部門紹介
応用物理部門
物理工学科
(http://www.ap.t.u-tokyo.ac.jp)
計数工学科
(http://www.keisu.t.u-tokyo.ac.jp)
 
1. 激動の時代にこそ強い「応用物理部門」

計数工学科教授 杉原 厚吉

 
 世の中は,歴史上かつてないスピードで変化しつつある.インターネットの上に築かれる新しい社会の可能性や,DNAの解読結果の医療への応用の可能性をはじめとして,この変化を推進している原動力が科学技術であることは言うまでもない.このような激変の時代に科学技術の分野へ進もうとする者にとって,何を学ぶべきかを選択することは難しい.なぜなら,社会で必要とされる知識も,世の中の変化とともに急激に変わるからであ
る.ある時期に最先端だと思われた知識も,次の時期にはあっと言う間に古くなってしまう.
 こんな時代に大切なのは,基礎をおろそかにしないことである.基礎がしっかり身についていれば,世の中がどのように変わろうと,その変化に対応して自分も変えていくことができる.したがって,目先の“最先端”の話題にまどわされることなく基本をしっかり学ぶことが今まで以上に要求されているのが,今の世の中だと言えよう.
 工学部の物理工学科と計数工学科は,応用物理部門というグループを形成し,数学と物理学に基づいた工学の基礎を一体となって教育することを使命としている.もともと,数学と物理学は,工学の各分野を横断的に支える基礎科学として,互いに密接な関係を保ちながら発達してきた.既存の工学諸分野の発展に数学や物理学の考え方が必要とされているばかりでなく,新しい工学の分野をも次々と生み出してきている.たとえば新しいコンピュータの原理として期待されている量子計算の理論と実験が,量子力学の知見の上に築かれようとしているし,複雑な現代の経済活動を支える数理ファイナンス技術が,確率論などの数学の上に築かれようとしている.このように新しい時代を画する技術は,しっかりした数学と物理学の基礎から生まれる.この基礎を身につけ,世の中の変化に柔軟に対応できる人材を養成しようとするのが応用物理部門である. 
 応用物理部門は約50年の歴史をもち,すでに3,500人以上の卒業生が巣立っている.彼等は,工学の多様な分野で幅広く活躍し,総合的視野と判断力をもった新しい技術者・研究者として,技術革新の中核を担いつつある.
 
2. 新しい学問、産業の創生を目指す「物理工学科」

物理工学科教授 永長 直人

 
 未曽有の産業、社会構造の変革期を迎えている今日の世界で最も求められているのは既存の分野に捕らわれることなく、新しい学問分野や産業を創出できる人材である。”応用”物理とは物理学を工学に応用するといった狭い意味ではなく、未知の対象にアプローチする方法論の体系としての数学や物理学の考え方をしっかりと学び、科学技術の最先端を先導することを意味する。歴史を紐解いても、DNAの発見は物理学者の手によるものであるし、今日のIT革命の最前線を切り拓いたのも物理学者なのである。
 このような学科の理念に対応して、その歴史を見ても多くの先駆的な仕事がなされてきた。古くはわが国で最初に量子力学を導入したり、スーパーコンピューターの開発の先陣を切ったりしたのは物理工学科の教官であるし、最近では高温超伝導研究の世界的メッカとなり、原子波干渉を実証したり、X線トポグラフィーの開発などその業績は多彩な分野に亙っている。現在の研究分野も量子コンピューターをはじめとする量子情報技術、高分子、液晶、生体分子などの構造と性質の制御、レーザー光による物質の制御、半導体を超えた電子素子の開発など現代科学技術の最先端分野をカバーしている。この研究は文部省(現文部科学省)の中核的拠点形成プログラムとして強力に推進され、その成果として平成14年4月に量子相エレクトロニクス研究センターが発足し、国際的な研究拠点としてスタートした。
 このような仕事を可能ならしめるために、物理工学科では2年の冬(4学期)から4年の卒業までの5学期にわたる有機的、体系的な6本の柱からなるカリキュラムを用意している。 あらゆる科学の基礎となる微積分や複素関数論などを学ぶ”基礎数学”、量子力学、統計力学、電磁気学、固体物理、物理実験学、、レーザーなどの光学・量子エレクトロニクス、プラズマ物理、高分子や液晶等のソフトマター物理学などを学ぶ”基礎物理学・先端物理学”、実際に問題を解いて力を鍛える”数学及び物理学基礎演習”、実験技術から結果の解析、理論的解釈までを体験する”応用物理学・応用数理学”、英語の文献を読解する力を養う”輪講”、そして”卒業研究”である。そして物理工学科の最大の特長はきめこまかい指導と教官と学生の間の親密な交流である。担任制を導入し、学業や学生生活の相談に応じるとともに卒業研究では各研究室に配属され大学院生と一緒に第一線
の研究に参加することで新しいものを作り出すということがどんな作業であるかを肌で体験する機会を得ることができる。また優秀な卒業研究には”優秀卒業論文賞”が与えられる。実際卒業研究は野心的なテーマが選ばれることが多く、その成果はNature や Science, Physical Review Letters誌のような世界的な学術雑誌に掲載されることもしばしばである。
 卒業後の進路については、学部卒では大学院進学が最も多いが、その最終進路としては大学・官公庁研究所、電機、機械、化学、電力、通信、商社、金融、商社、ソフト、など広い分野に広がっている。長年の経験を生かして整備された強力な就職指導制度を提供しており、60社以上参加の企業説明会を開き企業見学、先輩面談および就職相談などを実施している。卒業生は同窓会等を通じて産官学をカバーする強力なネットワークを形成しており、特に応用、基礎理学的双方の学術分野でその活躍が国際的にも高く評価されている。
 
