学科紹介

工学部土木工学科
社会基盤工学部門・社会基盤システム計画部門

工学部土木工学科進学ガイダンス
担当  藤 野 陽 三    

1. 土木工学とは
 私達の生活は,いろいろな基盤装置(インフラストラクチャー)の恩恵の中で成り立っている.
 たとえば,電気,ガス,水,電話などは生活を行う上で欠かせない.「水」を考えてみれば,河川からのダムによる貯水・取水から始まって浄水,配水,下水そして下水処理からなる一連の大規模な装置を完備させ,正しく機能させなければならない.人やものが移動するときには,道路,鉄道,空港,港などを使うが,これらもすべて生活を支える装置である.

 私達の生活を安全にそして美しく豊かに営むのに不可欠なこれらの基盤装置を計画・設計し,それらを作るとともに運用していくのが土木工学,社会基盤工学なのである.安全で美しく生き生きとした国土,生活空間を作ることが「土木工学」の目標である.諸君がよく知っているように,狭隘な国土,厳しい自然条件の中にあって残念ながら豊かな生活空間と言うにはほど遠いのが現実である.土木工学がなすべきことがまだまだ山積しているということであり,そこに土木エンジニアの活躍の場がある.

 一方,これまで培ってきた我国の土木技術のレベルは高く,この高い技術を発展途上国を中心とした諸外国の社会開発に役立たせ,安全で美しく生き生きとした世界を築き上げていくことも我々土木技術エンジニアに課せられた大きな課題なのである.

 土木事業は有形,無形の文明装置を作り,地球を塗り替え,世の中を変えていく.往々にして装置あるいはシステムの規模は大きく,期待される寿命も50年,100年あるいはそれよりもずっと長いと思われるものもある.

 規模が大きいということは概して多額の費用を要するということであり,社会・環境への影響が大きいということでもある.公的な費用でまかなわれることが多く,無駄な使い方は許されず,環境生態への配慮も欠かせない.50年,100年を見通した先見性のある,そして社会に対して説得性のある計画が必要とされる.我々のつくるものは50年,100年と長く使う間に想定される,地震や風,環境の変化に備えたものでなければならない.そのためには自然の振る舞いに対する深い理解を必要とする.海,河,岩,土などは勿論のこと,動植物さらには人間など自然を構成する要素を分析し,そのメカニズムを知らなくてはならない.装置の材料となるコンクリートや鉄についても同様である.

 自然の中におかれる装置をいかに組みたてて,安全で長持ちし,使いやすく,そして美しいものとするか,すなわち設計・デザインは難しい作業であるが,極めて創造的な作業でもある.実際に装置をどのようにしてつくるか,つくったものをいかに維持管理し,必要に応じてアップグレードし,あるいは更新していくか,こんなことも大きな仕事である.

 土木事業はスケールが大きく,多種多様な技術を必要とする.電子情報技術,機械技術,化学技術を援用することも多い.これらの技術をうまく活用して装置を組み上げていく,すなわちintegrateしていくことも大切な要素である.とくに最近の電子情報技術の発展はめざましく,リモートセンシング,GISなどは土木技術を支える主要な技術の一つになりつつある.広い地域を相手にする土木事業を進める上で,リモートセンシングなどによる地域情報の環境保全,持続的開発あるいは防災への活用は急速に進みつつある.これらは単に利用するだけでなく,土木工学の中の研究開発分野として定着してきている.

 ともかく,時間的にも空間的にもスケールの大きい土木工学・土木事業を支えるのは,計画を中心としたソフト技術とものづくりに係わるハード技術である.社会を,人間を,そして自然を相手にしたダイナミックな分野なのである.逆にいえば,社会や人間など文系に興味のある人も,プランニングに興味のある人も,自然のメカニズムや数理的なことに関心のある人も,ものづくりが好きな人も,環境に興味のある人にも土木工学では活躍の場があるということである.

 「土木」というと,道路工事,山奥でのダム造りなどのイメージが少なからずあるのではないかと想像する.確かに,これらも大事な土木事業ではあるが,実際にはもっとずっとずっと広い範囲をカバーしている.英語名のcivil engineeringという言葉が示すように,社会・市民のための工学であり,土木技術者とは地球の舞台装置をつくり,それを守っていく集団,環境を創出するグループとでも考えていただけたら正しいのだと思う.

2. 学部教育・大学教育
 これまで述べてきたように「土木工学」の分野は多岐にわたる.経済学,人間学を含む計画学,ものづくりにかかわる設計学,施工・マネジメント学,それを支える固体・流体の科学をはじめとする基礎サイエンスなど学ぶべき内容は多い.

