新学科紹介

工学部システム創成学科(2)

(http://www.si.t.u-tokyo.ac.jp/)

システム創成学科については、前号に紹介記事が掲載されましたが、本稿ではこれを構成

する4コースについてそれぞれの特色を紹介します。

環境・エネルギーシステムコース

(http://www.si.t.u-tokyo.ac.jp/ee/)

 システム創成学科教授 山口 一

地球環境とエネルギー問題をベースに、基礎学力・独創性・リーダシップを身に付けましょう。ここには、そのためのカリキュラムと教育・研究スタッフが用意されています。2年冬からプロジェクト演習という科目があり、グループに分かれて今まさに起っている現実の問題に触れ、その取り組み方を学びます。並行して、演習付きのプラクティス講義により、必要な基礎学問をじっくり集中的に身に付けるとともに、1コマのみの講義もあって最先端の話題に触れることもできます。つまり、縦糸と横糸を上手く組み合わせたカリキュラムが効率的に実現されており、そのため、1時間目がないという余裕のあるカリキュラムになっています。自分で考えながら楽しんで学ぶことができ、豊富な教育スタッフにより、教官との接触も多く、学生個々の特性を生かした密度の濃い教育が受けられます。

 これまで、理科系の学問は専門分化する形で発達して、それにより20世紀終盤の大量消費社会を実現してきました。それが、特に環境・エネルギー問題となって現れているのが今です。これを解決して、持続可能な社会を実現するためには、「色々な基礎技術を総合してシステムとして考えるためのマインドの養成」と「基礎は同じであってもそれらの技術の使い方を工夫する発想の転換」が必要です。一緒に新しい時代を切り開いていきましょう。

 地球環境問題は、理学の人達が中心に盛り立ててきました。社会がそれを認識したのは、彼らの功績です。しかし、問題を解決するのは、やはり工学です。社会との関わりも十分認識しながら、明るい未来を築きましょう。ここは、「やりたいことが見つかるところ」です。

本コースで教育を受け基礎を身に付けた卒業生の進路としては大学院進学以外では、以下のような分野があります。これら様々な分野で、環境とエネルギーについてのしっかりとした基礎を持って、社会をリードしましょう。

<啓蒙活動>科学ジャーナリズム、マスコミ、研究室に閉じこもらない科学者、教育者

<社会の舵取り>国連などの国際機関、中央官庁、地方自治体、政治家(目指せ、理科系初の総理大臣!)

<環境エンジニアリング>環境コンサルティング、シンクタンク、企業の開発計画部門で環境影響を常に正しく考慮しながら立案する技術者、機器設計や機器開発において、環境影響を常に考慮しながら取り組む技術者

シミュレーションコース

(http://www.si.t.u-tokyo.ac.jp/sim/)

システム創成学科教授 大橋 弘忠

 地球シミュレータ、脳のモデル化、デジタル生態系、仮想環境による車の設計など、多くの科学技術の最先端でシミュレーションが用いられるようになってきました。実験と理論に続く新しい第3の科学技術の方法です。コンピュータの中に仮想的な世界を創り、それを通して現象を把握し、システムのダイナミックスを理解しようとする考え方です。

シミュレーションコースでは、人工システム、ネットワークシステム、生物・生態システムなど自然、人工物、社会における複雑なシステムを対象とし、それらを解明し、新しい発見をし、新しいシステムを創り上げていくための考え方と手続きの教育を行います。

 シミュレーションは、対象の適切な表現(モデル化)、論理的な記述の変換(アルゴリズム)、コンピュータによる演算(コンピューティング)で構成されます。コンピュータに関する知識も大切ですが、それ以上に対象の本質を捉えること、そしてそれを表現することが重要で、基礎的な物理現象の理解やシステムの階層的な成り立ちの理解が必要になります。

 モデルとしては、微分方程式を中心とした数理的なモデルの他に、物理現象や社会現象の本質にまで遡った構成的なモデル、脳、生物系や統計力学系が示す適応のロジックを取り入れた新しいモデルが登場しています。

本コースでは、情報基礎、工学基礎に加え、物理モデリング、システム構造、 グラフィックス、脳システムなどについての講義と演習、 具体例に基づいたプロジェクトを行います。

