学科紹介

工学部 船舶海洋工学科

大学院工学系研究科 船舶海洋工学専攻
広報担当  影山和郎

海洋と人類の共生をめざして

 海洋はエネルギと資源の宝庫です。将来避けて通れない資源エネルギ問題を解決する一つの鍵に海洋開発があります。さらに海洋空間そのものを利用する海上都市計画構想などの雄大な計画も進行中です。さらに、これからの地球環境の改善と海洋利用が結びついた色々の技術の挑戦が始まりつつある時期であると我々は考えています。船舶に比べれば更に巨大な構造物や、海上でなく水中・深海における移動体や固定基地など、その対象とする人工物は多岐にわたります。蛇の様なくねくねした水中構造物、水中の無人探査機など、船舶の姿からは想像もできない人工物がすでに研究・開発対象になってきています。これらの新規性の高い人工物の実用化は宇宙空間が先か海洋空間が先か、これからの人類のニーズで決まるでしょう。我々の挑戦はすでに始まっています。

未来社会と船舶海洋工学科

 現代ほど未来を予測することが困難な時代はないでしょう。教養課程(理一、理二)の皆さんが進学先を決めると言うことは、自分が将来どのような仕事をすることになるか、その大きな方向を決めることだと思います。大切な人生の選択になるわけですから、皆さんが第一線で活躍される未来の社会がどのようになるのか、工学部的見地から少し考えてみましょう。

 国際分業が多くの産業分野で一般的となり、資材調達、生産、物流を常に国際的視野で考えなければならないでしょう。労働集約型から頭脳集約型への移行が加速され、情報インフラ整備の促進とあいまって、国内産業も非製造業やソフトウエア産業に従事する人口が相対的に増大するでしょう。このように、私たちを取り巻く産業構造は、今後とも目まぐるしく変化し続けるものと思われます。また環境問題、エネルギ問題の深刻化、高齢化社会・情報化社会の到来、余暇および労働力の有効利用などの社会問題をドライビングフォースとする新規産業の創成や展開が、より一層推進されていくものと思われます。

 私たち船舶海洋工学科は、産業構造の変化に柔軟に対応でき、新規産業の創成/展開に対して独創的な仕事ができる人材を社会に送り出したいと考えています。ただしそれは、広範囲な知識を求めることをめざすものではありません。「一芸に秀でれば多芸に通じる」という仮説を信じて教育することを、基本的な教育方針にしています。例えば、本学科では演習を重視していますが、それは、限られた知識を活用して問題の解決を試みるそのプロセスを、知識の量を増やすこと以上に重視しているからです。

カリキュラムの特徴

 工学の2本柱はANALYSIS(解析)とSYNTHESIS(総合)であるという考えを、教育方針にしてカリキュラムを編成しています。3年生になるとすぐCADによる演習と設計の演習が始まります。計算機による設計や解析はごくあたりまえなものとなります。さらに独創的なアイディアを競い合う設計演習があります。それらを可能にしているのは、他学科にみられないはどの計算機環境の充実さです。CAD室には25台のワークステーションが、多くの有用なアプリケーションソフトウェアとともに諸君の利用を待っています。計算機を使う演習では1人1台のワークステーションがあたりまえのことになっています。演習以外にも計算機を学生に解放していますので、インターネットの利用も本学科の学生にとっては、日常のことになっています。このように恵まれた計算機利用環境としっかりしたハードウェア開発技術の両輪を備えているのが本学科の強みです。

 人力船の全国大会に参加してその成果を試す活動も学部教育の一環として行われています。人力船では学生部門1位3位を占めた実績を誇っています。新型高速船開発に多数の4年生と修士課程の学生が参加したり、1993年からは、アメリカズカップのヨット開発設計に大学院生から卒論生までの多数の人が参加したりしています。1995年のアメリカズカップ参加艇の開発設計に多大な貢献をしています。

 大学院に進学すると、卒業論文よりさらに専門的な研究を行うことになりますが、超軽量ディンギーの設計・試作、巨大海上都市計画など学生の創意工夫を尊重した教育を行っています。

卒業論文への取り組み―研究室の紹介

 本学科に進学すると、4年生の6月から卒業論文の研究に取り組むことになります。10研究室のいずれかに配属になり、アナリシスとシンセシスをより深く体得することになります。卒業論文について説明するため、各研究室の研究活動について簡単に紹介します。

輸送システム計画研究室では、新海上輸送システムの開発、アメリカズカップ艇の技術開発、流体の力学に関する研究を行っています。

流体工学研究室では、プロペラ、ポンプなど液体の流れを利用する機械の研究、極地開発のための氷海工学に関する研究を行っています。

構造システム工学研究室では、船舶、航空機、自動車などの構造物の強度と安全性を計算機を使って設計、解析する方法を研究しています。

生産システム工学研究室では、船や海洋構造物を計算機の中に表現し、より創造的な設計が行えるような設計システムを開発しています。

設計工学研究室では、大規模で色々な分野の技術を総合することで成り立つ製品の設計、生産に関わる情報技術を中心に研究を行っています。

安全評価工学研究室では、あらゆる構造物が抱える問題、破壊事故を防ぐための、材料と構造物の破壊と強度に関する研究を行っています。

海洋流体力学研究室では、海洋環境を守るための、大部分を陸に囲まれた閉鎖性海域(東京湾、大阪湾など)の海流の流れを解明しています。

海洋機器工学研究室では、プラスチックを炭素繊維で強化した複合材料を高速舟艇、航空機、宇宙機器などへ応用する研究を行っています。

海洋空間計画研究室では、環境と調和した居住空間を利用する海上都市計画を掟案しています。

実現化工学研究室では、工学の本質を「もの作り」に置き、情報化社会において効率よく製品を実現化する手法について研究しています。

おわりに

 船舶から海洋へどんな大きなシステムでも実現してきた本学科は、陸上や宇宙の色々な新しいシステム開発の分野で活躍する卒業生を生み出してきました。海上原油基地、超電導船、リニアモーターカー、宇宙ロケット・・・

 大規模システム、総合化工学、実現化工学、プロジェクト・マネジメントは私達のためのキーワードとなりつつあります。創意工夫に富んだ学生諸君の参加を期待しています。

 本学科のことをもっと詳しくお知りになりたい方のために、本学科はインターネットのホームページを準備しています。WWWのブラウザでhttp://www.naoe.t.u-tokyo.ac.jp/index-j.htmlにアクセスしてみて下さい。船舶海洋工学科の概要、歴史、教官紹介、研究室紹介、講義一覧など、この紹介記事に書ききれなかった色々な情報を調べることができます。進学情報の一助にでもなれば幸いです。


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