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工学部

システム量子工学科

工学系研究科システム量子工学専攻

   田中 知、高橋 浩之

 

1. システム量子工学科とは

 

われわれの身の回りに存在するすべての物は細かく砕いていくと、みなその構成粒子に行き着きます。この構成粒子の世界においては物質の生成・消滅が頻繁に起こり、巨大なエネルギーがやり取りされるなど、日常生活で見られる穏やかな物質の姿とは一風違った様相を呈しています。システム量子工学は、このような世界の構成原理をわれわれの生活に役立てようとすることから出発しています。現代生活はさまざまな問題を抱えています。その中でもエネルギー・環境問題は早急に解決されなければならない重要な問題です。システム量子工学は、エネルギー量子工学とシステム設計工学という2つのアプローチによりこれらの難問に取り組んでいます。このような新しい工学は、まだあまり一般には知られていませんが、核融合やがんの重粒子線治療など、人間の制御しうる限りの大規模システムを用いることで量子レベルの現象をわれわれの生活に役立てていくことを目的とした学問であります。この意味では工学部の他の学科とは異なりビッグサイエンスの要素を強く帯びた学科であるといえます。原子核・素粒子など量子レベルでの現象を利用するために極めて大規模なシステムが必要とされるということは、一見不思議な感じがしますが、堅く閉ざされた原子核の中をこじ開けてみるために必要なエネルギーを考えてみれば、納得できるでしょう。

 

このように大規模なシステムを設計するために必要な手法全般を扱うものがシステム設計工学です。複雑かつ大規模なシステムを構築し運用するためには、構造体の強度や複雑な流れなどをはじめとして高度な数値シミュレーション技術を有効に利用しなくてはなりません。自然科学の対象とするさまざまな物理現象は適当な数学モデルを立て偏微分方程式で記述することができるので、ある初期条件・境界条件のもとでその方程式を数値的に解くことでコストのかかる実験を行わずに現象を把握することができます。また、物質を原子・分子から構成し、個々の原子・分子の挙動を追ってそれらの統計的な平均を取ることにより物質のマクロな性質を求めようとするアプローチもあります。これは、第一原理計算や分子動力学法等に代表されるもので、このようなシミュレーションではモデル化に伴う物理的考察や経験的事実などが入らないため、実験のみならず理論でも得られなかったような知見を新たに獲得することができます。さらに、人工知能やマン・マシンインタフェース、カオス、複雑系、ニューラルネットワークなど先進的な情報工学がシステム設計工学の重要な部分を構成しています。

 

一方、量子レベルの現象そのものを追いかけるものがエネルギー量子工学です。地上の太陽と言われる核融合は長半減期の放射性廃棄物を生成しないクリーンなエネルギー源であり、21世紀中には実用化がなされるでしょう。また、高速炉や新型炉などの原子力エネルギーの利用も重要です。さらに高エネルギー物理学などで主役を演じている加速器も放射光施設や医療用照射装置などにおいて工学的な利用が広がっています。特に医療用加速器では、よく制御されたビームを利用した粒子線医学が進展しており、高エネルギーのイオンビームや中性子ビームなどを用いて人体にとって有害な特定のがん細胞のみを取り除くような高度な放射線の利用がなされています。また、μm以下のサイズに絞り込まれ制御されたビームを利用することで、これまでになかったような新しい物質を創製することや、特別な機能をもった材料を作ったり、超伝導体や半導体の性能を飛躍的に高めたり、物質の内部構造や不純物の挙動を観察したりするなど、多くの新たな応用分野が切り開かれつつあります。さらにエネルギー問題のように地球規模の大きな問題をはじめ、システム量子工学の扱う先端技術は国際性・学際性が強く、諸外国のさまざまな分野との交流が活発に行われています。そのような国際性を備えた人材を育成することも本学科の目標とするところです。これらすべてを総合したものがシステム量子工学というダイナミックな学問体系を構成しています。

 

2. 学科組織と研究設備

 