これらを通じて、深い洞察力と豊かな想像力を持ち、自然・人間・人工物・社会の様々な現象を予見し、斬新なアイデアを提案して試行錯誤的に実行していく能力を備えた人材を育成します。 合言葉は "Being Digital" です。21世紀に待ち受ける新しい課題を解くには新しい考え方が必要です。さあ、デジタル・サイエンティストとしての挑戦を始めませんか。

生体・情報システムコース

(http://www.si.t.u-tokyo.ac.jp/bis/)

システム創成学科助教授 佐々木 健

生命・人間を原点に21世紀の社会を考え、バイオから情報ネットワークに至る広い領域を視野におさめて未来の扉を開くリーダを育てるのが本コースの目的です。この理念のもと、教授陣には現役の外科医から、メカトロニクスの第一人者、ウェアラブル情報システムの提唱者、医療・健康機器開発のリーダ、通信ネットワークの専門家、マイクロマシンの理論家、等々の多彩な顔ぶれをそろえました。

研究分野のキーワードとしては,静電人工筋肉、人体形状測定、環境情報ネットワーク、手術支援用ロボティクス、癌治療、マイクロシステム実装、X線イメージセンサ、環境リスク、進化的計算、情報資源の統合利用、高温超伝導、超高速反応などが挙げられます。

これらの技術の基盤となる学問分野は機械工学、電子工学、計測制御工学、物理工学、情報理論、生理学、量子工学などです。これらの学問はそれぞれ確立した学問体系を成していますが、基礎的な部分には共通する概念が多く存在し、それらは各学問分野において違った形で表現されているに過ぎません。本コースでは講義内容を厳選し、実験やプロジェクト演習を通じて重要な基礎概念の徹底的な理解を目標としています。主な講義名は以下の通りです。

(1)生体・環境工学:生体環境物理化学、生体計測工学、医療福祉工学、バイオテクノロジー概論等

(2)環境情報工学:情報マイクロシステム創成学、マイクロ集積化工学等

(3)マイクロメカトロニクス工学:アクチュエータ工学、センサ工学、ロボット工学、光工学等

(4)電子情報工学基礎:電子回路基礎、信号処理工学、光通信ネットワーク工学等

(5)機械工学基礎:運動と振動、材料力学、流体力学、制御工学、計測工学等

(6)量子工学基礎:量子ビーム基礎、量子ビーム診断計測工学、生体放射線工学等

(7)実習・実験:動機付けプロジェクト、基礎/応用プロジェクト、領域・研究プロジェクト(卒論)、応用物理学実験等

このようなカリキュラムを構成することにより、講義漬けで消化不良を起こすことなく、知識が確実に自分のものとなるように工夫されています。プロジェクト演習においては自ら課題を設定して解決手段を策定し、その成果を発表するまでの一連のプロセスを体験することで問題解決能力を修得することができます。

知能社会システムコース

(http://www.si.t.u-tokyo.ac.jp/psi/)

システム創成学科助教授 六川 修一

高度に知能化・情報化した21世紀の社会は、産業創出、政策立案ができるような人材がリードする社会です。本コースはデザイン・テクノロジーとテクノロジーマネジメントの教育を行い、理系でもあり文系でもある技術系の経営/政策エリート(エグゼクティブ・エンジニア)を養成するために設けられました。エグゼクティブ・エンジニアとは、従来の工学体系が大切にしてきた要素技術の重要性を認識し、その可能性と発展性を広い視野から探求することのできる新しいタイプのエンジニアです。情報技術などの先進的アプローチによって、新しいプロダクト/サービスや産業を創出したり、環境、行政、福祉、金融などの複雑な問題を解決できる新しい社会システムを創成する人材の育成をめざします。

カリキュラムは、力学、設計・生産学、システム工学、情報技術といった工学の基礎科目を体系的、効率的に学習できるように工夫されています。加えて、技術マネージメント、起業論、ビジネス戦略、ライフサイクル工学、産業情報システムなどの講義、さらには小人数のプロジェクト演習、たとえば「インターネット空間におけるビジネス展開」、「地球環境改善の立案コンテスト」なども用意されています。また、各教官が勉学、進路等で小数の学生のアドバイザーとなる「ビッグブラザー制」もあり、多彩な教育活動を行うため、学外での大型プロジェクトの主導者、民間企業経営の経験者、官僚経験者など、多様な経歴を有した教官を配してカリキュラム内容の充実に力を注いでいます。