をつくっている。この陣容により、生物学における普遍性と個別性の双方を追及しながら、共通の原理に基づいているにもかかわらず多様な生物の本質にせまるべく努力をしている。

 各課程の紹介は次に記す。授業や研究室の紹介についてさらに詳しいことを知りたいときは、表記のホームページや、生物学科・生物科学専攻で編集している「授業・研究室概要」を参照してほしい。理学部2号館を訪ねることも勧める。

2.動物学課程

                  動物科学大講座 朴 民根

 現在、生命現象に関連した研究は非常に広い学問領域にわたっており、東京大学の学部レベルの教育も、理学部の生物学科、生物化学科のほかに、医学部、農学部、薬学部、さらには工学部や教養学部において広く行われている。そして、今の生命科学では、多くの場合、分子生物学の方法を使った研究が中心になっており、われわれ生物学科、特に動物学課程における研究との区別が難しくなりつつある。そこで、理学部生物学科動物学課程の、他と異なる特色を説明すると、以下のとおりである。

 最も重要なこととして、生物学科動物学課程では生物の現象そのものを教育・研究の出発点として、現象を直接観察することを重視していることが挙げられる。生命現象を巧妙に、詳しく解析するということはもちろん重要であるが、なによりも現象をまず自分で不思議がること、それが研究の最も重要な出発点であると思っているわけである。そのために、動物学課程では、臨海実習をはじめとする実習科目を必須科目として設定し、多くの生物に直接触れる体験を中心にした教育を展開している。この過程で、各自が本当に不思議だと思う(興味をもてる)現象を、自らの力で見つけてもらいたいと願っている。他方、当然ではあるが、実習では生命現象を分子レベルで解明するための最新の分子生物学の研究手法も豊富に取り入れ、その理解に必要な教育も十分に行っている。つまり、動物学課程の教育目標は「現象からその解析まで」を通して教育するというところにある。

 動物学課程の教官は主に本郷キャンパス理学部2号館の動物学教室内で、分子生理学、分子発生学、内分泌学、細胞生理化学、分子生物学という5つの研究室に所属して研究を行っている。4年生になると、各学生はこれらの研究室の一つに配属され、特別実習を行う。約8カ月間、各研究室の研究雰囲気の中で、個別の生命現象を対象として研究を行う体験をもつことになる。卒業後、ほとんどの学生は、生物科学専攻あるいはその他の大学院に進むが、まれに医学部へ進入学したり、公務員に就職する学生もいる。

3. 植物学課程

                     植物科学大講座 西田 生郎

 植物を対象とした生物科学は、バクテリアや酵母、微細藻類を用いた基本的な生命現象の解明に始まり、高等植物の形態形成や環境への応答といった個体レベルでの問題、さらには、個体あるいは種の間の相互関係・保全といったように、その研究領域はきわめて広範囲にわたる。また、食糧危機への対応や悪化する地球環境を認識した上での生物多様性の維持等、21世紀に人類に課せられた多様な問題への対処を考える上での基礎的な知識を与えるものとして、その重要性がますます増加している。植物科学大講座は、このような植物科学を専門とする研究者を育成するための大学院教育を行っているとともに、常に世界をリードする研究を発信している。

 本専攻で取り扱う分野は広範囲であるため、大学院進学までに生命科学の基礎的な知識、ものの見方、考え方をしっかりと身につけておくことが大切である。特に、物理学や化学の基礎知識はものごとを論理的に考えたり、分析したりするのに役に立つので、よく勉強してほしい。また、将来にわたって国際語としての英語は重要であり、できるだけチャンスを作って自分のものにしてほしい。

 本専攻に進学するためには、理学部生物学科に進学するのが一般的である。理学部生物学科・植物学課程の学生定員は現在8名であるが、教育態勢に余裕があるので、最終的には約15名の進学を受け入れることが可能であるまた、植物科学大講座の定員は、他大学からの入学を含めて約25名であるので、他学部に進学し、大学院から本専攻に進学することも可能である。

 植物科学関連の研究分野としては、理学部生物学科(植物学課程)の担当教官の他に、分子細胞生物学研究所、海洋研究所、総合文化研究科、総合研究博物館、遺伝子実験施設、新領域創生科学研究科等の教官が兼務担当する。大学院修士課程修了後の進路は、半分が就職、半分が博士課程への進学である。平成12年度の博士課程修了者は、15名であったが、そのうち、学術振興会特別研究員6名、国内のポスドク7名、国外のポスドク2名であり、博士進学者はたいてい研究職に就いている。

4. 皆さんが拓く21世紀の人類学

                 人類科学大講座 石田 貴文

 人類学が理学部に属しているのを奇異に思いませんか? 現に、皆さんのいる駒場の教養学部には文化人類学研究室があります。しかし、本当に人類を理解しようとするならば、文系だとか、理系だとがにこだわらず、総合的アプローチをしなくては理解は及ばないと思いませんか?本来、人類学とは、ヒトにかかわる、生物学・心理学・社会学・医科学等々を包含した総合科学のはずなのです。現在、学問の世界がそういう態勢になっていないので、ヒトの生物学的特性を探ることを生業とする私たちは、理学部生物学科で教育と研究に携わっているのです。このことは、未知の人類学研究領域が皆さんを待っていると言うことでもあるのです。

 通称、理学部・人類では、進化、変異、あるいは適応などの観点から、人類とその生活を対象として研究をおこなっています。簡単に言えば、過去の人類の進化の足跡を辿り、現在の人類の特性を明らかにし、近縁の生物との異同を探るということです。そのためには、化石を探し・骨を掘り、機能と形態あるいは情報伝達の数理解析、細胞を分離し遺伝子を解析するといった具合に、博物学から現代生命科学に至る幅広い研究分野を対象としています。ヒトのゲノムの大筋が解明されたように、手探りだった人類の特性の青写真も直接研究できるようになりました。20世紀後半に飛躍的に進展したコンピュータテクノロジーとDNAテクノロジーの上に、今、21世紀の人類学は立ち、新たな展開が期待されています。皆さんが一人前の研究者になるころ、人類学がどのような展開をしているか、1つ確かなのは、それは今後の皆さんの英知にかかっているということだけです。

 前期課程の学生の皆さんは、理学部の進学ガイダンス(学科概要)や生物学科・生物科学専攻の授業・研究室概要を手にし理学部・人類の横顔を垣間見る機会があるでしょう。でも、限られた紙面や媒体を通しては、我々の伝えたい情報も100%伝わりません。この、理学部・人類に興味を持ったら、見ると聞くとは大違い(?)かどか、是非、現場を見に来ることをすすめます。自分の将来を決めるのに逡巡してはいけません。