大学院総合文化研究科
広域科学専攻生命環境科学系の
体育学・スポーツ科学関係について

        教養学部体育科 小林 寛道

 近年はスポーツへの社会的関心が高まっていると同時に、身体を運動させることの重要性についての認識が高まり、体育学やスポーツ科学の研究分野が大きく注目されてきている。

 東京大学には、教育学部に体育学健康教育学科があり、文科理科の各類から進学することができる。

 大学院については、これまで教育学研究科の中に体育学専攻があり、体育学専修、スポーツ科学専修、健康教育学専修の3専修があった。

 しかし、平成6年度から、新たに体育学・スポーツ科学に関する大学院が、教養学部のキャンパスに作られることになり、平成6年度は、修士課程7名、博士課程7名(内社会人3名)が、第1期生として入学した。

 駒場キャンパスにおける体育学・スポーツ科学関係の大学院講座は、正式名称では次のようになる。東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻生命環境科学系運動適応科学大講座および認知行動科学大講座。

 すなわち、教養学部の前期課程教育を担当する保健体育科の教官は、運動適応科学大講座と認知行動科学大講座のいずれかに所属するというかたちになっているため、この2つの大講座が、体育学・スポーツ科学関係の教育研究を行うことになる。この2つの講座の内容には、あまり大きな差はなく、担当教官の研究分野による特色が大きいということができる。

 生命環境科学系の体育学・スポーツ科学に関する大講座(運動適応科学・認知行動科学)へは、出身学部に関係なく入学することができる。

 第一期生で、修士課程の入学者は、東京大学教育学部体育学健康教育学科卒業生2名、教養学部基礎科学科第二卒業生1名、理学部卒業生2名(理論物理学、地学)、他大学教育学部卒業生2名となっており、博士課程の入学者は、教育学研究科修士課程修了者3名、社会人3名となっている。

 生命環境科学系と教育学研究科の双方で体育学・スポーツ科学の教育研究を行っているが、それぞれに特徴をもっている。

 第1は、教官の研究分野の専門性である。従って、大学院入学希望者は、どのような領域の研究を行いたいのかが明かであった方がよい。

 駒場のキャンパスには、グラウンドや体育官などの運動施設があり、このことが立地条件の1つとしてあげられる。

 さらに、教養学部には、まさに文科系と理科系の教官スタッフが揃っているので、領域横断的な研究を行うには、最も良い環境が整っているといえる。

 生命環境科学系では、生物学、生物物理学、生物化学、体育学、心理学、教育学の研究スタッフが、お互いに協力しあって教育研究にあたるので、幅広い視点から、体育学・スポーツ科学の研究を行うことができるというメリットがある。

 具体的なイメージを描くことができるように、各教官の研究分野や研究内容の概要を示すことにする。入学試験を受験する場合には、指導教官(複数指名可能)を決め、あらかじめ指導教官とよく話し合った上で、研究の内容などを理解し、受験するシステムになっている。

中嶋寛之:とくに、スポーツ種目による外傷特性の分析や、さらにそれを受ける固体の身体的特質の関与についてスポーツ整形外科的な立場から研究する。(運動適応科学講座)

戸刈晴彦:ボールゲームを対象に、生理学、バイオメカニクス、ゲーム分析などの手法を用いて、運動強度、運動形態を明らかにし、体力及び体力トレーニングとの関係を研究する。(認知行動科学講座)

福永哲夫:人体筋の構造を超音波、MRI法などの装置を用いて測定し、筋パワー等の機能との関係を明確にする。さらに、スポーツ成績の制限因子を分析し新しいトレーニング方法を開発する。(運動適応科学講座)

小林寛道:陸上競技の競技力向上に関する体力科学、生理心理およびバイオメカニクス的研究身体運動と「気」に関する研究、トレーニングに関する行動適応学的研究。(認知行動科学講座)

石川旦:体育の原理および体育・スポーツの国際的な比較の研究。人間の身体運動の科学的研究と個人の生涯の各段階の必要性に応じて、効果的に運動を実践するための一般的な理論と具体的な方法論を提示する。(認知行動科学講座)

堀準一:スポーツ活動時に生ずる歯牙、顎、顔面ならびに脳における障害を防止するためのマウスピース、およびマウスガード等の効用について研究する。(運動適応科学講座)

跡見順子:運動やストレッチングなどの機械的刺激が筋などの生体に及ぼす影響を、主に動物および細胞を用いて生化学、細胞生物学、遺伝子工学的手法により解析している。(運動適応科学講座)

大築立志:運動神経生理学・バイオメカニクスの立場から、ヒトの随意運動の巧みさを決めるメカニズムを研究。(認知行動科学講座)

渡会公治:スポーツによる障害の研究。スポーツに随伴する外傷の分析と、スポーツマンにみられる使いすぎ症候群の要因を研究する。(運動適応科学講座)

川原 貴:医学的立場から、トレーニングに対する適応や運動療法、スポーツによる障害などを研究している。(運動適応科学講座)

山田 茂:骨格筋肥大の機構、骨格筋萎縮の機構骨格筋の可塑性の遺伝的背景などを生化学的手法を用いて研究する。(運動適応科学講座)

石井直方:生体運動(筋収縮、身体運動、トレーニング効果など)のしくみを分子から個体レベルにわたる視野で調べる。(運動適応科学講座)

深代千之:専門はバイオメカニクス。ダイナミックな身体運動のしくみを、スポーツ動作の3次元解析や競技選手の筋の出力特性などから、力学的・生理学的手法を用いて究明する。(認知行動科学講座)

小嶋武次:身体運動は、その目的に応じて特有な様式をとる。現在、ボール投げとサッカーのキックを対象にし、それらの様式がなぜ目的にかなっているのかを、コンピュータシミュレーションを用いてバイオメカニクスの立場から探っている。(認知行動科学講座)

松尾彰文:陸上競技トラックレースのスピード、ピッチおよびストライド変化に関する研究やいろいろな動作でのパワー発揮特性を追及する研究を行っている。(運動適応科学講座)


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