われわれ多細胞生物も、もともとは1個の卵であった。これが受精し、分裂を繰り返し、発生していく。その第一の段階は細胞が2つになることである。写真はウニの卵が1回目の分裂を行っているところで、アクチンという蛋白質でできた繊維構造(一本の太さ、6nm)を蛍光色素で選択的に染め、蛍光顕微鏡で観察したものである。ウニの卵も、ネズミの卵も、ヒトの卵もほとんど同じ大きさで(直径役0.1mm)、全く同じように分裂していく。写真の中央のくびれた部分に、光るリングが見える。これはアクチン繊維が数千本も集まった束でできており、「収縮環」と呼ばれている。この構造の中にはミオシンという蛋白質も含まれており、私達の筋肉の収縮と同じように、アクチン繊維とミオシン繊維の間の滑り運動によって収縮し、細胞をくびり切ると考えられている。このような分裂のしかたは卵細胞に特別なものではなく、全ての動物細胞が共通に行っているやり方であることが分かってきた。ここで面白いのは収縮環は細胞が分裂する直前までは存在せず、分裂が起こる直前に正しい位置に作られてすぐ収縮を始め、分裂が終わると再びすぐに消えてしまうことである。分裂が起こる位置がどのようにして決まるのか、収縮環がどのようにして作られるのかはまだ分かっておらず、私達の研究課題である。細胞は様々な運動を行うがその多くは収縮環のように作られたり壊されたりする、アクチン繊維でできた収縮構造によっている。細胞分裂の研究はこれらの問題をも解く鍵となるものと期待されている。

(教養学部 生物学教室 馬渕一誠)


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