コース紹介
 
教育学部身体教育学コース
コース主任 武藤芳照
1.身体教育学とは、
 いじめ、不登校、殺傷事件、小動物の虐待など学校教育現場では、子どもの深刻な問題が続出し、「心の教育」あるいは「心の健康」が叫ばれています.一方、子どもの体力不足、肥満・やせ願望、いつも「疲れた」「眠い」と訴える児童・生徒の増加、スポーツ過熱に伴う障害の多発、薬物乱用、喫煙の害など、子どものからだにまつわる様々な問題が発生しています.また、高齢者社会の到来と科学技術の発展に伴って、中高年の運動不足と生活習慣病、高齢者と転倒・骨折事故・寝たきり、環境ホルモンのからだへの影響、マスターズスポーツのあり方など、からだと社会、からだと環境の視点で対応しなければならない社会問題も増加しています.
 このような学校、家庭、社会に存在する「身体(からだ)」に関わる様々な教育事象について、幅広く総合的・実践的な立場で教育・研究を行うのが身体教育学です.そして、身体教育学は、健全な身体形成を図り、健全な身体感とスポーツ感を育み、自分自身の「身体(からだ)を育む」ことに主体的に立ち向かい実践していく意識と行動力を育成することを目標としているのです.
 そのような理念をこめて、コースの英語名称は、Department of Physical and Health Educationとしています.平成10(1998)年4月、我が国で初めて誕生した「身体の教育」を主眼とした講座であり、現時点では、全国で東京大学に唯一存在するコース(講座)です.
2.専門分野と教官の構成
【教育・研究分野】
本コースでは、現在、次の4つの教育・研究分野を設け、それぞれに担当の教官が専門的な教育・研究を行っています.
・身体教育学:からだの形としくみ、からだの理(ことわり)を知り、それぞれの個の特性に応じて、い かにからだを育むかの教育・方法を検討すると共に、身体感・身体表現・身体活動の歴史、文化、社会 との関わりについても検討する.
・教育生理学:学校あるいは家庭、社会における様々な教育・指導場面での事象について、生理学的な立 場から、その手法と知識・情報に関する研究・応用を通じて、より適切な教育・指導のあり方と環境づ くりについて検討する.
・スポーツ科学:運動技能・体力の測定・評価を行うと共に、競技力向上のための適切な練習・トレーニ ング指導の方法と内容について検討する.また、スポーツにおける様々な弊害と問題の要因と対応策を 検討する.
・健康教育学:ヒトの発育、発達、成熟、加齢、老化現象を科学的に評価すると共に、学校・家庭・社会 生活における健康の保持・増進、疾病・障害・事故の予防のための教育・指導の内容と方法を検討する.
 
教育・研究分野 教官 主な研究テーマ
身体教育学 武藤芳照教授 スポーツ障害の発生要因と予防対策、個の特性に応じた運動処方、からだの教育、ドーピング、高齢者の転倒予防
教育生理学 山本義春助教授 生体におけるゆらぎ現象の解析とその機能的意義の解明、生体調節系の動的構造の解析
スポーツ科学 平野裕一助教授 スポーツにみられる動作の分析とそれに基づいた身体のトレーニングについて
    白山正人助教授 運動・スポーツによるメンタルヘルスの改善、スポーツ精神障害の予防・治療、メンタルトレーニング
健康教育学 衞藤 隆教授 児童・生徒などの健康管理および健康教育、身体発育と健康、小児の事故防止と安全推進
    柴若光昭助教授 学校における健康・安全の実態把握と健康・安全情報の分析・活用について
 
 
3.文科・理科の各類からの進学が等しく可能なコース
 本コースは、身体に関わる多様な教育・研究を行っており、教育学部の中にあって、文科はもとより理科からも進学が可能です.例えば、平成12(2000)年度に進学した学部3年生の内訳は、下記の通りであり、文科:理科の比率がおよそ4:6です.
 
                                      *この内、女子1名
 
 最近、転学部、転学科あるいは学士入学により本コースに進入学を希望する学生の数は、年々増加しています.ちなみに、平成12(2000)年度には、転学部1名(文学部)、学士入学1名(文学部)が進入学しています.
 
