第89回 XRCC1

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DNA修復はすべての神経変性疾患に関わるのか?

 

 47歳の婦人の症状から興味深いことが分かってきた。この婦人の先祖は東インド地方におり、41歳で小脳萎縮、四肢の失調、視覚の運動失行そして末梢のニューロパチーと診断され、進行性の小脳失調症とされた。エキソームシークエンスの結果、異常はXRCC1遺伝子の変異であることが分かった。2つの異なる変異を両親から1つずつ受け継いでいたのである(Nature 541, 87, 2017)

 

 そこでXRCC1の機能を調べなければならない。もともとこのタンパク質は、DNA鎖切断のときに局所にリクルートされるタンパク質で、これを足場に修復酵素や各種タンパク質が来て、最終的に切断点が元通りになることが知られていた。まず、患者の初代繊維芽細胞では、XRCC1 mRNAとタンパク質が減少していることが分かった。XRCC1結合タンパク質であるDNAリガーゼIIIαも同様に減少していた。XRCC1がないと死んでしまうので、少量の残存XRCC1によって胎児期の死亡を防いでいるのだろう。XRCC1は通常は核内の核小体に分布しているが、過酸化水素などで1本鎖切断を起こすと局在が変わり、核全体が染まるようになる。しかし患者細胞では、これが起こらない。

 

 また興味深いことに、小脳失調を起こすことが知られているいくつかの病気の原因変異タンパク質であるTDP1aprataxinPNKPもこのXRCC1複合体の構成成分なのである。DNA1本鎖切断が小脳失調を引き起こすメカニズムが分かれば、治療法も出てくるかもしれない。そこで候補になったのが、ポリADPリボースポリメラーゼ(PARP1)である。これは虚血後の脳変性のときに、ポリADPリボースが過剰に作られているとか、PARP1によるNADの欠乏が見られる、という実験事実から類推された。そこでXRCC1欠損細胞でどうなっているかを検討した結果、ADPリボース量の増加が起こっており、これはPARP1の過剰な活性化のせいであることがわかった。逆にPARP1を欠損させると、ADPリボース量が低下し、XRCC1欠損マウス(コンディショナル、生後欠損)での小脳介在ニューロンの減少が抑えられて運動機能が回復することもわかった。

 

 これらの事実から、以下のことが言える。酸化ストレスによってDNA切断が起こると、PARP1の活性化が起こり、DNA1本鎖切断を修復する第一歩としてポリADPリボースが過剰に作られる。これを指標にXRCC1を含む足場因子群が損傷DNAのところに集積しDNA修復が完了する。ところがXRCC1が欠損すると小脳の細胞が死ぬのだが、このときにはPARP1の異常な活性化が起こっている、というのだ。

 

 まあまあ、かっこいいストーリーなのだが、ここからがダメなところで、著者は一般の神経変性疾患でもこのようなことが起こっているから、PARP1を標的とした薬でアルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病も治る、と述べている。とんでもない話である。昔から、これらの病気では酸化ストレスが高まっているとか、ミトコンドリアがおかしいとか、今回のようにDNA切断が起こっているとか、すべてにXPCC1(とDNA修復)が関与している、などの話が山積している。こう書いた方が論文が通りやすい、見栄えがよいというだけなのだが、病気によって細胞死する場所が違うことがこれらで説明できるか、などもっとちゃんとしたディスカッションがほしい。     (2017.1.12

 

(京都通信2)

 私は、東京大学を定年退官し、今は京都の同志社大学にいる。そこで京の四季をご紹介しているのだが、御苑と御所の違いも知らなかった私も、ようやく地理にも慣れてきた。1月の京都は寒く(夏も暑いが)、雪は降らないものの朝の暗さには気が滅入る。しかし、御苑では桃が咲き始め、白梅も1本に花がつき始めた。客が少ない京都もいいものである。

 

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