学科紹介

教育学部総合教育科学科

            進学担当 汐見稔幸

 

Q教育学部というのは、どういう学部ですか?

 教育学部は、名の通り教育を研究対象にしている学部ですが、通常我々がイメージするようないわゆる「教育」だけを研究対象にしているわけではありません。「学校」は当然中心的な研究対象ですが、それだけではなく、人間が生まれ・育ち・生きるということ全体を(ときには死ぬということを含めて)いつも念頭に置き、そのことに関わるあらゆる問題を研究したいという志向性をもった学部といえます。

 学問・芸術を次世代に伝えるという営みに随伴する諸問題、文明の変化が人間の育ちに与える諸影響、等というようなことも当然研究テーマになりますし、人間がものをわかったり記憶していくときのメカニズムの解明、身体や運動能力の合理的な育て、心の発達の説明と健康管理ということも大事な研究課題です。そもそも教育するということが本当に必要なことなのかというようなことを考えることも重要な研究テーマといってよいでしょう。

 規模は大きくありませんが、志は高く、たいへん元気で面倒見のよい学部です。先日、創設50周年の祝典が行われましたが、参加して下さった他学部の方々は、共通に教育学部の志と活発さを認めていました。

 

Q具体的にどういう構成になっているのですか?

 学部は先年の改革の中で「総合教育科学科」という名前のひとつの学科にまとまりました。まとまりへの意志を制度化しておこうというねらいですが、その中に現在、次の6つのコースがあります。

 教育学コース

 以前は教育哲学・教育史コースといわれていたことに明らかなように、本コースには哲学や思想史、人間学の手法で教育を研究するセクションと歴史学の手法で教育を研究するセクションが含まれています。人間とは?生きるとは?というような根元的な問いや悩みを抱えていたり、私を私にしてきたこの教育という営みを根本から考え直してみたいなどという関心を持っている人、あるいは、今日の教育や人間の有り様を歴史的にたどりなおしてもっと深く理解したり批判したりしてみたい、これからの教育の在り方を原理的に考えてみたい、などという思いをもっている人には適応的なコースといえるでしょう。

比較教育社会学コース

 以前の教育社会学、比較教育学、高等教育を統合したコースです。ここでは、教育現象をシステムとしてとらえ、それを社会学や経済学など社会科学的手法で学際的・多角的に分析していく訓練が重視されます。いじめや不登校、入試制度などの実践的な教育問題を、心理学的、教育実践的な角度からではなく、社会現象としてとらえ、あくまでも社会科学的に分析していくことが期待されます。調査研究の方法を身につけたいとか、最近の社会学の手法を用いて教育現象の背後にある論理を浮かび上がらせてみたい、というような気持ちを持っている人にはぴったりのコースです。予備校や塾など、正規の学校の外にあってしかし重要な教育的役割を果たしている制度の研究をしてみたいという人も歓迎されます。

 教育心理学コース

 教育の基礎学として心理学に依拠しながら、一方で人間の内面過程の解明を目指し、他方でそれを教育に応用した、実践的心理学を目指しているコースです。学部改革以降は、学校や企業等で行われている教育のプログラミング、より広い場面での環境システムの変革のプログラミングを行うことが可能な人材の養成にも力をさいています。最近、心身の育ちに不調を訴えてカウンセラーの門をたたく人が増えていますが、現代の子ども・大人への臨床的な対応とそのための訓練も本コースの重要な課題になっています。人間の心の問題、認知や言葉などの相互作用的な発達などに関心を持っている人には最適のコースでしょう。

 学校教育学コース

 日本の近代化に学校が果たした役割は功罪合わせて、はかりしれないものがありますが、現在、その学校が十分に期待されているように機能しなくなってきています。そこで本コースでは、コンピュータリテラシーの可能性など文化の変容に応じた人間の基礎能力のとらえ直しをはかり、複雑化する学校教育問題を原理的かつ実践的に把握する力をきたえ、さらに子どもと教師が社会と文化に積極的に参加していくための臨床的な援助を行いたいと考えています。学校や教育に実践的関心を持っていて、それをラディカルにとらえてみたいと考えている人には格好のコースといえます。

 教育行政学コース

 本コースは、社会教育、教育行政、図書館学という分野で、高度の実務能力を持った専門家を養成したいということから生まれました。現在は研究者になる人も多いのですが、関連分野で活躍している人も多くでています。特に最近は、「生涯学習」が教育問題を解決していく際のキーワードになり、この分野への注目度が高くなっています。大学拡張やリカレント教育、社会教育や企業教育、地域における育ちや家庭教育あるいは老人の教育などに関心のある人、情報化、国際化等の社会変化・文化変容の中での子ども・若者のリテラシー問題やコンピュータ社会における情報管理問題に関心が高い人、中央・地方で教育行政に関わってみたいと考えている人らは、このコースが最適でしょう。司書や学芸員の資格もこのコースならとりやすい。

 身体教育学コース

 人間の教育の基本は身体の教育のはずです。本コースは人間の運動やスポーツを支える基礎理論を医学的・健康科学的・生理学的に明らかにしていくことを課題としているだけでなく、からだの発育・発達・老化についての理解を深めることや、スポーツ指導や健康管理について科学的に訓練することも目指しています。具体的なスポーツの技能向上やコーチングの改善などに取り組みたいと考えている人、人間の健康問題を身体から考えてみたいと思っている人、最近話題になっているダイオキシン等の環境ホルモンの影響等の問題に取り組んでみたいと考えている人、子どもたちの運動機能の歴史的低下問題を考えてみたいと思っている人、すべて本コースがふさわしいといえるでしょう。

 

Q進学後の過ごし方で注意したらいいことがありますか? 

 数年前の改革で、進学してきた3年生に「基礎ゼミ」を必修で課すということになりました。これは各コースの基本となる方法的訓練や基礎文献購読をしっかり行ってもらおうというもので、各教員のゼミももちろんそうですが、きっちり参加して、勉強することのおもしろさをまず感じ取ってほしいと思っています。卒論は必修ですから、4年生は就職活動と卒論ということで意外と忙しくなります。3年生のときにさぼりすぎないことが大事です。

 

Q卒業生の進路はどうなっていますか?

 はっきりした数字はわかりませんが、多くは一般企業に就職します。企業の人事担当者の話では、教育学部出身者は今、重宝がられることが多いとのことです。理由は、理科系、文化系のどちらかだけというのではなく、両方の要素を一応は勉強してきているので、変化が激しい今の企業には向いているということでした。

 次に多いのが大学院進学者でしょう。3割前後の学生が大学院に進んでいると思われます。院進学者の多くは研究者になっています。なお、本研究科は全国の教育学系の大学院の中で最大で、全国の多くの大学に研究者を送っています。院時代に留学する人も最近は増えてきました。中学校や高校の教員になる人はそう多くありません。教育委員会などに就職する人も多くはありませんがいます。

Q他のセールスポイントは何ですか?

 いろいろありますが、まず、規模が小さいので、気軽で居心地のよいこと、友達がつくりやすいことでしょう。二番目は、授業なども少人数が多くて、教員とも人間的なふれあいができやすいということです。三番目は、図書室の使い勝手がたいへんよいということでしょう。実に自由な雰囲気で、司書の方も親切に相談に乗ってくれます。

 ともかく暇なとき、一度顔を出してみて、様子を感じ取って下さい。お持ちしてます。