4.コース学部生の講義と生活
 本コースの講義、演習、実験、実習は、いずれも10〜30名程度の少人数でアットホームな雰囲気の中で行われ、学生自身のプレゼンテーションや参画を積極的に組み込んだ形式内容を大切にしています.
【講義例】
『身体教育学概論』
 学生自身のプレゼンテーションを主体に、教官、学生が論議する.
 主な内容
 ・酒・酔う・子どもの外遊びの意義・子どものからだとデジタル社会・ヒトの歩行と杖・絵画・彫刻にみる身体の姿勢と動作・右利き・左利き・私と左利き・身体の性差(体格、体力)・女性の運動着・スポーツウェア論考・寝たきり老人・老人の転倒と骨折・からだとクスリ・サプリメント・ドーピング・誤ったトレーニング・熱中症の予防・身体障害児とは・障害児の運動指導・疲労骨折・溺水など
 教育学部では、卒業論文(8単位)の執筆が課せられています.過去2カ年のテーマの事例は次の通りです.
・平成10(1998)年度卒業生
 ・リュックサックの肩ベルトの長さの調節が立位および方向時の生体に及ぼす影響
 ・自発瞬目と視覚対象認知に関する研究ー映像観察時の瞬目反応の同期現象の研究ー
 ・30日連続の30km歩行による身体的変化
・平成11(1999)年度卒業生
 ・学校安全における養護教諭の役割
 ・一卵性双生児間の筋におけるトレーナビリティの比較
 ・靴の形態的特徴が歩行動作に及ぼす影響について
 学部生の卒業後の就職・進学状況は下図の通りです.就職と進学との割合がおおよそ6:4になってい
ます.
 
 
 
 
 
【就職・進学状況】 
 
 
 
(1995年3月〜1999年3月まで5年間の卒業者の累計集計)計66名
 *「進学」欄には大学院の他、研究生を含む.
 
5.教官・大学院生の研究・実践活動
 教官・大学院生がそれぞれの専門分野で学術的研究を行うと共に、地方公共団体、他の研究・教育機関、医療・福祉施設、スポーツ団体等と連携・協力して様々な実践活動を推進しています.
【研究・実践活動の事例】
・子どもの身体について
 ・山形県・長野県の小学生たちに、バスケットボールを通して、身体を動かすことの面白さ、楽しさを  伝える大学院生らの活動.
 ・小・中学校保健室の現状と諸問題について、養護教諭との研究協議を重ねる研究活動.
 ・正しい応急手当の仕方の指導を糸口に、子どもたち自身が、からだの理を知り、健康と生命の大切さ  を知る教育を考える研究・教育活動.
・身体の生理について
 ・AMXーテニスボール:小型生体信号ロガーを開発、それを用い、ヒトのストレス・生体リズムを探  る研究.「規則正しい生活」の科学的基盤を探ることが目的である.
 ・ネックチャンバー:ヒトの循環調節系のシステム解析を、コンピュータと連動した血圧刺激装置を用  いて行う研究.いわゆる「立ち眩み」のメカニズム解明と、その予防法を開発することが目的である.
 ・音楽が心身に及ぼす効果、影響の調査・研究.
 ・瞬目解析 視覚映像観察時の瞬目(まばたき)のタイミングを測定、解析することによってヒトの認  知過程を解明する.
・スポーツの指導・教育について
 ・一流野球選手の競技シーズン中の体格、身体組成、運動機能の変化、瞬発パワーを追跡する研究.
 ・全国高校総合体育大会等でのドーピング・コントロールを通して、健全なスポーツ観の育成を図り、  むやみに薬物、サプリメントに頼らないと言う健康教育の実践活動.
・高齢者の身体について
 ・「寝たきり」の主要原因とされる高齢者の転倒・骨折予防を図るため、歩く(10m全力歩行)、またぐ (最大1歩幅)、昇って降りる(40・踏台昇降)能力を測定し、転倒回避能力(健脚度)の評価に役立  て具体的な「転倒予防教室」を企画・運営する研究・教育活動.
 
6.連絡・問い合わせ
 本コースに関して質問・問い合わせがあれば、教育学部教務掛(教育学部1階事務室 Tel03-5841-3907、内線2-3907)もしくは、身体教育学コース事務室(同2階207号室、Tel03-5841-3987、内線2-3987)に連絡して下さい.
 「身体」そして「身体の教育」に興味・関心のある豊かな感性の学生が進学してくるのを期待しています.
 
 
学生のプレゼンテーション主体の少人数の講義風景.
 
 
 
実験実習の模様(三次元バーチャルリアリティーシステムを用いた運動学習の実験)