 学部教育では,このような幅の広い土木工学を入門的な科目,基礎的な科目から高度な科目までカバーするように用意されている.標準的なカリキュラムは提示されているものの,教官のアドバイスのもとで学生の責任において自分で受講計画を作ることとなっている.実際,幅広く履修する学生もいるし,ある分野に集中して履修する学生もいる.必修科目はなく,自由度の高いカリキュラムとなっている.なお,「社会基盤工学」部門と「社会基盤システム計画」部門とでは,限定選択科目のメニューが異なっている.

 大半の学生が大学院修士課程に進学していることを配慮して,学部時代に大学院の講義も履修可能にしてある.このことにより,学部・大学院の時間を効率よく過ごすことが可能となる.事実,大学院修士課程を短期修了する学生も出てきている.

 また,学部のいくつかの科目では所定単位数以上の勉学に励み,通常の課題を越えた成果を挙げた学生にはさらに土木工学研究として単位の上乗せをするシステムを導入している.この他,少人数の学生と教官による土木工学セミナーなどの従来の講義形式と異なる科目や見学,実習などバラエティに富んだ科目が用意されている.

3. 卒業後の進路
 8割を越える学部学生が大学院修士課程(主に社会基盤工学専攻(定員約60名))に進学しているのが現状である.なお,大学院の社会基盤工学専攻では我が国ではじめて,英語による教育を柱とした国際コースを開設し,優秀な留学生をアジア,欧州,北米,南米などから数多く受け入れており,国際色豊かな大学院生活が展開されている.日本人大学院生には英国人教師による「技術英語」が開設され,英語によるコミュニケーション,プレゼンテーション能力の育成がはかられるようになっている.

 卒業生の進路分野は多岐にわたるが,土木事業が公的機関で行われることが多いのを反映して,建設省,運輸省,日本道路公団,東京都などに進む者が全体の約30%に達する.東大・土木工学科の卒業生はこの分野で特に活躍しており,例えば今の建設省事務次官は昭和39年卒業の我々の先輩である.公的機関に進むと,プロジェクトの企画,評価,執行などの仕事をするのが普通である.
 実際にものをつくる建設会社に進む学生も多く約30%に達する.この他電力会社などのエネルギー関係,JRなどの運輸通信関連に進むのが20%近くいる.他には調査・設計を行うコンサルタント,都市開発などを行う商社などに進んでいる.博士課程に進み,研究者を志向する者も10%内外いる.

 学部で就職する学生と大学院修士課程を終えて就職する学生とで就職先に大きな違いはないが,どちらかといえば修士課程の学生が研究開発設計関連の仕事につくことが若干多いように見受ける.

4. 東京大学土木工学科
 東大土木工学科卒業生はインフラストラクチャーに係わる公的機関,企業などでふさわしい地位について大変活躍してきており,この分野で大きな影響力を持っている.その活躍ぶりは同窓会名簿を見ていただければわかるので,進学情報センターで閲覧できるようにしておくので,興味のあるひとはみていただきたい.

 その人材を輩出してきた土木工学科や社会基盤工学専攻の教官も世の中をリードする人材から成り立っていると言える.教官は本学土木工学科出身の方が多いが,他大学出身もおり,専門も理学出身,経済出身などバラエティに富んだ陣容である.教養学部での講義「東京のインフラストラクチャー」を聴講した学生ならば,教官がいかに多士多彩で,いろいろ研究が行われているかがわかろう.

 「土木工学」というと伝統的,保守的なイメージがあるが,東大土木工学科は工学部の中でも進取性の高い,そして活発な教官団の集まりとして知られている.教官の平均年令もおそらく工学部で一番若く,元気な若い教官と学生とが接する機会も多い.

5. おわりに
 社会基盤事業,言い換えればインフラストラクチャー事業はその性格から,社会・人間・自然を相手に,先端的な技術を活用しながら進めていく必要がある.このような幅の広い仕事の内容から,社会を見て仕事をしたい人,人間を相手に仕事をしたい人,自然を相手に仕事をしたい人,リーダーとして社会を引っ張って仕事をしたい人,総合的なエンジニアになりたい人は土木工学に向いていると思う.元気な学生諸君が進学してくれることを大いに期待しています.

 なお,土木工学科・社会基盤工学専攻に関するより詳細な情報,とくに具体的な研究内容などを知りたいひとは,ホームページ http://www.civil.t.u-tokyo.ac.jpを見て下さい.