3. 深い基礎の上に未踏領域を拓く「計数工学科」

計数工学科教授 杉原 厚吉

 
 計数工学科は,数理情報工学コースとシステム情報工学コースの二つのコースから成る.数理情報工学コースは,数理により重点をおき,システム情報工学コースは物理学により重点をおきながら,両コースとも,特定の産業分野や専門にとらわれることなく,情報を中心とする工学の一般的方法を独自の視点から学ぶことを主眼としている.
 東京大学には,本年4月から情報理工学系研究科が創設され,情報に関する理工学の教育と研究を大学院のレベルで広く受け持つ体制が整ったが,その中の数理情報学専攻とシステム情報学専攻に属す教官が,それぞれのコースの教育を主に受けもっている.そのほかにも数年前に設置された新領域創成科学研究科複雑理工学専攻と情報学環の教官の一部も両コースの教育を受け持っている.
 数理情報工学コースでは,数理という道具を使って工学の諸問題に挑戦する方法を学ぶ.これは,単に数学を工学へ応用することだけを意味するものではない.数学をその一部として含む論理的なものの捉え方,扱い方を手がかりに,工学的現象の中から解くべき問題の本質を抽出し,それを解き,その活動を通じてより良い工学的手法を追求し続ける学問である.その対象は,生体やコンピュータを含む情報工学,制御やオペレーションズリサーチを含む計画数学,不確実な現象を扱う確率や統計などをはじめとして多岐にわたるが,これもまた時代とともに推移し続ける.最近の重要な対象には,確率微分方程式などを用いて経済現象を解析し予測する数理ファイナンス,暗号・符号に基づいて情報の安全性を確保する情報セキュリティなども含まれる.
 システム情報工学コースでは,「認識と行動」のメカニズムの体系的な理解とその工学的実現を目標としている.すなわち,対象とする物理的世界からの要素情報の収集(センシング),得られた多数の要素情報に基づく知識レベルの情報の抽出(認識),目的を実現するための対象への働きかけ(制御)の全ステップを対象として,新しい理論とアルゴリズムを追及し,これに基づいて新しい機能のシステムを実現しようとする.このアプローチは,生命体の機能を理解し,工学的に応用しようとする観点からも重要である.人工物であれ生命体であれ,これをシステムとして見たとき,どのような「機能」がどのような「しかけ」,どのような「金物」によって実現されるのか,という問題に興味がある.
 両コースとも,物理と数理のバランスのとれた素養の上に,それぞれの専門科目を配置する形で教育を行っている.これによって,時代が激変してもその重要性を失わない工学の幅広い基礎を学ぶことができる.卒業後に遭遇するであろう新しい問題を,広い視野に立って解決することのできる人材の育成,さらには,自ら新しい問題を提起し,新しい分野を開拓することのできる人材の育成が,両コースの目標である.