システム量子工学科の教育・研究は本郷・駒場、それに茨城県東海村にある工学部付属原子力工学研究施設において行われています。また本年度から新しく設置された、柏の新領域創成科学研究科の先端エネルギー工学専攻・環境学専攻などの教官も本学科の教育・研究に参加しています。本郷には、200台以上の計算機、学生用端末室に12台のUNIXマシンとサーバーマシン、イオンビーム加速器と組み合わせた原子レベル表面分析装置、同位体分離や分析・光化学反応などに用いられるレーザーシステム、逆転磁場ピンチ型高温プラズマ磁気閉じ込め装置などが設置されており研究・教育に利用されています。東海村の研究施設には世界でも最先端のフェムト秒オーダー電子パルスを発生する電子線ライナック、高速中性子源炉「弥生」などの大型装置が設置されています。学科全体としては学生約80名、教官39名で構成されています。

 

3. カリキュラム

システム量子工学は核融合に見られるように工学の総力を結集させる点で総合工学の色彩を帯びていますので、工学全般にわたる大変広い知識を要求されます。このため、学部教育では、システム量子工学に関する基礎知識を学ぶことに重点が置かれています。2年後期においては、基礎科学や基礎工学、3年ではシステム量子工学の中の基礎分野や一般工学を学び、4年でシステム量子工学の専門的な内容を学びます。多彩な分野の講義が行われますが、学生諸君が個々の興味に応じてその資質を伸ばせるように配慮されています。また、小人数によるさまざまな実験・演習・実習を用意し、講義で得られる高度な知識を実際に体験することができるようにカリキュラムが組まれています。これらの中には東海村にある高速中性子源炉「弥生」や電子線型加速器を用いて行う「原子炉実習」や各研究室に配属されて行う「システム量子工学演習」「システム量子工学実験演習」などがあるほか、2年生の早い段階から先端の研究に触れることのできる「システム量子工学コロキウム」、研究室の研究活動に参加できる「応用システム量子工学」などのプログラムが用意されています。また、「数物演習」や「ソフトウェア演習」など興味に応じて数理物理の演習やコンピュータ教育を受けることができます。卒業論文は学部学生として4年間に学んだ知識を研究をまとめることにより集大成するためのカリキュラムです。システム量子工学科では4年後期に各研究室に配属になり、実際に研究室の一員として研究活動に励むことになります。各研究室で先端的な研究テーマが進行しており、それらの1つを分担して研究を行います。教官や大学院生とのパーソナルな関係の中で研究がまとめられていく醍醐味を経験することができます。

 

4. 卒業後の進路

 

システム量子工学科の卒業生は行政、電力、マスコミ、商社へ就職する場合を除くと、多くは大学院へ進学してから就職します。大学院修了生を含む卒業生全体についてみると、多くがエネルギーと情報に関連した企業や組織、たとえば電力や製造業、国立研究所、情報産業で活躍しています。もちろんこうした企業に学部卒業時点で就職し、活躍している者もいます。大学院システム量子工学専攻は、本学科よりも規模が大きく、英語で講義が行われる原子力工学特別コースを有していることもあって、外国人学生が多いこと、日米欧夏期学生交換事業など海外研修の機会が多いこと、博士課程進学者が多いことなどの特徴があります。

 

5. 最後に

 

進学に関して、なんとなく人気のあるところを志望してしまう人が多いのではないかと思いますが、今後何十年と関わっていく分野を決めるわけですので当座の流行に振り回される必要はないと思います。システム量子工学のアプローチに共感を覚えた人は是非本学科に来て大きな舞台に挑んでみてください。

 

<進学に関する情報>

 

システム量子工学科のホームページhttp://www.q.t.u-tokyo.ac.jpには本学科に関する詳しい情報があります。または、高橋助教授(内線27007、leo@q.t.u-tokyo.ac.jp)、システム量子工学科事務室(内線 26962、工学部12号館1階)まで連絡してもらえれば個別の相談にのりますのでどうぞ気軽に問い合わせてください。