学科紹介

工学部 環境海洋工学

広報担当 多部田茂

1.環境海洋工学とは

 これからの工学に求められることは、環境問題、資源・エネルギー問題、人口爆発、食料問題など、環境−人間−人工物の間に相関問題として生じるさまざまな問題を解決し、相反する課題の間に調和を保ちつつ人類の持続的発展と繁栄を確かなものとすることです。本学科では、地球環境問題、資源・エネルギー問題などにおいて重要な位置を占め、本専攻が独自の技術体系を有する海洋を基盤にこれらの問題に取り組んでいます。

 また、人間社会のインフラストラクチャを構成する輸送、環境、エネルギー関連の製品は、大規模で基盤技術が多岐にわたり、多様な技術者集団が有機的に設計構造にあたることで組み上げられています。船舶や海洋構造物といった大規模な人工物の解析・設計・製造の分野で、培ってきた成果を生かし、意志決定、システムの管理・最適化など、組織を効率よく運営し、大規模なプロジェクトをマネージメントしていく手法に取り組んでいます。

2.コースと研究・教育設備

 本学科では調和システムコースと海洋・輸送システムコースの二つのコースを設けて、工学の新たな役割に答えるべく教育に取り組んでおり、世界をリードする研究成果を数多く生み出しています。

★海洋・輸送システムコース

 1960年代から長期にわたって、日本は大型船舶と海洋構造物の研究、技術開発、建造のリーダーシップをとってきました。このコースは、船舶海洋工学の継続的発展を担う技術者を養成するために設けられています。新コンセプト船の開発、新設計システムの開発、新建造システムの開発などに向けた研究活動を進めてきましたが、これからは特に、物流の視点から海上交通輸送システムの最適化、環境・エネルギーの視点からトータルクリーン船、先進安全船の研究開発など社会との関係を強く意識した総合工学的なアプローチが必要です。同じように環境・エネルギーの視点から海洋構造物の重要性は更に高まるでしょう。本コースでは要素技術とプラニングとマネジメントを含んだ総合化技術を組み合わせたカリキュラムを持ち、アメリカズカップヨットレース、人力船レースなどの実際プロジェクトを使った設計や演習も実施しています。今年の秋からチャレンジャーシリーズが始まるアメリカズカップ2000のヨット開発設計には大学院生から卒論生まで多数の人が参加しています。

★調和システムコース

 われわれは地球が有限の存在であることを強く意識しています。地球温暖化、食料危機、資源・エネルギー問題など、人類を取り巻く深刻な問題は地球規模で解決することが迫られています。人類が将来にわたって持続的に繁栄を続けるためには、これから将来に向けて行われる技術開発は環境との調和をはかりつつ計画・実行されなければなりません。工学の新たな使命は環境と人間と人工物が互いに複雑に関係して生じるさまざまな問題を解決し、相反する課題の間に調和を保ちつつ人類の持続的発展と繁栄を実現することにあります。本コースでは、環境問題解決のための技術論のみならず、生態系などの自然システム論、環境政策論などもカリキュラムに取り入れており、グローバルな環境問題に対しても重要なCO2の海洋貯留や極地環境工学、沿岸海洋環境の変動予測等のテーマにに取り組んでいます。

★研究・教育設備

 本学科には非常に充実した計算機環境が用意されています。CAD室には数多くのワークステーションが整備され、様々なソフトが用意されて、学生にいつでも開放されています。卒業研究で訪れる各研究室には、ほぼ一人1台の計算機が整備されています。また、他に無い設備として大型水槽を3つ(86m、45m、 50m×30m)、キャビテーションタンネル、各種試験装置を備えています。

3.カリキュラム

 現在われわれが目にする巨大で複雑な工学の成果物も、基本的な原理を豊かな発想と確かな技術の下に一つ一つ有機的に結合し、積み重ねて構築されたものです。本学科では豊かな発想力を身に付けるとともに、発想を実現に結び付ける技術を習得することを目的として、工学の2本柱である分析(Analysis)と総合(Synthesis)に力を入れ、演習・設計に重点を置いた教育を行っています。本学科のカリキュラムは工学部に共通な基礎科目、システム関係、流体力学関係、材料・構造関係の講義、技術マネージメント関係の講義など本学科共通の科目から構成されています。その上に調和システムコース、海洋・輸送システムコース固有の講義と演習が加わる構成となっています。

★演習・実験

 今日の技術社会では設計や解析もさることながら、情報の伝達や交換にも計算機はなくてはならない道具となっています。そこで、2年冬学期からネットワークを使った情報伝達・交換、計算機を利用した科学技術計算、CAD(計算機を使った設計)などの演習が始まります。また、各コースでは授業で学んだ内容を実際に確認する作業ばかりでなく、学生各自の創造力育成に配慮されたメニューが用意されています。

★設計

 設計では自由な発想を尊重し、設計したものを実際に作成して性能確認まで行う授業を行っています。たとえば人力船の制作では全国大会で上位に入賞しています。リモコン潜水艇の設計では、設計した潜水艇を実際に製作して水中探索をさせる競技を行っています。

★卒業論文

 4年生になると、各研究室に配属されて卒業論文に着手します。卒業論文では、理論から実験・解析法まで配属された研究室の教職員からマンツーマンの指導や助言を受けながら研究を進めて行きます。4年生の後半はほとんどの時間がこの卒業論文に当てられます。学生にとって、卒業論文の研究は工学の知識を実践し問題の解決を目指す最初の経験になります。卒業論文を通して工学者としての自覚も生まれてくるように思います。

4.卒業後の進路

 本学科の卒業生は培ってきた分析(Analysis)と総合(Synthesis)の能力を活かして産業界のみならず社会の各方面で活躍しています。洋上原油備蓄基地、超伝導船、リニアモーターカー、宇宙ロケットなどの開発にも卒業生が参画しています。卒業生のうち、半数以上は大学院に進学します。大学院終了後も含めて、その就職先は広くほとんどすべての主要な産業分野に及んでおり、重工業会社、鉄鋼会社、電機メーカー、自動車、各種機械メーカー、海洋開発関連企業の他、商社、金融機関、建設会社、海運会社、運輸省・通産省などの各省庁、大学、国立研究機関など多方面にわたっています。

5.おわりに

 環境海洋工額専攻のホームページがhttp://www.naoe.t.u-tokyo.ac.jp/に公開されています。歴史、教官紹介、研究室紹介、講義一覧などの情報が公開されていますので是非ご覧ください。海と環境に興味がある諸君、人類の未来を担う気概に溢れる諸君の進学を希望しています。