物理工学科長 西 敏夫

 

近代工業化においては専門性を重視し、工学部の学科も各産業別に編成されていた。これに対し、既成の固定した工業分野にとらわれることなく、広い物理学的あるいは数理科学的素養を武器にして、未開拓の工業分野に清新なエネルギーを注入できるような人材を育成する目的で創設されたのが物理工学科であり、計数工学科である。まだ創設以来50年にも満たないが、半導体産業・高分子産業の立ち挙げと発展に寄与した人材を輩出し、また日本産業界の品質管理とコンピュータ産業をリードしてきた。現代はますます、多様化を重視した幅広い能力が求められており、それに応える学科群である。

教養学部の1年半での進学振り分けによりまず応用物理学部門に進学し、1学期間の専門教育の入門を受けた半年後に、物理工学科、計数工学科の数理コースと計測コースに志望と成績によってさらに振り分けられる。物理工学科の教育の特徴は、物理学や数学などの基礎的学問の修得を、特に学部学生に対して強く要求している。そのためにまず演習と実験により、数学や物理学を現実に身につけ、1年間の卒業実験へと続けていく。さらに、大学院及び工学の現場でそれを有効に生かせることを希望している。このように物理工学科は肌理細かく、そして懇切な指導を特徴としている。

応用物理学が単に物理学の工学への応用ではないことは、工学と物理学の発展の歴史を見ると明らかである。第二次世界大戦直後の、電子工学の要求からトランジスターが生まれ、それをきっかけに固体物理学が発展した。最近では大規模集積回路に用いる半導体素子を用いて、2次元電子系の量子ホール効果が観測され、1985年度のノーベル物理学賞の対象となっている。また、古くは17世紀初頭に発見された望遠鏡が、天体運動の観測を可能にし、ケプラーの法則が生まれ、さらにニュートンによって力学が完成されたことは有名な事実である。熱の本性に関する法則も、産業革命に伴うワットらの蒸気機関という工学上の発明から展開された。このように物理学と工学はそれぞれ根本的に違った目的を持つのであるが、2本でより合わされて綱ができるように、互いに絡み合って発展してきた。この応用物理部門の卒業生は基礎的な物理学の創設と発展に関わる研究から、企業における応用研究まで幅広い分野で活躍している。

現在の物理工学科の教官の専門分野は、物性理論、物性基礎論、統計力学、計算物理、数値解析、高分子物理、量子ビーム物理、化学物理、量子エレクトロニクス、フォトニクス、半導体物理、高温超伝導、液晶物理、生物物理、表面物理、格子欠陥、光計測など先端産業の基礎となる幅広い分野をカバーしている。物理工学科の卒業生は大部分が大学院に進学するが、物理工学専攻の大学院定員はそれに充分である。また物理工学専攻には、超伝導工学専攻、情報工学専攻、物性研究所、生産技術研究所、先端科学技術研究センターの教官の一部も含まれており、本人の興味にあった多様な選択が可能である。なお、大学院で計数工学専攻を受験することも可能である。いずれにしても物理工学科は、物理・数学を基本とし、工学的センスを持った応用力のある幅広い人間になりたいと願う学生、さらには物理学そのものに寄与することを願う学生には大きく門を広げていると考えてよい。

 

 

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