学科紹介

工学部マテリアル工学科

        学科長 吉田豊信

1)マテリアル工学とは

 工学はDesignを基調とした様態の異なるタテ糸~ヨコ糸の相関によって特徴付けられます。誤解を恐れずに言えば、土木系は社会基盤システム~構造物、機械系は機械システム~諸力学、電気系は電気システム~デバイス、物理系は物理現象~物質、化学系は物質~化学反応、となります。その意味で、材料系は材料~プロセシングとされてきました。しかし、豊かな人間社会を見据えた時代の当該分野への要請に応え、将来の新たな産業・学問体系の発展を期すためには、タテ糸を「個々の材料」から「目的とする機能」へと抜本的に再編し、材料機能~プロセシングの相関への再構築が必要不可欠であります。そのためには対象とする材料機能を構造機能から積極的に電子・光・生体・エネルギー機能にまで拡大し、同時にヨコ糸には情報化・デバイス化を導入してプロセシングの多様化を図り柔軟に織り込む構造を目指すとともに、「環境」との相関を十分考慮した設計概念でそれらを包み込むことによって「新産業創成」をも可能とする新たな学問分野(マテリアル工学)を構築することが必要です。

 即ち、マテリアル工学とは「対象とする材料機能の多様化により、Design of materials から、「環境」との相関を意識した Design for materials、及び Design with materialsへの展開をはかり、これらを三位一体として他の工学分野から明瞭に見通せる新たな学問領域を構築することによって、総合的に人類の幸福に貢献するための工学」と定義されます。

2)工学ネットワークのNode

 過去一世紀の間、技術社会発展の側面から人間社会全般の幸福を目指すとの使命をおびた「工学」は、時代に対応した切り口・役割の違いにより分科、細分化してきました。しかし、21世紀の時代の要請に応えるには、主要な工学をNodeとした新たなネットワークを構築し、工学分野全般を横断的に広がる学問体系によって統合化し、ひいては理学、医学、農学、更には法学、経済学とも相互にアクセス可能とする必要があります。この構築は現在緒に着いたばかりで、まずNode形成から始める必要があります。

さて、工学ネットワークにおけるNodeとしての要件は、工学全分野の基盤たる分野であり多様な分野との相互作用が必要かつ有益であることは当然ですが、活力に裏付けされた明確な理念によるidentityが内部的に確立され、外部からも明瞭に見通せる必要があります。「マテリアル工学」はDesign of-for-with Materials の理念のもと、上記要件を満たす工学として認知されたものです。まさに、「マテリアル工学」こそが工学の21世紀的意味での新たな統合化につながる核としての役割を担っていると言っても過言ではありません。又、その発展こそが技術社会発展の側面から人間社会全般の幸福を目指すとの工学の使命に応える道でもあるのです。その意味で「マテリアル工学」は「統合の工学」を目指すと言えます。

3)マテリアル工学科発足

世界的規模での工学ネットワークの中で「マテリアル工学」をその要としてのNodeとして発展させるべく、「マテリアル工学科」が21世紀を直前にして本年4月工学部に新設されました。本学科の新設は「東大」の意志であるのみならず、次世代工学の「社会」への提示でもあり、ひいては21世紀に向けた時代の要請でもあるのです。我々は「マテリアル工学科」新設に向け、過去数年間マテリアル工学の世界的な流れを調査・検討し、我が国独自のマテリアル工学のあるべき姿について日夜議論し、結果として先に挙げた理念に到達しました。その実現に向け、実体としての新たな組織を形成するため、各分野で日本を代表する多数の先生方を招聘し、今、好奇心に満ちた意欲ある若いあなたたちを迎える体制が整いました。

図はマテリアル工学科発足に際し考案したシンボルマークです。まず、三角形の中のDesign-of-for-with-Materialsは、過去においては材料分野の教育・研究がofに集中しすぎていたとの反省から、今後21世紀ではforとwithを強化し伴に三位一体として積極的に展開していくとの強い意志を表わし、3辺の色:gray、yellow、redは各々、金属、半導体・セラミックス・ガラス、及びポリマーを含むバイオマテリアルをイメージしています。又、各頂点近傍を開けることにより、本分野を閉じた系にすべきではなく、関連ある工学分野との相互作用を意識して導入・展開し、工学ネットワークのNodeとなる決意を示しています。

4)教育・研究分野

マテリアル工学科の教育・研究分野は幅広く、全ての工学の基盤と関連しています。原子・分子のミクロの世界から、バイオマテリアル、ニューマテリアルの発見、新プロセス技術の開発、環境・エネルギーにつながる巨大産業までをカバーし、物質文明の創出に積極的に貢献していきます。

具体的には、

a) 命と健康を守るバイオマテリアル

b) 新産業を生むマテリアルプロセシング

c) 新技術社会発展の鍵となるニューマテリアル

d) 量子の世界へ拡がるマテリアル

e) 暮らしや環境を守る基盤マテリアル

の5つの柱を立てて教育・研究に着手しました。

5)カリキュラム

カリキュラムとしては、各種機能に対する講義科目を基軸に、マテリアル設計、プロセシングに関する講義を横断的に配し、Design of-for-with Materials の理念のもとに、マテリアルに対する基礎的で幅広い教育を実現するよう構成しています。具体的には、講義科目を「マテリアル設計」「マテリアル機能」「マテリアルプロセス」に大別し、それぞれを基礎科目と応用科目に分類しました。2年次には広範なマテリアルとその最新工学的応用事例を紹介する科目を学び学習動機を明確にするとともに、熱力学、物理学、化学などの基礎科目を学びます。3年次においては、より具体的なマテリアルの機能、設計、プロセスに関する科目を学び、基礎的な実験手法も習得します。4年次には、大学院における高度な専門教育へと進む基礎として、卒業論文を中心に、それに必要な科目を履修します。なお、必修科目を最小限にとどめ科目選択の幅を増し、学生諸君の自立的学習を促すよう配慮しています。

6)学科からのメッセージ

 21世紀はあなた達の時代です。新たな学問体系を 通して21世紀の「工学」に活力を与え、新産業を創成し我が国の発展を期すには、「マテリアル工学」の発展が、そしてあなたたちの力が必要です。この生まれたばかりの「マテリアル工学科」を一緒に立ち上げましょう。あなたの活躍する舞台を作るのは我々の役目で、「マテリアル工学科」の主役はあなたです。「マテリアル工学科」は世界の桧舞台で活躍したいと思っているあなたに、その「場」を提供することを確約します。

THE FACT IS・・・

We are preparing The World

For The 21st Century.

(なお、更に詳細な情報がhttp://www.material.t.u-tokyo.ac.jp/ に掲載されています。ご覧下さい。)