理学部地球惑星物理学科

進学指導担当 松田 佳久

地球惑星物理学科は,近年の地球物理学の急速な発展に対応するために,従来の地球 物理学科と地球物理研究施設を統合する形で平成3年度に創設された新しい学科である. 地球物理学は,かつては,物理学を基礎として地球(地球内部,海洋,大気)を探索 し,研究する学問分野であった.1960年度以降,ロケットや人工衛星などの観測 手段の発達により,研究対象は,超高層大気から地球周辺空間へと拡大した.更に, 月や惑星にも直接探査が及ぶにつれて,従来は天文学の対象であった太陽系内の諸天 体も,地球と同様に地球物理学的手法によって研究することが可能になった.このよ うな月・惑星に関する研究の発展は,地球を含む太陽系の起源と進化についての研究 を促し,地球及び惑星の形成・進化の過程を理解しようとする学問分野が誕生するに 至った.他方,地球そのものの研究においても,1960年代以降,地震,地球磁場 ,地殻熱流量,海洋底年代等の測定が全地球規模で行われるようになり,これらの観 測結果を総合してプレート・テクトニクスと呼ばれる新しいパラダイムが生まれ,同 時に地球を構成している物質の高温・高圧下での状態を実験的に調べることができる ようになって地球内部状態の研究も飛躍的に前進し,固体地球科学は一新した.また ,近年の急速な人間活動の拡大に伴う地球環境の変化が人類の生存にかかわる重大問 題として認識されるようになり,大気・海洋・地表面・生物圏の相互作用による気候 変化のメカニズム,更には固体部分をも含めた地球システム全体の変化のプロセスを 総合的に理解しようとする地球システム科学が21世紀へ向けて胎動しようとしている.

(1) 研究分野と教育目的
地球惑星物理学は,地球,惑星及びそれを取り巻く環境の現在の姿と変動ならびに進 化・発展の過程を総合的に理解しようとする学問分野である.具体的には,固体地球 ,大気・海洋,電磁圏及び地球周辺空間で生起する様々な現象の物理過程を解明し, それらの物理過程の相互作用によって保持されている地球システム全体の活動を総合 的に理解すること,また,現在の地球活動は一太陽系惑星としての地球がこれまで辿 ってきた進化の歴史の延長上にあるという視点に立って,地球・惑星系の形成及び進 化・発展の過程を統一的に理解すること,更には,地震・火山噴火予知,天気予報, 人間活動の拡大に伴う地球環境の変化予測等の学問的基礎を確立することを目的とし ている.こうした目的を達成するために,地球惑星物理学科では,以下に紹介する4 つの研究グループが互いに協力しながら研究・教育活動を行っている.

 固体地球研究グループ:現在の地球及び惑星の姿と変動を総合的かつ統一的に理解し ようとする広範な学問領域の研究を行っているグループである.具体的には,地球及 び惑星内部の構造ならびに構成物質と高温・高圧下での状態に関する研究,地球及び 惑星内部における熱・物質輸送ならびに化学分化過程に関する研究,マントルのダイ ナミックスとプレート運動に関する研究,コアのダイナミックスと地球磁場の成因に 関する研究,地震活動,火山活動,地殻変動などの地球表層活動に関する研究,地球 表層活動と地球深部活動の相互作用に関する研究等を行っている.

 大気海洋研究グループ:地球の流体圏である大気と海洋の構造及び変動のメカニズ ムを総合的に研究しているグループである.具体的には,地球や惑星の流体圏に生じ る様々な対流運動,各種の波動及び不安定現象についての基礎的研究,モンスーンや 台風に関する研究,地球や惑星の大気大循環のメカニズムを明らかにしようとする研 究,海洋の構造と深層循環に関する研究,海洋大循環,海流,長周期波動に関する研 究,大気と海洋の相互作用を明らかにしようとする研究等を行っている.

 地球惑星圏研究グループ:地球及び惑星を取り巻く中性・電離大気と磁場,それら と太陽電磁放射や太陽風との相互作用を総合的に研究しているグループである.具体 的には,太陽放射と地球・惑星大気との光化学的相互作用とそれによって生じる諸現 象の研究,地球・惑星を取り巻く磁気圏の構造とダイナミックス(磁気圏対流,磁気 圏嵐,オーロラ現象)に関する研究,惑星間空間を満たす希薄なプラズマ中の物理過 程(粒子加速と輸送機構,波動・粒子相互作用,プラズマ不安定性と非線形波動現象 )に関する研究等を行っている.
地球惑星進化研究グループ:地球及び惑星の形成ならびに進化・発展の過程を地球惑 星システムの物理過程としてとらえ,総合的に研究しているグループである.具体的 には,数値シュミレーションによって地球・惑星の形成・進化過程を解明しようとす る研究,隕石や惑星物質の物理学・化学的性質を調べることによって地球及び太陽系 の起源を明らかにしようとする研究,惑星探査によって得られた様々な観測データの 解析から太陽系惑星の内部構造,組成,これまでの活動の歴史を明らかにしようとす る研究等を行っている.

(2)大学院
地球惑星物理学科の卒業生は,そのほとんどが本学大学院地球惑星物理学専攻に進学 する.地球惑星物理学専攻は,地球惑星物理学専攻の教官と理学部付属の地殻化学実 験施設,東大付属の地震研究所,海洋研究所,物性研究所,宇宙線研究所,原子核研 究所,気候システム研究センター,先端科学技術センター及び国立宇宙科学研究所の 所属する教官約80名で構成されており,地球惑星物理学のほとんどすべての分野に わたっての研究・教育活動を行っている.
 大学院では,各専門分野に分かれ,各々の指導教官のもとで研究活動に参加するこ とになる.修士課程では,地球惑星物理学の分野の専門家として必要な知識を修得す ると共に,研究活動の成果を修士論文にまとめる.博士課程は,独立した研究者の養 成を目的としている.したがって,博士課程を修了する(学位を取得する)には,独 創性のある研究を行い,その成果を博士論文としてまとめ,一人前の研究者として認 められる必要がある.
 大学院修士課程の受入定員は学部定員よりも多いが,他学科,他大学からも多数の 応募があるので,例年,入学志願者は定員の2倍程度となる.選抜試験は,すべての 入学志願者に対して同一の規準で行われる.

(3) 卒業後の進路
本学科の卒業生に対する社会的需要は多いが,学部卒業後直ちに就職する者は全体の 1割程度であり,残りの9割程度の卒業生は大学院に進学する.修士課程の学生の内 4割程度は修士課程修了段階で就職し,残りの6割程度の者が博士課程に進む.

 学部卒業段階での就職先は,民間会社(石油資源開発関係,海洋開発関係,計算機 関係,建築関係,電気・鉄鋼関係,金融関係など多種多様)と国立機関(気象庁,同 気象研究所,科学技術庁,同防災科学技術研究所,環境庁,同公害研究所,建設省国 土地理院,通産省地質調査所,同電波研究所,同公害資源研究所,海上保安庁水路部 ,水産庁水産研究所など)が半々であるが,修士課程修了段階では,民間会社よりも 国立機関への就職を希望する学生が多くなる.いずれの場合も,国立機関へ就職する ためには,国家公務員上級試験に合格していることが必要条件となる.博士課程を修 了すると,殆どの者が大学や研究所などの研究・教育を目的とする機関への就職を希 望するが,求人は不規則である.したがって,希望した大学や研究所に就職すること ができるか否かは,各人の能力や研究業績ばかりでなく,偶然にも左右される.


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