薬学部

 

薬学部進学担当教官

長野 哲雄 

 

 

1. はじめに

 

この学部ニュースを読んでいる二年生の中には,自分の進路・進学先の学部選択で悩んでいる人も多いことでしょう.自分の将来をかなり左右するこの進学振り分けをいい加減な気持ちで決めていいはずはありません.十分に納得するまで考えてみてください.

ここで重要なことは君たち自身が「自分は将来何をやりたいか,あるいは何をやるつもりか」がはっきりしていることです.これが決まっていなければ,『点数が手頃』『卒業までが楽』『友達が行くから』などのつまらない理由で進学し,進学後に『こんなはずではなかった』『あちらの学部の方が自分に向いてそうだ』などと後悔することになります.

いま“自分は将来何をやりたいか,あるいは何をやるつもりか,を決めることが大切だ”と書きましたが,はたして諸君のうちの何人が自分の将来のビジョンを持っているでしょうか.実はこのビジョンを持つことはなかなか難しいことで,19才や20才で誰もが確固たる自分の将来像を描けているわけではありません.しかし一方では,おぼろげながらも『このような仕事や研究が自分に合っていそうだ』という感触ぐらいは誰もが持っていると思います.

そこで私が強調したいことは自分が少しでも興味を持っている学部や学科があれば,その学部や学科のことをよく調べることです.先輩でそこに進学している人もいるでしょう.先輩に聞くときは1人だけではなく,出来るだけ複数人それも1〜2年の先輩ではなく最低でも4〜5年のすでに大学院に進学している人や社会人となっている人の方が,長期的な自分の将来像を描く上からは,より的確なアドバイスがもらえるでしょう.それと同時に興味のある学部,学科を一度は訪ねてみることも重要です.学部学科にはそれぞれ独特の雰囲気があり,その雰囲気に触れるだけでも判断する際の参考になります.進学すれば人生の重要な2年間あるいは大学院に進学した場合は更に2から5年間をそこで過ごすことになるのですから.

 

2. 学部学生にとっての薬学部

 

さて前置きが長くなりましたが,以下に薬学部の紹介をしましょう.

学部の紹介の詳細は「進学のためのガイダンス」に載っていますので,詳しくはそちらを熟読して下さい.ここではその中でも特に重要と思われる点を抜粋して紹介することにします.

薬学部と聞いた場合,皆さんは何を思い浮かべるでしょうか.薬をこねて調剤している姿でしょうか.しかしながら,実際の薬学部の姿はそれとは大きく異なっています.薬は生命の仕組み・病気の原因など,生命に関する総合的学問の上に立ってはじめて生み出されてくるものです.ですから薬学部は生命科学のすべてを研究対象にしている学部といえるでしょう.調剤だけを行っているわけではありません.『バイオ』『生命』といった言葉が昨今はよく使われていますが,薬学部は明治初頭の薬学科の設立以来,100年以上にわたって生命科学を研究し続けてきております.

現在,薬学科と製薬科学科の2学科がありますが,この学科の区別はほとんどなく卒業時点で選択科目の単位の取得状況によって学科を決定できるようになっています.薬学においては授業とともに特に学生実習に重点をおいており,三年生の週日の午後の1年間はこの実習を行い,四年生では希望の講座で1年間卒業実習を行うことになります.現在,学部には18講座有りますが,これらの講座は物理化学系,有機化学系,生物系,薬理系に分けることが出来ます.学部以外で医科学研究所,分子細胞生物学研究所,病院薬剤部,医学部保健学科にある薬学系の講座にも配属が可能で,この卒業実習は実質的に大学院での研究内容と異なることはなく,世界の最先端研究である場合が多く,優れたデータが得られた場合には当然それらは一流の学術雑誌に掲載されることになります.

 

3. 他学科との違い

 

薬学部の授業及び研究内容が理学部の化学科,生物学科,生物化学科と比較されることがよくあり,その違いについて述べてみましょう.

薬学部を卒業すれば薬剤師国家試験の受験資格が得られますが,当然これは薬学部卒業生に対してだけ与えられるものです.当学部を卒業してこの免許を有効に活用している人はそれほど多くはありませんが,「いざという時,役に立った」という話をよく聞きます.

また薬学部における研究テーマは基本的には上記の学科と大きな違いはありませんが,薬学部の性格上,人間の病気を見据えたテーマが多く,この点で生命に対する捉え方が上記の学科と少し異なるように見受けられます.むしろこの点では医学部の基礎の講座の研究テーマに近いでしょう.しかしいずれの学科とも異なるのは,生命科学の幅広い知識を身につけることができる点でしょう.それは,薬学部が学科単位ではなく学部全体で研究発表会などを行うことから18講座の各教室間の横のつながりが密で,その中には物理化学,有機化学,生物化学,薬理学,製剤学など多岐にわたる学問領域があり,必然的にこれらの第一線の研究を学ぶことによるのでしょう.生命科学を研究する上からは恵まれた環境にあるといえます.

結論的には講義および研究内容として理学部の化学科,生物学科,生物化学科さらに医学部の基礎をすべて合わせた学部と考えればよいでしょう.

 

 

4. 卒業後の進路

 

次に卒業後の進路については説明しましょう.

図1には平成2年度から平成6年度までの過去5年間の進路状況について示してあります.これを見ると学部卒業生のほとんどが大学院に進学していることがわかります.この大学院入学試験は毎年8月末に行われており,10名前後の不合格者が出る一方で他大学からの入学者も10名程あります.

大学院修士課程修了者の進路は約半数以上がそのまま博士課程に進学し,残りは主として民間企業に就職しています(図2).民間企業ではかなりの人が研究職に就いており,それ以外では開発課,学術課など研究所との橋渡しあるいは統括的役割を果たすことが多いようです.

大学院博士課程修了後は国公立大学及び私立大学の教職,外国留学,国公立の研究所,など行き先は千差万別ですが(図3),一部の例外を除いてほとんどが研究職に就いています.学部学生1学年80名の小さな規模の学部で1年に40名弱の博士を輩出している点からかなり研究指向の強い学部といえるでしょう.将来企業において研究職に就くことを希望しているものは少なくとも大学院の修士課程を修了していることが望まれています.

 

5. おわりに

 

はじめにも書きましたように,学部進学に際して悔いのないように十分に調べて,実りある学生生活を送ることを願っています.薬学部に関して質問ある人はどうぞ下記まで.

 

進学相談: 長野哲雄 TEL (03)3812-2111 ext 4851, FAX (03)5684-2395