15世紀〜17世紀にかけてのいわゆる大航海時代、船乗りの死因の第一位は壊血病(スコルビー)であった。18世紀になって柑橘類がこの壊血病に効くことがわかり、今世紀になってその抗壊血病因子が分離されアスコルビン酸と命名された。これがビタミンCである。ほとんどの動物はこのビタミンCを肝臓で合成できるが、我々霊長類はビタミンC合成酵素をコードする遺伝子が壊れているために自分では作ることが出来ず食べ物から摂取しなければならない。欠乏すれば壊血病になってしまう運命にある。そのかわり、犬や猫は見向きもしない柑橘類をおいしく感じるように選択されてきたのだろう。

 このビタミンCを培養液に加えて細胞を培養すると面白いことが起きる。それまで単層で増殖してきた細胞が幾重にも重なりながら増殖を続ける。我々はマウス由来の細胞株であるBC3H1にビタミンCを加えながら培養すると多核の骨格筋細胞に分化することを見いだした。ビタミンCは細胞同士をくっつけて多細胞組織を構築するために重要な細胞外基質成分の一つであるコラーゲンに大きな影響を与える。上の図はBC3H1細胞をコラーゲンのタイプJに対する抗体を用いて蛍光染色したものである。ビタミンCが無いと細胞質内に点状にコラーゲンの前駆体が蓄積しているが(A)、ビタミンC存在下ではコラーゲンが細胞外に分泌され見事なメッシュワークを形成する(B)。このコラーゲンには他の細胞外基質成分が結合し、さらに様々な成長因子が結合するらしい。この複合体が筋細胞へ分化するのに適した微環境を作るのだろうか。これに似た微環境が胎児の身体の特定の領域で形成されることで筋細胞の分化が始まりそこに筋組織が構築されるものと想定して、この細胞外基質−成長因子複合体の研究を行っている。

(教養学部 生物学教室 松田良一)


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