地球システムとは

       工学部地球システム工学科長

                正路 徹也

 私たちが住んでいる現在の地球では、大気や水の循環、地殻の変動、生態系の変遷という自然システムと、人間活動を機軸とする産業・経済・社会活動という人工システムとが相互に作用し合っている。この相互に作用しあう2つのシステムで構成される1つのマクロシステムを『地球システム』として捉え、それを工学の観点から取り扱うのが『地球システム工学』である。

 地球をあらゆる角度から眺めることなくして、地球とそのシステムを理解することはできない。宇宙には、地球の動態観測を行うための人工衛星が周回し、地下には、地球深部の鼓動を伝える観測機器が設置されている。これらを始めとして、地球からは様々な情報が収集され、解析されて、地球とそのシステムが抱える問題が検討されている。地球がもたらす大きな恵みの1つである鉱物およびエネルギー資源は、人類と現代文明に活力を与えてくれるものであるが、これらの開発・利用と地球システムとの調和は、地球全体を視野に入れて議論されるべき課題である。単に理学・工学の面のみならず、経済社会学的な視点からも考えなければならないテーマである。地球システム工学科では、『地球を対象とし、1つのシステムとして捉える工学』を教育・研究の柱にして、地球システムのフロンティアを指向している。

 地球という大きな対象を相手とする地球システム工学には、資源・エネルギーの開発利用と地球環境・現代社会との関わりをグローバルに捉えるアプローチ、地球そのものの高度利用と未開拓フロンティアへの挑戦を目指す地球エンジニアリングからのアプローチとが存在する。いずれのアプローチにも、先端的個別的技術要素の高度化とその統合、全体システムを把握し見通す洞察力が求められる。

 文明にとって欠かすことのできない資源およびエネルギーを将来にわたって有効利用するためには、その探査・開発から、生産・流通・利用・リサイクルに至るまでのライフサイクルをグローバルに捉える必要がある。資源の開発と利用が地球環境に与える影響、環境と調和した資源開発計画と資源の生産処理技術、国際商品として取引される資源の流通構造や、風力・バイオマスなど再生エネルギーを考慮した上での資源・エネルギーの最適利用システム、資源リサイクルシステム等を分析し、評価する。また、非常に難しい問題ではあるが、次世紀へ向けて、このようなグローバルシステムを動態モデルとして表現してその将来動向を予測し、持続可能な発展と成長を保証する地球システムの将来像を考えるものも地球システム工学における一大テーマである。

 人類の過去の歴史を振り返ってみると、中国やオリエントの古代文明を支えたものは鋼と青銅であった。20世紀の文明に活力を与えたものは石油を始めとする様々な地球資源である。地球はこれらの恵みをもたらしたが、これらは、地球を計測し、解析し、開発・利用することによってはじめて得られた。最近は、地表・海洋・宇宙に続く第4のスペースを地球内部に求める試みもなされている。これは単に未開拓空間を利用するということだけではなく、地球にかかわる自然現象の理解をも促し、地球環境の保全にも貢献する。このような観点からも『地球とエンジニアリングする』ことは、次世代の興味深い研究テーマである。

 地球システム工学専攻は、現在8研究室からなる。それらを詳しく説明するにほかなりの紙数を要するので、ここでは、各研究室が掲げているキーフレイズのいくつかを以下に示す。

  資源・エネルギー問題

  資源戦略・国際商品市場

  地球のモニタリング

  地下の可視化

  岩盤掘削ロボット

  地下空間の高度利用

  資源リサイクリング

  21世紀の資源

  エネルギーシステム分析

  資源確保と環境保全

  超長期シミュレーション

  未来予測シナリオ

 講義の多くは1.5単位(工学部に共通)であり、実験・演習等も含めて合計で70コマほどの講義が用意されている。2年生冬学期に進学先が決定した後、卒業までに履修することを求められる必要単位数は、卒業論文の10単位を含めて、84単位である。地球システム工学科の独自講義としては、50コマほどあるが、いずれも地球という大きな実体を相手とするのに必要な知識・感性・腕前・哲学を共に分かち、若き知性に伝わることを願うもので、(1)地球に関係する諸現象の科学・工学と地球の高度利用を目指した地球エンジニアリング(地球科学、探査・情報学、固体力学・流体力学、資源開発、地下利用、地球フロンティア工学)と、(2)資源・エネルギーの開発・利用と地球環境・現代社会との関係を追求するシステム工学(システム解析、数理計画、システム制御、資源経済学、システム・ダイナミックス、資源政策)のどちらかに重点を置いたもの、あるいは両者にまたがる講義や実験・演習が準備されている。

 進学したばかりの2年生冬学期には、地球システムとその工学を紹介するために「地球システム概論」が開講されるのを始め、地球科学・ロックメキャニクス・数理計画といった基礎的な講義が用意されている。本郷に進学した後には、地球システムを様々な観点から眺め問題提供を行う講義がアレンジされている。講義とあわせて、基礎的な実験・演習とホットな話題を集めたセミナー、数回の見学・実習もあって、頭だけでなく身を持って地球システムと取り組む体勢が整う。4年生になると、すぐ、に卒論研究を行う研究室が決まり、研究室のスタッフと話し合って、テーマを決め研究をスタートさせる。4年生の夏学期には応用的な科目が集められており、卒論研究とあわせて、この時期に大学院進学か就職かを決める。4年生の後半は卒論研究・研究室ゼミに専念することになるが、2月末の卒論審査に合格し、所定の単位を取れば、めでたく卒業、進学/就職の春を迎えることができる。

 地球システム工学科の専門教育は多岐にわたっているので、卒業生の進出分野は極めて広い(下図)。資源開発関係の分野のみならず、エネルギー素材産業、製造業、建設系、官公庁、金融機関・商社、情報・通信・サービス業、教育・研究機関に進出している。

 学部を卒業した後、引き続いて学問を深める場として大学院が置かれている。希望者は所定の審査を受けて修士課程(定員25名)に入学することができる。また、修士課程を修了した後さらに専門的研究を進めたいと希望する人は博士課程(定員13名)に進学することができる。最近は学部卒業後、過半数が大学院に進学しており、より深い専門教育を受け、研究能力を身につけて、国立・民間の研究所、資源・エネルギーあるいは素材・建設関連企業の研究職・専門職の道を選ぶ人が多い。

進学相談 正路(しょうじ)徹也

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