学部紹介

教養学部後期課程の改革と進学振り分け       

元教養学科第一委員長

大学院総合文化研究科

広域科学専攻科長  田辺 裕

 後期課程の学問的理念に関しては、先の教養学部報(402号)において、すでに述べているので、ここでは、学生諸君にとって関心の深い進学振り分けがどうなるのかについて解説することとした。ただし、まずお断りしておかねばならないが、進学振り分けの制度については教養学部が単独で決めるものではなく、全学の委員会で決定されるものであること、その最終決定はまだ行われていないことである。その委員会への原案は、私が座長をつとめていた後期運営委員会準備会において1年近くかけて議論してきたものを基礎に教養学部塞ができているので、ここではそれをふまえて紹介することにする。したがって、これはあくまでも原案であって、全学のいわゆる連絡委員会において修正があり得るということは申し添えておく。

 新たな後期課程

 教養学部後期課程がどう改革されるのか、各学科分科がどう改編されるのかについてはすでに紹介したが、ここでもごく簡単にまとめておく。後期課程は、超域文化科学科(文化人頬・表象文化論・比較日本文化論・言語情報科学の4分科)、地域文化研究学科(アメリカ・イギリス・フランス・ドイツ・ロシア東欧・アジア・ラテンアメリカの7分科)、総合社会科学科(相関社会科学科・国際関係論の2分科)、基礎科学科(科学史科学哲学・数理科学・量子科学・物性科学・生体機能の5分科)、広域科学科(人文地理・広域システムの2分科)、生命・認知科学科(認知行動科学・基礎生命科学の2分科)の合計6学科22分科に改編された。

 教官組織は今年1996年4月からこの新組織に移行したので、すでに従来の教養学科の先生はいないことになる。しかし、学生の進学は今年の入学生からとなるので、現2年生は従来通り、教養3学科、基礎2学科に進学する。したがって今年度以降に卒業予定の学生諸君の卒業判定などは、分科によって、新制度の教官組織が行うことになる。たとえば教養学科第一の表象文化論の学生は、超域文化科学科が、科学史科学哲学の学生は基礎科学科が扱うことになる。もちろんどこを卒業しようとも「教養学士」に変わりはないし、卒業のための単位数なども変わっていない。くりかえすが、ここで述べる進学振り分けは現1年生以降を対象としている。

 進学振り分け

 まず、旧基礎科学科第二は、まったく従来通りの振り分け条件で新広域科学科広域システム分科となるため、わざわざ解説する必要がないので省略する。それ以外の学科分科については、文科生と理科生とで若干の変化がある。

 たとえば文科生は、超域文化科学科の各分科と地域文化研究学科、総合社会科学科および基礎科学科の科学史科学哲学分科、広域科学科の人文地理分科、生命・認知科学科の認知行動科学分科に、従来の教養3学科とまったく同じ条件で進学できる。したがってこれら3学科と理系に移る3分科とにまたがって第一志望のa・b・Cを書くことができる。もちろん全体として科類ごとの上限定員があり、各学科分科にも上限定点があることは従来通りである。ただし、分科の上限定員は、超域文化科学科の4分科と科学史科学哲学・人文地理・認知行動科学の3分科は従来通り8名となっているが、地域文化研究学科では、従来の各分科の上限定員を廃止し、学科全体で45名(臨時増募が終わるまでは50名)を上限として一括してとり、その後で各分科に分かれて行くような、旧教養学科第三の方式を考えている。

 他方、理科生は、超域・地域・総合社会の3学科についてのみ、従来のようなプール制による振り分けを行う。つまり理科生は、これら文系3学科と基礎・広域・生命の3学科に移った科学史科学哲学・人文地理・認知行動学とにまたがって、a・b・cなどと第一志望で志望を書くことはできないが、他方、これら3分科間や基礎科学科や生命・認知学科の他分科にまたがることは許される。また理科生の上記文系3学科に進学する上限は従来の20名が14名となり、理科生の文転できる上限定員は減少する。しかし基礎科学科の科学史科学哲学分科、広域科学科の人文地理分科あるいは生命・認知科学科の認知行動科学分科に進学を志望する理科生は、3分科あわせて上限定員が9名となるので、むしろ理科生の進学の自由度は増すといえるだろう。基礎科学科、生命・認知科学科と広域科学科人文地理分科は、全体がプール制となって、従来の教養学科のような振り分けを行えるよう考えている。したがって、これらの理科生の定員も考えれば、教養学部後期課程への理科生の進学定員総数はまったく変わっていない。

 つまり後期課程全体を見れば、各科類からの進学予定数は従来と同じで、ただ従来のプール制の枠組みが文科生と理科生とで若干傾斜を持たせたということである。旧教養学科第一から理系3学科に移った3分科は、いわば一般教育科目の総合科目Dのようなもので、文科生にとっては文科系学科と同じグループ、理科生にとっては理科系学科と同じグループで振り分けが行われるということである。

 新たな試み

 今回の改編ではいくつかの新たな試みが行われている。第一には、新たな分科の誕生である。文系では言語情報学分科、理系では基礎生命科学分科が新設される。教養学部が大学院重点化を目指して改組された際、多くの専攻・系が既設の大学院を再編して発足したが、言語情報科学は大学院として4年前に新設されたもので、新分科はこれに対応する後期課程である。たとえばいわゆる英語・英文学科が個別の言語・文学に特化し、また地域文化研究が地域の言語を、地域の人文・社会・自然現象と関係づけて考えるのに対して、国語を含めたさまざまな言語の教官が共同で、言語にかかわる現象をメディア論から意味論まで広く追求しようとする。また基礎生命科学分科は、従来の基礎科学科に包含されていた部分と、心理学・保健体育学から発展した認知行動学やスポーツ身体運動科学からなる大学院の生命環境科学系の後期課程として、認知行動学分科とならんで設置された。

 第二は、カリキュラムの改編である。従来教養3学科のみにあった共通科目が、後期課程全体についての共通科目となり、共通科目に理系の科目が増えたと言う点で、後期課程の総合性が高められている。

 また地域文化科学科では、分科構成とは別に、所属分科の履修科目とは異なるメニューの科目表にしたがって履修する特設のコースを設定する。ヨーロッパコースやユーラシアコースがそれである。たとえばドイツ科に属してヨーロッパコースをとることもできるわけである。これは統合に向かっているヨーロッパの現状により適合した教育体系を作ろうとする試みである。地域を国単位で議論するより、とくにヨーロッパの場合、広い視点から学ぶ必要が大きくなってきているからである。副専攻はこの学科のみ継続される。

 第三は、たびたび触れたように、科学史科学哲学分科、人文地理分科、認知行動学分科が、従来の教養学科の枠を飛び出して新たな学科に参加することになったことである。これは理系の学科に移ったというのではなく、理系3学科がいわば総合系に変質したということである。見方によれば、文系3学科と総合系3学科が誕生したというべきかもしれない。つまり、いよいよ教養学部的に、文科でも理科でもなく、文理融合型あるいは文理横断型の教育体制によって、環境・エネルギー・人口・都市化など人文科学・社会科学・自然科学という学問分業体制では解けない問題に立ち向かう基礎を構築しようとするのである。この教養学部後期課程の改革はいわば、21世紀を生きる若者が新たな知の地平線を開くことを期待してこの教養学部後期課程の改革は行われているのである。

 知的冒険心をもった若者が、教養学科創設時の学生たちの先輩諸兄姉のように、この新たな実験というべき改革に参加することを切に望んでいる。


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